第5話 イリーガル・ウイッチ

「楽しいぃぃぃぃいい、これ速いじゃない! 凄いわ、ジョルノって天才ね!」


 ジョルノ、エメット、ニナ、の三人はチャリコにまたがり渓谷を目指していた。


 昨晩、3人はテントで雑魚寝したのだが、ふさぎこんだジョルノにニナがやたらとベタベタ絡み、朝食の時も「ジョルノ、ジョルノ」とウザ絡みする。それでジョルノは我慢出来なくなり、「もう、渓谷でもなんでも行くから、いい加減にして!」と叫び、現在に至る。


 猛スピードで疾走するチャリコをジョルノは運転しながら、「もう、ニナは調子良すぎだよ!」とぼやく。






「ちょ、嘘でしょう!」


 遥か遠くに見える広大な渓谷をジョルノ達が視界に捉えた時、ニナが思わず叫んだ。


 何故なら、このブライトキャニオンと呼ばれる巨大な渓谷地帯を真っ黒で巨大な霧が覆って、薄気味悪く胎動していたのだ。揺らぎ、膨らみ、蠢く、その奇妙で不気味な霧は少しづつその勢力を広げようとしていた。


「イ、イリーガル・ウイッチだぁぁあああ!」


 それを見て、突然エメットが叫んだ。


「僕がこの間読んだ魔道古文書に書かれていたんだよ! これは間違いなくイリーガル・ウイッチだ、やばいよ、逃げなきゃ、死んじゃうよぉぉおお!」


 慌てるエメットが説明するには、大型の精霊石鉱床では極まれに地の不浄が活性化され、歪んだ黒精霊を発生させる事があるらしい。


 そこで生まれた霧により、あらゆる生物は魂を汚されて抜かれ、同じ黒精霊に堕ちてしまう。大陸でも最後に発生したのは100年以上前の話で、その時は多くの騎士団、魔術師団、錬金術師団が犠牲となり、なんとか食い止めたとある。


「あれはうちの騎士達だわ!」


 ニナがジョルノの肩に手をかけ走行するチャリコで立ち上がり、膨大な黒い霧が広がる渓谷の手前を指差す。


 それはここからだと豆粒みたいだが、鉱脈を警備していたファニブル領の騎士や衛兵達が撤退しつつも、「ワーっ、ワーッ」と黒い霧の拡大を止める為、魔法を打ちながら必死に抑えようとしていた。


「これは僕らが近寄っちゃ駄目な奴だ! ジョルノ、チャリコを止めて!」


 エメットの悲痛な叫びを受けるが、ジョルノは不思議な顔で前方の攻防を見ながら声をあげた。


「ねぇ、地の不浄って何なのさ! 僕にはわかんないよ、エメット!」


「ええっ、そこ聞く! あのね、意地悪とか、陰口とか、嘘をつくとか、ずるいとか、人を馬鹿にしたりとか、いじめたりとか、盗みとか、挙句に人殺しとかさ、そう言う人間の汚い部分が積もったのが、地の不浄なの!」


 それを聞きジョルノが叫んだ。


「エメット、僕はそういのが大嫌いだ!」


 ジョルノがきっぱりそう言った瞬間、チャリコのトランクが突然眩い光を放った。


「「「えっ!!!」」」


 三人が同時に驚く。


 急いでジョルノはチャリコを止め後部トランクを開くと、バロウィドの荷物が光を帯び煌めいていた。


「お父様の荷物ってなんなのかしら! 中を見てみましょうよ!」


 ニナがそう言うと、いきなり手に取って分厚い包装紙をビリビリと破いた。ジョルノとエメットも覗き込む。すると美しく装飾された箱が出て来て、それを開いた瞬間、三人が声をあげた。


「「「うわぁ、綺麗!」」」


 中に入っていたのは精霊のお告げが聞けるという特級魔道具【理の天啓】だった。




≪転移せし子よ!≫


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