第4話 そんな事、言うな!
パチパチと焚火が穏やかに弾けている。
「おいしい! 星空の下で食べるお食事は最高よね!」
お腹が空いていたのか、ニナという女の子はもりもりぱくぱくとジョルノの作った夕飯を食べている。
話を聞いて驚いたのだが、彼女は東の貿易都市ファニブルの領主、クレメンテ侯爵家の次女で11歳、ニナ・クラリス・クレメンテと名乗り、ジョルノ達をびっくりさせた。
こんな夜になぜ飛行艇に乗っていたかと言うと、最近このファニブル領近くの渓谷で莫大な精霊石鉱床が発見されたのだが、大掛かりな盗石団一味が狙っているらしいという情報を得た。
そこでニナは「私がそんな奴らぶっ飛ばしてやるわ!」と勇ましく飛行艇に乗り、止めようとした侯爵達を振り切り、渓谷に潜む盗石団に挑んだらしい。
「えっへん、私は白色魔術師だからね、軽く壊滅してやったわ!」
得意げに語るニナを見て、ジョルノとエメットは二重の意味で驚いた。
この世界で魔術師のランクは5つ。下から赤色、橙色、白色、青色、七色と分けられる。魔術学院では高等部でも橙色魔術師は一部の優秀な生徒のみ、それが白色だなんて学生では聞いた事がない。
白色魔術師は騎士団でも上位に位置する有数のランクだ。さらにたった一人で盗石団を壊滅だなんて、二人はギョッと顔を合わせ「なんか色々とこの子、めちゃくちゃだぁ!」と驚いた。
「でも、不思議だったの!」
そんな強くて優秀なニナがなぜ燃える飛行艇で飛ぶ羽目になったのか。実は渓谷に潜む盗石団を「たぁあああ!」と一人で壊滅させた後、飛行艇に乗りファニブル領に帰ろうとした時、突如黒い霧に襲われエンジン部と舵が故障した。
それでファニブル領と反対のここまで彷徨う様に飛んで来た。ニナは「落ちる寸前に防御壁を纏って飛び降りるしかない!」と覚悟を決めていた時にジョルノ達が現れたと言う訳だった。
「だから、私とその黒い霧の調査に行って欲しいの!」
突然のニナの提案に二人はまたも驚いた。
「あなた達はパパに荷物を届けるんでしょう? お願いだけどついでに少し寄り道して頂戴。嫌だなんて言わせないわ!」
その言い方にジョルノはちょっとムッとする。
「あのね、お願いなのに命令するのって変だよ、僕は友達にそんな言い方はしないよ」
ジョルノのその言葉に、今度はニナが必要以上にムッとし語気を荒げる。
「なによ、生意気ね! あなた何色の魔術師?」
「ぼ、僕は錬金術師だから魔術は赤色でいいんだよ」
「ふ~ん、じゃあ、その肝心の錬金術は何色なのかしら?」
「ぐっ! あ、赤色だよ、それが何か問題でもあるの!」
「へ~、そう、つまりあなたは自分よりランクが高い人間の言う事は聞けない、とっても卑屈で小さな人間だって事ね? あー、やだやだ、情けない男だわ」
「むかーっ、性格が悪いよ! そんな事言う暇があったら家に帰れよ、親が心配しているだろ!」
「そんな事は関係ないわ、私は私のやりたい事が大事なの! 親なんか関係ないの! あっ、あなたもしかしてホームシック中なの? やだ、ママが恋しいのかしら?」
ニナのその言葉にジョルノは「むっ」と言って、真っ赤な顔で口を真一文字に結んだ。それを見たニナがにんまりと悪い顔を浮かべる。
「あら、図星? ねぇ、ねぇ、ママって言ってごらんなさいよ、ママって! 早く会いたいよぉ、ママ、大好きだよぉ、ママってね! とんだマザコンね、あなた! 気持ち悪い!」
その瞬間、ジョルノの瞳から大粒の涙がポロポロと流れ始め、顔が妙に怒ったみたいに歪んだ。
「えっ?」
突然の事態にニナはびっくりして、目を見開いた。
「うるさ――い! そんな事言うな! お前はやっぱり性格が悪い! もう知らない、馬鹿ぁ――っ!!」
ジョルノはそう言うとポロポロ流れる涙を拭いながら立ち上がると、テントの方に走って行き、そのままに中に潜り込んだ。
唖然とするニナがエメットの方を慌てて振り向くと、困り顔でため息を吐かれた。
「あのね、ニナ。ジョルノは2年前に両親を事故で失くして、ずっと一人暮らしをしているんだよ」
困惑するニナに、エメットはジョルノの涙の理由を教えてやった。
ジョルノは8歳の時に両親を事故で失くした。親戚もおらず行く当てもない。施設に行くのを嫌がったジョルノを不憫に思い、エメットの両親を含む近所の人達や、バロウィドなどが面倒を見ている。幸い蓄えはあったから、倹約すれば魔術学園にも通えている。ただし、ジョルノに両親の話はタブーだとエメットは言う。
「明るく見えるジョルノだけどさ、僕は人って見えない所で色々な想いを抱えていると思うんだ。だからニナの言葉にさ、ちょっと耐えれなかったんだと思うよ」
そう聞かされたニナは、不思議と上気した顔を浮かべ胸の前で手を合わせ、ジョルノが消えたテントをうっとりと眺めていた。
「私、男の子の涙って初めて見た。か、可愛い、キュンとしちゃった」
何だか変な発言をする彼女を眺めて、エメットは小声で「駄目だ、この子変!」と再び深くため息を漏らした。
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