第3話 ニナとジョルノとエメット

 料理の得意なジョルノの作った夕食はお肉が中心、お野菜は控えめ。


 二人はパチパチ弾ける焚火を囲い、食欲を誘う香ばしい匂いを放つ食事を前に、勢いよく元気に「いただきます!」と声を揃えてから、一気に食べ始めた。


 周囲は真っ暗でとても静か。吹きっさらしの荒野は所々隆起した岩がごつごつと見え、月明かりに遠く浮かぶ台形の巨岩山がぼんやり輝いて見えていた。そして涼し気な風がふんわりと吹き、二人は上機嫌でパクパクと食べ進める。


「ジョルノ、僕はもっと不安で心細い旅になると思ったけど、なんだか楽しいね!」


「うん! ねぇ、エメット、星が凄いよ。王都で見る夜空とまるで違うよ」


 パンを手に持つジョルノは、焚火の明りを受けた顔をあげたままそう呟いた。

 

 広大な天蓋には無数の星々がまるで降って来そうな勢いで光を放ち、その煌めきが零れんばかりに輝いている。食事に夢中だったエメットも顔を上げると、「うわぁ、確かにすごいや」と思わず声を漏らす。


 美しい情景が夢の様に広がり、二人がクリエミスの炭酸ジュースの入った木のコップを掲げ、「旅の思い出にかんぱ~い!」とにこやかに打ち付けた瞬間だった。



 ドォッゴ――ンン!!!!



 突然、何かが激しく爆発する音が荒野に鳴り響いた。


「エメット!」


「ジョルノ!」


 互いに二人が顔を見合わせた瞬間、甲高いエンジン音が悲鳴の様に上空から轟いた。同時に二人の僅か数十メートル頭上を、耳をつんざく凄まじい爆音と速度で駆け抜けた物体があった。


「「飛行艇が燃えている!!!」」


 穏やかだった闇夜に、突如火球の様な炎と長く伸びる黒い煙を吐き出す小型飛行艇が、暴風と共に彼方へ向かう。


「大変だ、墜落しちゃう! エメット、行くよ!」


「えええっ、ジョルノどうするのさ!」


 言うが速いか、ジョルノは木皿を置くと走り出し、素早くチャリコに飛び乗るとエンジンを始動させた。一気に火を入れられた鉄の馬がドルンドドドッオオ、と咆哮をあげる。遅れてエメットも首にぶら下げていたゴーグルを装着しながら、慌てて後部座席にまたがった。


「いっくぞぉおお!」


 その声と同時に、チャリコはフロントを持ち上げ、後輪が唸る様に回転すると、地を激しく蹴りトップスピードで駆けて行く。「うわぁああああああ!」と叫ぶエメットが、ジョルノの肩越しに首を出し必死に前方を見据えた。


「ジ、ジョルノ! 高度がぐんぐん下がっているよ、間に合わない!」


 既に数百メートル以上も離れ、火を噴き黒煙を派手にまき散らす小型飛行艇が見えるが、もう地面まで10メートルもない。


「任せて! 精霊ターボチャージャー、オン!」


 ジョルノが叫び、ハンドル周辺にある無数のボタンのひとつをグーで叩いた。


 途端、エンジン部より黒光りするファンが幾つもびゅんと飛び出し、後部に伸びるマフラーの口径が一気に開放される。同時にゴォオオオという凄まじい吸気音とキィ――ィンンという機械音がうなりを上げ、エンジンにはめ込まれた精霊石の全てが七色に激しい輝きを放ち、チャリコの後輪がギュルルルと唸りをあげた。


 ドン!


 途端、爆発したのかというとんでもない加速で、竜巻の様な凄まじい砂煙を巻き起こし、「「うわぁああああ!!」」と叫ぶ二人の絶叫と共に、チャリコはあっと言う間に今にも落ちそうな飛行艇の真横へと到達し並走する。


 そこでジョルノ達は信じられないモノを見た。


 激しい炎と爆発音、そしてもうもうと沸き起こる膨大な黒煙。そんな大惨事の飛行艇の先端部で、コクピットのキャノピーが開かれ、なんと同い年くらいの女の子が、堂々とした姿で風を受け長い髪をたなびかせ、運転席を足場に立ち、凛とした瞳を向けこちらを睨んでいた。


「丁度よかったわ! 私はニナ! いくわよ、とぉぉぉおおおおお!」


 いきなりだった。


 女の子は突然、頭上よりジョルノ達のチャリコに向かって果敢に跳躍し、ダイブして来た。


「「嘘でしょぉぉぉぉおおおおおおお!」」


 二人の悲鳴が響くが、直ぐにジョルノが「エメット! ハンドル持って!」と言い、腰を浮かせ両腕で構えた。


 ドッス――――ン!


 ジョルノが飛んで来たニナという女の子を受けとめると、チャリコが大きく揺れた。その女の子の足がエメットの頭にぶつかり「痛っ!」と声がする。


 同時に飛行艇が遂に地面に激しく激突してしまう。


 ジョルノが「やばっ!」と叫び、ニナを抱えつつ急いで片方の手でハンドルを握り締め、アクセルをこれでもかと全開で煽る。3人の悲鳴が「「「うわぁぁあああああああああああ!!!」」」と響いた。


 後方ではおびただしい爆発音が幾度も起こり、強い衝撃波と熱風がジョルノ達を襲うが、チャリコは迫り来る爆炎から猛加速し、3人は荒野に絶叫を轟かせながらなんとか脱出した。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る