第2話 旅とチャリコ!

 夏空を象徴する巨大な入道雲が広がり、眩しく輝く太陽と抜ける様な青空の下、延々と大地に伸びる街道。


 王都から東の貿易都市ファニブルまで、馬車で10日かかる。その長い街道を奇妙な乗り物が砂煙を長くたなびかせ、凄まじい速度で突っ走っていた。


「ジ、ジョルノ、少しスピードの出し過ぎじゃない!」


「えっ? なに?」


「だから、スピードの出し過ぎだよぉぉおおお」


 その姿は馬車に使用する車輪を改造したものが前面に1メートル程の間隔で二つ設置され、後輪部は少し太めの車輪が一つ。座席は長いシートがつけられ、ボディからは煌めく複雑な機械がその様相をむき出しにし、精霊石が幾つも嵌め込められ輝いていた。


 ドン!


「「うわっ!!!」」


 大きな段差を乗り超え、ゴーグルをつけたジョルノとエメットが同時に声を出し、その乗り物が一瞬だけ大きくジャンプした。そして着地と同時に、3つの車輪に付けられたダンパーが上下左右に揺れ、ショックを吸収する。


「あははははは、楽しいね、エメット!」


「僕は怖いよぉ! ジョルノ、もっとゆっくり。ねぇ、もっとゆっくり!」


 風を受け髪をばたつかせ絶叫するエメットを無視し、ジョルノは軽い前傾姿勢のまま、少しだけ湾曲したハンドルをグイグイ操作する。真後ろに連なって座るエメットは吹き飛ばされないように、「もう、ジョルノぉぉおお!」と非難の声を上げ、シートの取っ手をしっかり握った。


 このメカニカルな乗り物の名は「チャリコ」。


 バロウィドとジョルノが二人で開発した馬車とは違う鉄馬だ。そのコンセプトは地上を走る飛行艇で、本来なら流線形の風防がつけられるのだが、まだ製作途中の為、こんな内部機械が剥き出しの姿で走っていた。


 その動力は精霊石。大地の魔獣が死に精霊の慈しみが降ると、その身体が小さな精霊石となる。その石には魔力とは違う不思議な力が宿り、様々なエネルギー源として魔道文明を支えていた。


 さて、2人の乗るチャリコが爆走する少し先に乗り合い馬車が見え、凄い勢いで近づいて行く。


 すると荷台に座る大人達は驚きの表情を浮かべ、同時に小さな子供達が見た事もない乗り物に爛々とその瞳を輝かせ、「わぁ、わぁ、すごーい!」と歓声をあげそのちっちゃな腕をブンブン振る。


「こんにちは! お先に~!」


 ジョルノがハンドルから片手を離して子供達に手を振り、目を見開き驚愕する馬車の御者に、軽く頭を下げ挨拶した。


 チャリコは最大で馬車の3倍の速度が出せる。ジョルノとエメットは、貿易都市ファニブルの領主クレメンテ侯爵邸を目指す。


 昨日、困り果てた魔具師バロウィドを見かねて、ジョルノが「僕が配達するよ!」と名乗り出た。バロウィドは仕事が山積みで動けない、宅配業者では間に合わない。そこでこの開発中のチャリコのテストも兼ねて、残り5日しかない納期を守る為にジョルノとエメットが行く事になった。


 普通なら不安に思う所だが、バロウィドは「いいぞ、男の子は旅で逞しくなるもんだ、行ってこい!」と面白がり、すぐに周囲の大人達を説得した。勿論、謝礼金も出す。こうして二人は夏休みの短期バイトに雇われた形となり、翌日の早朝から早速チャリコをぶっ飛ばし旅に出たのだ。





「ようし、今日の宿営地はこの辺にしょうか? ねぇエメット」


「ぜぇ、ぜぇ、そ、そうだね。そうしてよ、と言うかもう止めて」


 すっかり陽も暮れているが、チャリコには夜間走行用のライトが五連装で前面に設置されている。急ぎ旅の二人は明るく照らされた街道をギリギリまで走った。


 ちなみに運転席側にはこれでもかって程の計器類がつけられ、天気予報まで出来る。この無駄な計器類は勿論ジョルノの趣味だ。


 ここは街道を走る馬車達の為に設置された宿営スペースとはまるで違う。だだっ広い荒野にチャリコを止め、そのまま野宿だ。


「僕が夕食を作るから、エメットは魔法で軽く整地してテントを張って!」


「はぁ、はぁ、わかったよ、ジョルノ。でもその前にぼくは断固休憩する。止めるなよ、君の運転は荒すぎる、胃がおかしくなりそうだ……」


 エメットはそう言うとペタリとその辺の岩に腰を降ろし、肩からぶら下げている水筒を開くと、クリエミスの炭酸ジュースを一気に煽った。


「エメットは大袈裟だなぁ、飛行艇のパイロットになったらもっと早いんだよ」


「あのねぇ、ぼくの将来は魔導書解析官を目指してるって知ってるだろう? パイロットとかスピードとか無縁なんだってば」


「はははは、エメット、あのね、僕は将来の夢って言うのはさ、努力を引き出す燃料みたいなものって思うんだ。だからさ、僕は色んな夢を抱え込んで楽しく努力する方が頑張れると思う!」


「そ、それはそうだけど……」


 真面目なエメットは、たまにジョルノが何気なく言う言葉に、考えされられてしまう。何となく自分が考える理屈の外をジョルノは走っている、それが堪らなく不思議だった。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る