バニージャックジャニージューク

エリー.ファー

バニージャックジャニージューク

 この街には、バニージャックジャニージュークがいる。

 見たことはない。

 けれど、大人たちは必ずと言っていいほどバニージャックジャニージュークについて語る。

 バニージャックジャニージュークのおかげで街の平和が守られている。

 バニージャックジャニージュークのおかげで嵐が来なかった。

 バニージャックジャニージュークのおかげで出生率が高い。

 誰も、バニージャックジャニージュークを疑っていない。

 誰もが、バニージャックジャニージュークを信じている。

 誰一人として、バニージャックジャニージュークに唾を吐かない。

 ある日、ホームレスの死体が鉄塔の一番上に突き刺さっていた。

 そこには黒いペンキで。

 すべてはバニージャックジャニージュークの名のもとに。

 と書かれていた。

 街は歓喜の渦。

 僕は、一人、寂しく感じていた。

 バニージャックジャニージュークはいつから現れたのだろう。

 僕の知る限り、幼稚園の時も、小学生の時も、中学生の時も、いなかったように思う。いや、正確には誰も口にしていなかった。

 ある瞬間から発生して。

 ある瞬間から過去が書き換わり。

 ある瞬間から常識となった存在。

 バニージャックジャニージューク。

 正体を暴きたいと思った。

 街のみんなの目を覚ましてやりたいと思ったのだ。

 僕も、その街の一人ではあるのだけれど。

「誰か、協力してくれないかな」

 街が僕を睨む。

 味方はいない。

 僕一人の戦いとなった。

 正直なところを言えば、僕はバニージャックジャニージュークに何かされたというわけではないのだ。むしろ、この街にいるおかげで恩恵を受けていると言ってもいい。

 けれど、それでも何か不安なのだ。いや、それ故に不安なのだ。

 僕の上位存在がいて、僕以外は無条件で受け入れていて、僕だけが街の中にいながら外にいるような寂しさを感じていて。

 僕は街が好きだ。ずっと住んでいたいと思っている。何年も、何十年でも、何百年でも、何千年でも、この場所にいる僕を愛していたい。

 今年で二千百十二歳になる僕はまだまだ、子どもであり、この街のすべてを知ることができる立場にはいない。

 街を囲う高い壁と天井は、外で起きている核戦争から身を守るために、先祖が作ったと聞いているが、本当かどうかは分からない。

 二千百二十歳というのも、この街と外の世界では時間の速度が違うので、一年に一度だけ年をとるような計算ではいけないとバニージャックジャニージュークが決めたとされているがよく分からない。

 僕の体は、この街の人たちと一緒だけれど、この街の外にいる人間と比較したことがないので、僕が正常かどうかすら分からない。

 本当に、何一つ。

 砂粒一つ。

 僕に関わるほんの些細なことでさえ。

 正確に理解できているとは言えない。

 バニージャックジャニージュークは、神様であるとされている。

 何もかも決めることができて、どんな幸福も、どんな不幸も、僕たちに与えることができるそうだ。

 しかし、不思議なことにバニージャックジャニージュークは雇われているらしい。つまり、バニージャックジャニージュークにも上位存在がいるそうなのだ。

 バニージャックジャニージュークは、上級研究者で大規模な実験棟の管理を任されているらしい。

 まぁ、もちろん、すべて噂だ。

 本当なのかどうかすら怪しい。

 何故、そんな仕事をしているのか。

 そして、その情報がこの街とどう関係しているのか。

 僕はまだ分からない。

 まだ。

 分からない。

 ということにしておきたい。

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