プロローグ 歌舞伎町の沖田くん5
「うん、大まかには合ってるな。その通りだ、売春だから」
「そんな」
「本当だから仕方ない。言いづらかったろ、ごめんな。さ、行こう」
そう促されて、私は沖田くんの後をついて、駅へ向かう。
訊きたいことがいくつもあった。
でも口に出せない。
私が沖田くんに言っていない、いや、決して言えないことがあるのに、彼のことを一方的に聞き出すというのは気が引ける。
「しかし、知り合いに現場を見られたのは初めてだ。もう少し注意しないといけないな」
「私、本当に誰にも言わないから」
「分かったよ。もう信じてる。衿ノ宮って、いいやつなんだな」
いいやつ。
そんなことはない。
沖田くん。
私は、沖田くんが、寂しそうな顔で、同年代の男子と裸になって抱き合うところを、毎日想像しているよ。
沖田くんが出したこともない声を出して、見せたこともない表情になって、のけぞってすすり泣いているところを、すました顔で頭の中に大展開させてるよ。
私はそういう趣味の持ち主です。
そして、さらに、それだけでもないのでした。どの面下げて、とは自分でも思います。
でも、私は、沖田くんのことが――
罪悪感と緊張感で、過呼吸になりそうだった。
きっと顔は真っ赤に上気している。
消え入りそうに恥ずかしくて、どうか前を歩く沖田くんが振り向きませんようにと祈った。
ビルの波がふっと途切れて、新宿駅東口が覗く。
その手前にある赤信号が、ずっと変わらなければいいのに、と思った。
沖田
私たちがまともに会話した、これが初めての日だった。
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