プロローグ 歌舞伎町の沖田くん4

「……なんとなく察しがつくと思うけど。まあ、その。……小遣い稼ぎ、のようなこと」


小遣い稼ぎ。なにをして、どんな小遣い稼ぎ?


「衿ノ宮。今見たことは、学校では……ああ、いや、いいや。別に、言っても」


「え?」


沖田くんの視線が、ふっと私から外れる。


「弱味握られたり、人に借り作るの好きじゃないんだ。自分のしてることの責任くらい、自分でとる」


「い、言わない! 誰にも言わないよ! 言うわけない!」


沖田くんがぎょっとして、また私と目が合った。


「……ありがとうよ。おれに恥をかかせまいとしてくれるってわけだ」


沖田くんの言葉はお礼の形ではあったけど、私との間に、なにか冷たい線が引かれたのを感じた。


違う。うまく言葉にできないかもしれないけど、今すぐに、違うと伝えなくちゃいけない。


「恥ずかしいことかどうかは知らない。私には事情は分からないけど、それなら、分からないうちに私が勝手に人に話すのはだめだと思う。そんなことしたら、私が恥ずかしいよ。だからそうしない」


沖田くんは、小さく口を開けたまま、ぽかんと私を見た。その口が、やがて動く。


「衿ノ宮は、おれの噂を聞いて、張ってたりしたわけじゃないんだよな」


噂。


それは聞いていた。


だから、最初は無理矢理に、あのおじさんはお父さんなのだと思い込もうとした。


「噂は……知ってる。でも、ここにいるのは本当に偶然だよ」


「だよな。そうじゃなきゃ、あんな風に止めたりしないよな。ごめん、衿ノ宮。おれ、すねた考え方がくせになっちゃって」


沖田くんは照れたように笑った。昔、おばあちゃんがもらってきた岩垂草いわだれそうが咲いた時の、その花に似た笑顔だなと思った。


「ううん。私だって、人にちゃんと説明しないと……説明したって、分かってもらえないようなこともあるから」


「誰だってそう、か。確かにね。ちなみに、噂、どんな風に聞いてる?」


私は息を吞んだ。


けれど沖田くんは、困ったような笑顔で、親に怒られてでも捨て犬を守る子供のように、怯えを含んだ穏やかさで訊いてきていた。


答えなくちゃいけない。


「一度だけ、聞いたことあるの。……新宿とか池袋で、なにか悪いことをして、大人からお金をもらってるって」


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