第137話 強い奴に会いに来た①
(まだいるな……)
食べ過ぎたから早く横になろうと、ベットに入る前に窓から外を見ただけで分かる気配。喧嘩一無双大会で事件があったぐらいから感じていた怪しい気配だ。
最初は例の魔術師が残した監視役かと思っていたが、それにしては隠れ方が雑に感じる。庭の茂みに隠れきれない体の一部が窓から見える。
単独行動中のようで探索スキルで見る限り他に仲間はいなそうだ。
一応警戒はしているようで家の中には侵入しようとしてこない。
そもそも勝手に入ろうとすると妖精達の標的にされてしまう。盗賊程度なら、待ってましたとばかりに痛い目にあうだろう。
「取りあえず鑑定……ガビー、男、LV54、兎人族、集音士、スキルは地獄耳か。この職業は初めて見るかな」
思わず鑑定を口にしたのが悪手だった。そのガビーとやらが慌てるように茂みから出てきてしまった。
こちらは窓も開けず、家の中で呟いただけなのにまさか聞こえているとは思っていなかったのだ。
あちらさんもまさか自分の存在、名前、レベル、職業までズバリ当てられるとは思っていなかっただろう。出てくる気持ちも分かる。
脱兎のごとく逃げるのかと思いきや、こちらに向かって「どーも! どーも!」とぺこぺこと頭を下げている。警戒しつつも話をしてみることにした。
私が庭に出て近づくと
「突然さーせん。怪しい者でござーせん。僕のことはご存知とは思いますが集音士のガビーでーす!」
兎人族なのに小太り。身軽さが感じられない。おっさんにうさ耳を付けてしまったかのような姿がショックすぎて私の何かにダメージを与える。
「……ケーナです。ずっといましたよね?」
「はい、ずっといやした! 声をかけるタイミングが全然見当たらなくてー。ずっとモジモジしちゃったんですー」
「ずっと耳出てましたしたよ」
「あ、どおりで、こちらを向いてる気がしたしたんすよもー」
茂みに隠れきれていなかった、兎人族の特徴とも言える耳の事を伝えた。
「何か御用ですか?」
「えっと、大変申し上げにくいのですがー、申し上げなければならないのでー、申し上げますとー、仕える主がおりましてー、その主と結婚してください!」
「ごめんなさい!」
この手の話は、早めにきっぱりと明確に断るのが一番だ。
「ちょ、ちょ、ちょっと! いくらなんでも早すぎますってー、もうちょっと聞いてくださいよー。僕の立派なお耳も残念で垂れちゃったじゃないですかー」
「その話、長い?」
「全部聞いていただけると嬉しいでーす!」
ほっとけばいいもの私がミスをしたのが悪かったと思い、話を聞くだけだと伝え家に入れた。
聞くとは言ったものの先ほどのショックせいでほとんど頭に入らず。ハクレイが代わりにしっかり聞いてくれていた。
要点としては、その主は自分より強い者としか結婚できず、喧嘩一無双大会では結婚相手を探しに来ていたそうだ。しかし大会中に怪我をしてしまい代わりに探していたとのこと。
それが私だそうだ。
そして主はあの剣士だそうだ。名をセリと言うらしい。
「あの、わけわからん奴を消したのはホント凄かったですよもー」
「あれ、私じゃないから」
「何言ってるんですかー。全部聞いてましたよ! 隠さないでくださいよー。僕たちの仲じゃないですかー」
「こんなに浅い ”仲” は初めてだよ」
あの耳のせいで誤魔化す会話までも全部聞かれていたのかと思うと余計に警戒してしまう。
「私もセリのことが気になってたんだよ。っていうと誤解されるから言いたくなかったけど、正直あの強さには驚いてたよ」
「さすがお若いのにお目が高いー。次期魔王も伊達じゃないー」
「だから結婚相手は無理だけど仲間になってもらえないかなとは思ってたんだよね」
「まずはお仲間からって事ですねー。慎重ってかピュアで素敵!」
「教会に運ばれたって聞いたから、明日会いに行こうと思ってたからそこで本人と話すよ」
「後は若いお二人に任せてーってことですねー。はいはい分かってますよー、僕はお口にパラリシス」
本当に魔法をかけて黙らせようかと殺気を立てたのがハクレイに伝わったのか、私の手をギュッと握って目で「抑えてください」と訴えてきたのがよく伝わってきた。
一通り話し終えるとスッキリしたのか
「アザーっす。では明日教会で待ってまーーす!」
と言ってウキウキで帰っていった。
「ハクレイ、玄関に塩……、じゃもったいないから聖水でも撒いといて」
「何かの対策でしょうか?」
「ただのオマジナイだよ」
塩の方が値段的には安いけど、この異世界での調味料は値段に関わらず貴重だから食べること以外にはあまり使わない方がいいかな、と思い聖水にしておいた。
聖水があの無駄にレベルの高い兎に効果があるかは分からないけど。
「明日さ、教会行くときハクレイも付いて来てね」
「もちろんそのつもりです」
「私1人だったら……」
「彼死んでますね」
ハクレイもかなり考えを読んでくれているようだった。
翌日、空は晴れ渡っているが、私の心は曇ったまま。またあの兎人族に会うことを心が拒絶している。
それでもセリと話したいし、仲間にしたい気持ちが僅かに勝ったので予定通り向かうことにしたのだ。
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