第138話 強い奴に会いに来た②

 教会に到着したのだが、私の知っている教会は既になくなっていた。

 今ここにある建物を例えるなら、大きな病院だ。礼拝堂がおまけに感じるほどの大きさだ。


 修道女に聞いてみると、聖人様のおかげで多額の寄付金が集まり、その寄付金で教会の改築、増築を繰り返したところ今のような大きさになったそうだ。


 とりあえず形だけでもお祈りして待っていると、ガビーに声を掛けられ、セリが休んでいる部屋まで案内してもらうことに。

 

「セリ様! セリ様! おー連れしましたよー」


「入れ」 


 ドアを開けるとベットの上で下着姿のセリがせっせと筋トレを姿があった。


「セリ様!! まだ寝ていないと体に障りますって」


「もう十分休んだ。で、どっちだ」


「手前の娘でございまーす」


「次期魔王と聞いて期待してたが随分若いな。ガビー、何かの冗談か?」


「そ、その様なつもりはございませーん。こちらのケーナ様の強さは折り紙付きでございまーす」


「あのバケモノを倒したことが本当ならそうなのだろうが」


 私も挨拶をしようとしたが、ブラを付けていたので急遽鑑定眼を発動。示した性別で戸惑ってしまう。


「あ、あの……。セリさんって女?」


「そうだ」


「今日って結婚がどうこうって話じゃないの?」


「そうだが、この国では女が女を嫁に貰うのは変なのか?」


「いえ、珍しいもので。でもどうして私なのかな?」


「そうか。選ばれた理由は、私より強い。と見たからだ」


「でも結婚したとしても私達じゃ子を成せないと思うけど」


「子が欲しいのか? 安心しろ。受け継いだ特徴は頑丈な体ぐらいだが、こう見えても鬼の末裔だ。一応魔族のように魔力で子をなすことができるさ。次期魔王というならそれくらい知ってるだろ」


「知ってるけど……私はまだ子供はいいや」


 体格からどう見ても男。おっぱいも雄っぱいだ。闘技場でも見た目のままの性別だとばかり思っていた。


「なんで大会では男のように振る舞っていたの?」


「男のように振る舞うのは癖みたいなものだ。男ってのは女相手に全力で勝負しないだろう? だから私を知らない相手には性別を悟らせないようにしてるんだ」


「それで全力で勝負してセリさんに勝った相手に結婚を申し込むと」


 男からしたら冗談ではない。負けたとしてもショックだし。勝てたとしても人族が望む女性像とはかけ離れている。


「強さを求めるのは私の本能のようなものだからな。譲れないんだよ。そこを妥協して結婚しても上手くはいかない。何かあれば ”私より弱いのに” ってなってしまうのが目に見えている」


「じゃ、昨日の相手とは結婚しないの?」


「制御できない召喚士など未熟も未熟。勝負にすらなっていない。召喚されたバケモノは確かに強かった。が、あれは理性の無い獣のようなもの。結婚など無理に決まってる」


「そうか。それじゃ仕方ないね。いい旦那さん見つかると良いね。応援してるからね」


「おい! 何を言ってる。私とひと勝負するだろう。強い嫁でも私は構わん」


「私は結婚なんて考えてないよ。でもセリが負けた時、私の仲間になってくれるのならその勝負してももいいけど」


「嫁ではなく魔王の仲間になれと。それでいい。結婚するには見た目が若すぎるからな。もうちょっと後でも私は構わない」


「だから、結婚はしないって。ちなみにセリが勝ったらどうするの?」


「そうだな。普段はあまり要求などしないのだが、折角だ剣でも拵えてもらおうか。次期魔王から賜った武器ともなれば箔がつく」


「剣ぐらいいいよ。余ほどの自信があるんだね」


「何を言ってる。ケーナはあのバケモノに勝ったのだろ? どこにそんな強さがあるのか教えてほしいぐらいさ」


「でも勝負はいつ、どこでするの?」


「そんなの今、ここでするに決まっているだろう」


 そう言って私の前に立つと、両腕を軽く広げ手をにぎにぎとアピールしてくる。


「力比べは苦手か?」


 剣士なので剣が最も得意なのだろうが、私に対してそれを使わないのはセリなりの手加減なのかもしれない。


「構わないわよ。手四つの力比べ。ルールは?」


「先に膝が床についた方が負けだ」


 身長差、体重さ、誰が見ても有利なのはセリ。

 だがそれは、見た目だけの話だ。


「いいな、その自信に満ち溢れた顔。だがその余裕も今だけだぞ」


「やっぱり剣で勝負ってのはナシだからね」


「そーと決まれば僕が合図をだしますねー」


 腕を伸ばすと両手をガッツリと握られる。始まる前から劣勢のような形。既に重さものってきている。


「よーーーーい。始め!!」


 掛け声と同時に一気に勝負を仕掛けてきたのが分かる。スキルを発動させ、両手に力が込められる。

 女性とは思えない圧力。鬼の血が流れているせいで一般女性の限界を軽く超えている。


 だが、それぐらいで私の腕も膝も折れることは無い。


「涼しい顔して、面白いじゃない」


「セリも血管浮き出る顔で面白いよ」


 と煽ったと同時に、圧力が2倍、3倍と上がっていくのが分かる。


 セリは息を止め、唸りながら私の体を潰そうと必死だ。


 膨張する筋肉が赤い湯気を出している。魔力をエネルギーに変換させ筋力を上昇させている。


 私は素の状態でもSTRとVITが高いおかげで余裕十分。

 

 しかし、一番最初に音を上げたのが床だった。


 ガキバキッ ズボッ


 私の足元の床が一気に抜け、膝まで床に埋もれてしまう。そこで一旦力が弱まり、仕切り直しになるのかなと思いきや。


「はぁ、はぁ、ほらぁ、床にぃ、膝がぁ、ついたぞ!」


 言われて気づく。膝まで埋もれたせいで確かに膝が床についてしまった。思っていたのとは違うが、ルールに従うなら私の負けだ。


「あ゛!」


「セリ様のかーーちーーー!」


 一体どこまで力が上がるのだろうとワクワクしてしまったのが最大の油断。


 仲間になるなら実際にセリの力を受けるのもいいと思っていたので、床のことなんて一切気にしていなかった。


「待った!」


「待ったなーーーし」


「えー、だって床が、私だってまだ本気じゃないし」


「ケーナ、残念だが女同士でそのセリフは効果がないぞ」

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