第136話 最強のきぐるみ②

 周囲に怪しい動きがないか、会話が漏れないかをスキルで確認し、話を続ける。


「あなた達は導師って呼ばれているのでしょ? 随分と偉そうに聞こえるけど、それは今はどうでもいいか。まず、ケーナを狙ったのは何故? えーっとそっちの導師さん。目を開けてお話ししましょ」


 指名されたのはドボックスの導師。インテルシアの導師は転写を受け痛み耐えるだけで精一杯。


「誰も首輪を付けておらんかったからじゃ」


「それってどういうこと?」


「監視役がおらず、わしらの言うことをきかせることが出来んことじゃ。大国同士の衝突は避けたい。そもそもそれがこの導師の本来の役目だからじゃの。バグラにおる現魔王は争いをもとから好まぬからまだ交渉の余地はあった」


「でも、次期魔王は今まで通りいくかわからないから首輪を付けとこうってわけ?」


「まぁそういうことじゃ」


「なら例の巨兵で襲わせたのは?」


「次期魔王については正確な情報が少ないからの。首輪を付けるときに、飼い主が噛まれてはもともこもない。痛手を負うことのないようある程度の力を事前に知っておくのは当然じゃろ」


「力を計るためってことね。はいはい」


「おぬしは次期魔王の手下なのか」


「手下? 違うわよ。そんなんじゃない。ケーナの事を調べておきながら、私の事は本当に知らないのね」


「猫の着ぐるみの情報など皆無じゃ。違うと言うならいったい何なんじゃ? なぜこんなことをする。金が望みか?」


「私の目的はあなたたちのような支配欲の塊からケーナを守ることよ」


「それだけなのか?」


「ええ、それだけよ」


「だからわしらを消すのか。だがそれだけでは無理じゃ。導師などただの代表にすぎぬ。替えなどいくらでもおるからの」


「個では無いと言いたいのね。大丈夫、心配いらないわ。相手が個であろうと国であろうと世界であろうと私のすることは変わらないから」


「その自信はおぬしの強さからくるものなのかの? それだけの強さを持っておるのに、次期魔王には従っておるのか? 不憫じゃの」


「残念だけどそれも違うわ。ケーナはこのこと一切知らない。あとから知ることになるかもしれないけど。私が考えて行動するから意味があるのよ」


「おぬしの行動理由は忠義か? 心酔か? 溺愛か?」


「残念、どれも違う。強いて言うなら自己満足よ」


「そんなことで……」


「分かったならちゃんとケーナからは手を引いてね。従えないなら全員消しちゃうからね」


「待て待て、導師は全部で4人おるのじゃ。インテルシアの導師はともかく、ここにいないアヤフローラの導師、おぬしが消してしまったので新たに選出されるオオイマキニドの導師この2人が、首輪を付けに動いてしまうかもしれん。そこまで口は出せんぞ」


「んー。面倒事は少ない方がいいのだけど。オオイマキニドの方はともかく。アヤフローラの方はなんとかしてね」


「ならせめておぬしのことを教えてくれ」


「ケーナが魔王なら私は勇者かな? 勇者にしましょう」


「勇者か……。魔王側に寝返った勇者エクリプスのようじゃの」


「いいね、そのエクリプスって響き。勇者エクリプスは私が使うから。これからはそう呼んで」


「魔王と勇者が繋がっておるなど最悪じゃ……」


「とりあえず以上かな」


 鑑定で四肢を氷漬けにされたインテルシアの導師のHPを確認する。

 魔法で状態を正常に戻し、HPを回復。


 そしてオオイマキニドの導師を空間から引っ張り出す。


 完全に消されたと思っていた2人導師は驚き目を丸くしている。


「話聞いてたよね」


「痛みに耐えながら聞いておったわ、わかっておる。できる限りことはする」

「ああ、真っ暗の中でも声は聞こえていた。そちらの要求は理解している」


「ケーナに関すること以外については、今まで通りにご自由に。でもケーナの近くで争いはやめて欲しいかな。元々その為の導師様だものね」


「わかっておる」


「じゃ、よろしく。伝えたいことが有ればコレと似た猫君を探して、アヤフローラのカスケードの町にいるから。無駄な抵抗をしてもいいけど行動も会話も筒抜けだと思ってね」


 そう言い終えるとその場で姿がスッと消える。


 コピーエーナによって猫君は収納されただけなのだが導師たちからすれば、本当に姿を消したようにしか見えなかった。


 異様なプレッシャーから解放され、ひと息つく導師たち。


「いったい何者なんだ。オオイマキニドの導師を本当に消したかと思っておったわ。そこにずっといたのか? 反応が無かったぞ」


「消滅したかのように完全に存在を隠すなど脅威でしかないの」


 2人の導師は完全に消されたものだと思っていたようだ。


「目の前が真っ暗になってもできる限り抵抗してみたのだが何もできなかった。ついに無の世界へと行き着いたのかと覚悟したが、意識があることに気がつき、話し声まで聞こえてきて、まだ生かされていことがわかった。利用価値があるとみなされたのか……」


「はぁ、ここまでの事をしおって自己満足とは。付き合わされる老いぼれの身にもなってもらいたいものじゃ」


「従うしかなかろう。国のためにも、わしらはまだ魂を消されるわけにはいかんのだから。次期魔王にさえ手を出さねばよいのじゃ、簡単なことじゃろう」


「それにあの人形を操っていた者、本当の勇者ではなくとも警戒すべき者だろう。人形だと侮った結果、導師ともあろう我らがこのざまだ。対抗する手段があるのか?」


「……わからぬ。わからぬがそうではない事を祈る。人族では止められなくなるぞ」


「アヤフローラの導師にはなんといえばいいのやら」


「あったことをそのまま言うしかなかいだろう」


「嘘をついた方がまだましかもしれぬな」


 ため息が重なる。


 また1つ厄介な存在が増えてしまい、今後のことを考えると頭を抱えるしかない3人だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る