第135話 最強のきぐるみ①

「対象が食事を終え、拠点へ帰還したとの報告がありました」


「分かった、下がれ」


 導師たちはケーナの動向を監視させ、召喚魔法結晶がケーナに対してどれだけの効果があったのかを話し合っていた。


「今日はこれで全員かの。アヤフローラの導師はまた仲間外れかのぉ。後が怖いぞぉ」


 今回も集まったのは3人だけ。アヤフローラの導師は呼ばれていないようだ。


「あの召喚魔法結晶から呼び出した未完成の巨兵を、未知の魔法で蒸発させたそうじゃ。この程度ではだめだったかの」


 力量をある程度計れると期待していたが、思い通りにならず残念がるドボックスの導師。


「未完成のクリゾヘリルでも本来なら町1つ壊滅させるぐらいの力はあったと聞く。次期魔王にまつわる噂が真実味を帯びてくることになるな」


 声に不安が混ざるオオイマキニドの導師。


「アデバルディアを持っとるという噂か? あれはアデバルディア自体の真偽が確かめられんからの。巨大な物体を空に浮かべるぐらいうちの魔女っ子たちでもできるぞ」


 噂に否定的なインテルシアの導師。


「まぁ、これはこれで楽しませてくれると思っていいじゃろ。焦ってこちらのことを悟られるよりはましじゃ」


「だったら次は――」


「だったら次は、勇者でもあてがうつもりかしら?」


 予想だにしない少女の声に、3人の導師の視線が一斉に出入り口の方に向けられた。


「一体何者じゃ、どうやってここまできたんじゃ!?」


「ふざけた恰好をして、おい! 誰か! こいつを押さえろ!」


 導師の声に反応する者は現れない。


「ふざけた? まさかこのもふもふ猫君9号のこと? これでも子供たちのハートはわしづかみなのだけれど。あなた達には全然相手にされてなかったってことなのね」


「誰か! 誰かいないのか!?」


「誰もここには来ないわよ。この部屋以外の者は全員眠ってもらっているわ。簡単には起きないようにしてるから安心して」


「くっ、肝心な時に寝とるとは何て使えん奴らじゃ」


「ここは我に任せるがいい。……アイスランスバインド」


 インテルシアの導師が放った魔法は、猫君の腕や足に突き刺さる氷の槍。刺さった箇所から更に凍っていき四肢全体が氷漬けになってしまった。


「勝負あったかの、一体何者なのか洗いざらい吐いて、う、うがああ!あがああ!」


 放ったはずのアイスランスバインドが、自分に刺さっている状況。痛みと混乱で倒れ叫ぶ。


「何をした!」


「お返ししただけです。私に殺意を向けたのだから仕方ないでしょう。でも貴方たちが最初から大人しく話し合いをしてくれるとは思ってませんので」


 自己修復アビリティにより元通りになるもふもふ猫君9号。


「何が目的だ」


「それをこれからゆっくり話しましょう」


 パチッと静電気のような音とともに、発動された魔法はパラリシス。相手を麻痺状態にすることができる、どちらかというと初級の魔法だ。


「今あなたたちには麻痺状態に強制的になっています。耐性があるのに何故だ? って思っているでしょうけど、耐性はスキルレベルダウンの効果によりGまで下げております。最低のスキルレベルFの下、つまりはスキル未取得状態です。更に私がここにいる限り自身を除く一定範囲内の魔道具に付与されているアビリティは無効化されます。なんの耐性も対策も持たない相手なら初級の麻痺魔法でも十分効果がありますからね」


「うっ、うぐぐぐ」


「まだ喋ってはダメですよ。これから麻痺を解くにあたって条件がありますので良く聞いてください。1つ、目を閉じ座ったまま動かないでください。立つことはもちろん、指一本、口も動かしてはいけません。魔法とスキルを使おうとしても発動前に対処しますので大人しくしてくださいね。2つ私の言うことに従わない場合は容赦なく消します」


「こっ、殺せ。何、も、のか、知らん、が従う、きなど……ない」


「あら、オオイマキニドの導師でしたっけ? この中でも若いだけあって威勢が良いのですね」


「ぜ、絶対に、正体をあばいて、や、る」


「私が本気だと言うこと、そして見せしめの為1人は消そうと思っていたので貴方にしましょう。いいですか、先にいっておきますが消すということは殺すとは違い、魂まで消すことを意味しますからね。あなたたちが魔法で今の体に魂を一時的に定着させているのは分かっています。元の体に逃げようなんて私は絶対逃がしませんよ。死神ほど優しくありませんから」


「は、ハッタリだ、な。そ、んな、ことできる、わけ……」


「では、ご自分の魂で確認してもらいましょう」


「まて、まって、く――」


 発動したのは空間魔法。対象の四方上下に展開される魔法陣、そして魔力の質も異様なものだとここにいるもの達が気づかないわけがない。

 

 黒い膜が球体状に包み込み、完全に包まれると声も聞えなくなる。球体が割れたときには椅子すら無く、その空間が球体状にえぐり取られていた。


「さて、これで私の本気が伝わってくれているといいのですがいかがでしょうか。ただの空間転移魔法か、なんて疑っている方は……いないようですね、よかった。では麻痺を解きますのでゆっくり目を閉じてください」


 残る2人の導師はその言葉に従う。


 導師が弱いわけではない。魔法や魔術などに特化している者なので戦えないわけではない。

 だが直感で分かった常識が通じない理不尽な強さ。そのせいで戦意などは遥か彼方に吹き飛んだ。


 自国を守るため、自分の魂を守るため、この窮地を脱するために自殺でもいいので普通に死ぬこと。それが最善と考える導師だったが、それを許さないプレッシャー。

 死ですら逃げられないとなれば従うしか選択肢はなかった。


 「では、話し合いを始めましょう」

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