第134話 頑張れニャンダーマスク⑤

 巨兵が消滅したことで、闘技場は落ち着きを取り戻した。


 しかし警備兵に多くの死傷者が出てしまったため、喧嘩一無双大会は中止となり、無期限延期ということになった。


 賭けは全て払い戻し。残念がる人も多かったが安全を確保しなければならない運営側の対応としては仕方なかったのかもしれない。


 騒ぎの発端となった自称優勝候補は生き延びていたようで捕縛後連行され、最初の標的となった剣士は重症を負っていたとのことで教会へと運ばれたそうだ。


 巨兵を消滅させたとされる私にも事情を聞きたがっていた衛兵がいたが「巨兵は勝手に消えた。私は観客席から見ていただけ。私が次期魔王だから何かしたと勘違いしているだけなのでは?」で押し通した。


 となれば長居は無用。逃げるように猫目亭へと向かったのだ。



「ハクレイ怪我は無い?」


「はい、大丈夫です」


「あの剣士は教会に運ばれたらしいけど、神父程度があの怪我治せるのかな」


「カスケードの教会には聖人様がいらっしゃるそうなので、医師や薬師よりも神の奇跡による再生の方が助かるだろうと衛兵が言ってました」


「神の奇跡か、そんなに凄いのかな」


「過去に切断した腕や足も治すらしいですよ」


「あ、切断といえば、あの巨兵の腕を落とすんだから、ビックリしたよ」


「見ていましたが、剣捌きが一太刀も見えませんでした。剣に手をかけた瞬間に剣が納まったといいますか」


「スキルの代償もあるみたいだったけどね。真似しちゃだめだよ。真似しちゃいけないものだから」


「真似してはいけない……わかりました」


「それとさ、あの巨兵変じゃなかった?」


「ハクレイから見ると、ケーナを狙っているようにしか見えませんでした」


「やっぱりそう見えるよね」


「でもなんででしょうか? 最初から仕組まれていたのでしょうか」


「そうかもしれないね」


 巨兵消滅の後、闘技場から離れるレベルの高い魔術師が3人いたのを探索スキルで確認している。

 後にその3人が合流し、探索範囲外に出るとこまではスキルで追っていた。


 範囲内までしか追跡しない理由としては、その3人にはあり得ないほどのアビリティを搭載した、見覚えのあるぬいぐるみがぴったりとストーキングしていたからだ。

 その魔術師たちを泳がせるために今私が出る幕ではないと判断したのだ。


「中途半端に終わっちゃったけど、ハクレイの強さはしっかりと見れたし、これならもう安心して背中を預けられるよ」


「ありがとうございます」


「ここまで鍛えてくれたゼンちゃんには感謝だね」


「師匠にはまだまだ及びませんが、それでもいつかは師匠にも追いつきたいです」


「ゼンちゃん強いでしょ」


「せめて一本でも取りたいのですが、未だに糸口を掴めていません」


「ゼンちゃんは物理完全耐性と魔法完全耐性のスキルを持っているから、ただの攻撃じゃ揺れもしないよ」


「プラチナスライムとの戦闘記録は探してもほとんどありません。唯一酸などによる腐食攻撃が有効だということまでは分かったのですが、ハクレイはそのような特殊な魔法は扱えないので」


「あ、ゼンちゃんは腐食に対して耐性スキルを獲得してるから有効な攻撃にならないよ」


「え……、どうしたら」


「完全耐性スキルの弱点をつくんだよ」


「完全耐性スキルに弱点なんてあるんですか? そんなの知らないです」


「大丈夫、私も最近まで知らなくて空間ごと殴るか、HPを直接減らすしかないと思ってたから。アハハハッ」


「はぁ、笑ごとにならないぐらいどちらも凄い事なんですけど……」


「なーに笑ってるにゃー? いいことでもあったかのかなにゃー?」


 猫目亭近くまで来ると匂いで分かっていたのか、お店の前でミーニャがお出迎えをしてくた。


「いいことあったにゃら歩けなくなるまでいっぱい食べていいくといいニャー!」


「そうだね。今日はハクレイが頑張ったからお祝いだ!」


「にゃー!」


「ありがとうございます」


 喧嘩一無双大会の影響だろうか、ガヤガヤと大盛況な店内。注文はいつものメニューに新メニューを追加した。

 久しぶりに食べる猫目亭料理は、どれも最高な物ばかりだった。


「明日はね、あの剣士のところに行こうと思う」


「気になりますか?」


「もし1人ならパーティーに入れたいねぇ。ハクレイはどう思う?」


「ケーナがそれがいいなら、もちろんいいですよ」


「じゃ、明日教会に行って傷の具合でも聞いてそのついでに誘ってみよう」


「あの……」


「なに? ハクレイ」


「もしかして、本当は力不足でしたか?」


「なんで、急に?」


「ハクレイよりその剣士の方が強いのかなって」


「違うよ。ハクレイは私の背中守ってくれるんでしょ。前衛が足りなくなるじゃないバジェット1人じゃ荷が重いと思ったの」


「そうですよね。バジェット1人じゃ頼りないですよね。よくわかってなくて、すみません」


「嫉妬しちゃった?」


「……はい」


「ちょっと、ハクレイの方が先輩になるかもしれないんだから新入りに意地悪しないでよね」


「……努力します」


 やっぱりハクレイは可愛いな、なんて思いながら調子に乗っておかわりをしまくり、ミーニャの言葉通り歩けなくなるぐらい食べ、ハクレイに背負われて帰路についた。

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