第113話 生存確率99.9%⑤

「美味い。これ凄く美味いよ!」


「まさかダンジョンでこんな美味いものが食えるなんて、たまにはダンジョンに潜ってみるもんだなぁ」


「すみません。うちの仲間がうるさくて」


 女シーフのアコー、強面の大剣士ベゼル、薬師で女みたいな男のインサート。全員バジェットよりも高いレベルを持つベテラン勢だ。


「いえいえ、喜んでもらえて良かったです。皆さん初心者には見えませんが、今日はどうしてここへ」


 遊びに来るような場所でないので、なにか事情があるのか訊いてみた。

 食事に夢中になっている仲間を呆れたような目線で見つめ、インサートが気を使って話してくれた。


「簡単に言えば人探しです」


「仲間をですか?」


「仲間ではないのですがギルドからの指名依頼でして、その対象者の情報を集めるのと捜索部隊の先遣隊としてここに来た感じですね」


「そうなのですか。それでここに」


「仕事ですから。……仕事なのにベゼルの奴は皆の食料を忘れてきてしまい、一晩ぐらい我慢すればいいものを、こちらの匂いに釣られてしまって、なんとお恥ずかしい」


「そんな、気にしないでください。ちょっとはりきり過ぎて多く作ってくれたみたいだったので丁度良かったです。それに芳醇なポーション頂きましたので、遠慮はしないでくださいね」


「お気遣いありがとうございます。まだお若いのに、しっかりなされていますね」


「いえいえ」


「人探しの話ですが。明日朝までに対象者が帰還しない場合、捜索隊50名がダンジョンに入ることになってます」


「対象者って誰ですか?」


「若い男でグリーンという方と同い年の女でスミナという方です。ご存知でしょうか?」


 グリーンと言う名でピンときた。


「グリーンという方、昨日合いました。後ろに女の人もいたので、たぶん探している2人かもしれません」


「どちらで??」


 思いがけない情報だったのだろう、インサートが身をのりだす。


「えっと確か、2階層の避難所です。そこで私達と昨日会いました」


「何か話されました?」


「仲間のモネモを知らないかって、はぐれていたみたいでしたよ」


「そうでしたか」


「それでしたら、我々が探している2人で間違いないでしょう。だいたいの時間は分かりますか?」


 さすがにそこまで私は覚えていなかったが、バジェットがこちらの話を聞いていたみたいで、おおよその昼過ぎぐらいかもしれないと割り出していた。


「貴重な情報ありがとうございます。少なくとも昨日の昼頃までは目撃情報があったということですから。他にも思い出せそうなことありますか?」


「あ、そのグリーン達が探していたモネモって人なんだけど、先にダンジョンから出ていたみたいですよ」


「それはこちらも把握してます。ですが、その後のモネモらしき人物の目撃情報がありません」


「え、そっちもなんだ」


「町から出て行ったとも考えられますが、仲間をダンジョンに置き去りにするとはちょっと考えられないですよね」


「仲間ですからね……」


 昨日の今日でこの騒がれよう。先遣隊に高レベルのベテラン冒険者。最初の捜索隊の数が50人。ただの冒険者にしてはかなり心配されている様子。


(まるで、最初の頃の私じゃない)


 家出をしてちょっと騒ぎを起こした頃を思い出しつつ心で呟いた。

 と、同時に気づいたのだが、グリーンかスミナか又は2人が貴族の可能性だ。


「インサートさん、グリーンとスミナは本名ですか?」


「どうしてでしょうか?」


「もしかしたら、家名でもついてる人なんじゃないかってちょっと思いまして」


「まだ、お若いのによくお気づきになりますね。詳しくは言えませんがお1人が、それなりのお家の方ですよ。我々を先遣隊として使えるぐらいですからね」


(やっぱり)


 ただの冒険者を攫ったところで、ここはレアのアイテムも持っていない初心者ばかりで金にならない。しかし、それが貴族となれば話は別だ。


 身に着けている物も高価だろうが上手くいけば身代金ががっぽり、そうでなくても奴隷にして売り飛ばすことができるかもしれない。


「しかし分からないことがあるのですよ。2人の人族をここから連れ出すにしても、キャタピラーダンジョンはどこにいっても他の冒険者たちはいるし、出入り口は1つで、昼はギルドの受付嬢、夜は警備の者がいるのでその者たちの目をどうやって盗むかがわからないのですよ」


 確かに、主な通路は人が必ずいるので、誰にもすれ違わない方が難しい。

 出入り口を使わずに外に出ると言っても、ここの天井の穴ぐらいしか外と繋がっている所はないように思えた。


 可能性としては飛行や浮遊、空間転移の魔法や魔道具だろうか。

 たが、そんな高度な魔法を使えるなら人攫いする意味は無いだろうし、貴重な魔道具が手にあるなら使用できるうちにそれを売った方がいい。


 何か簡単な方法があるんじゃないかと、考え込み過ぎていたのだろうか


「そんなに心配しなくても大丈夫です。明日になればきっと捜索部隊の方々が何か見つけてくれますよ」


 とインサートに励まされしまった。


 シチューの方はというと、アコーとベゼルが綺麗に平らげてくれてハクレイも喜んでいた。



 その夜、私の見張りの番になり、1人で焚火をしてぼーっとしながらグリーンとスミナをスキルで探していた。


 今最下層にいるので、探索範囲を上へ上へと伸ばしていく。

 夜中なのでジャイアントキャタピラーも眠っているのだろうかほとんど動きが無い。


(やっぱりもういないのかなぁ)


 なんて思いながらおもむろにスキル範囲を下に向ける。


 しばらくは反応がなかったが、ずっとずっと下に伸ばしたとき1つ反応が現れる


【ジャイアントキャタピラー】


 更に範囲を下に下にと広げると、まるでそこにいくつかの階層があるかのようにジャイアントキャタピラーの反応がうじゃうじゃとあったのだ。

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