第112話 生存確率99.9%④
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「ケーナ、まだ起きてますか」
ハクレイのウィスパーボイスが微かに耳に届く。
「……うん」
「ちょっとだけお話いいですか?」
「いいよ」
普段の口調とはやや違い、しんみりしている。
「ケーナは以前ハクレイに困ったときや寂しいときは助けてほしいと言ってましたが、ハクレイは役に立っているでしょうか?」
「もちろんだよ。自信ない?」
「ケーナは何でもできてしまうような気がしてなりません。ハクレイも師匠に鍛えてもらって強くなってお役に立てると思っていたら、いつの間にか次期魔王になっててハクレイでは力不足かもと思うと……」
まだ奴隷気質が抜けきっていないハクレイ。
長年の良くない環境がハクレイをそうさせてしまったのだろう。不安がるのも仕方ない。
「ハクレイだから特別に教えるけど私はハクレイが思ってるよりずっとずっと強いかも。もしかしたら本当の意味で魔王って呼ばれちゃう日が来るかもしれないね。そしたら周りに恐れられて孤独になっちゃうのかなーなんて思ってる」
「ハクレイはケーナを絶対恐れません」
「うん、ハクレイは、きっとそんな私でも恐れたりしないと思ってるよ。だから自信を持ってそばにいてね」
「ハクレイはこの命尽きるまで、いえ、たとえ尽きても魂はケーナと一緒にいることをお約束いたします」
「勝手に命尽きちゃダメ。居なくなるのもダメだからね」
「は、はい、頑張ります」
「ありがと。実はね、ひとりぼっちが結構苦手なんだよ」
「ハクレイもひとりぼっちが長かったですが今も苦手です」
「そっか、ハクレイも同じだったんだ」
「ケーナと一緒にいることならば、ハクレイは誰にも負けません」
「よかった。自信持てたみたいで」
「時々、ハクレイの方が年上なのに、なんだかケーナの方がずっと年上に思います」
「どうせ私は ませた子供 ですよ」
「ち、違います。違いますよ」
「冗談、明日も早いしもう寝よ」
「はい」
いつかはハクレイに転生したことを話そうかな、なんて目を閉じて眠りについた。
翌朝も早くからダンジョンの入口に向かう。
やっぱり人気なのだろう、数組列を作っていた。
中に入り、どんどんと進んでいく。ハクレイも戦闘に慣れてきたようで、無駄がない。
特に危険もなく、最下層までたどり着く事ができた。
2人とも少しは疲れているようだが、ジャイアントキャタピラーが弱いおかげで体力はまだまだ余裕みたいだ。
収穫といえば、途中で1つだけ見つけた隠し宝箱。完全攻略されたダンジョンで未だに開けられていない宝箱があること自体珍しいらしい。
中身はハイポーションが5本。期待していなかったが、初めての宝箱はちょっと嬉しい収穫になった。
「いかにもボス部屋って感じだね」
「肝心のボスはいませんけどね」
「数年前から出現してないんでしょ?」
「そうらしいですね。今では最深部がキャンプ地のようになってますし」
とても広い洞窟のような空間。
高い天井に1ヶ所だけ穴が空いており外の光がほんのり降りてきている。
「では僕たちもここで準備しましょう」
「うん」
空間収納からテントや調理器具などほいほい出していき、それぞれ準備を進めていく。
時間が経つと他の冒険者たちもこの最深部で一泊するようであちこちに焚火が見えた。
「ほっんと人気だねここのダンジョンは」
「比較的安全と言われているダンジョンでも30人に1人は帰ってこれない人いるぐらいですから、キャタピラーダンジョンはダンジョンの中でも例外のような存在ですよ。だからダンジョンが初めての冒険者はもちろんですし、ベテランの冒険者でも、ダンジョンでの勘を取り戻すために入る方もいるぐらいです」
「だったら高難易度ダンジョンはどれくらい危険なの?」
「世界三大ダンジョンの1つで最高難易度と言われているエノレジェム大ダンジョンは、7階層まで攻略されているそうですがそれ以上はここ20年進んでいません。白銀以上の5人パーティーでも全滅するらしいです」
「え゛、何があるの?」
「それを調査しているのでしょうけど、ハッキリとした調査報告はされてないみたいですね」
「そんなに難しいってわかってて挑めるほど、命を軽く見ることはできないよ……」
「見返りも大きいので大金を目当てに挑む冒険者がほとんどですよ。宝石1つに10億メルクの値がついたことがあるくらいですから」
「お金かー」
命か金か、でお金を選ぶ人もいるんだと。
この世界の命は羽より重くも金貨よりは軽いんだなと感じてしまった。
「夕食できましたよ」
料理の腕を上げたハクレイのおかげでダンジョンの中でも美味しいシチューにありつける。
パンは焼きたての物を時間を止めて空間収納に入れておいたのでまだまだアツアツだ。
「僕はダンジョンに何度か挑んで中で食事をしてますが、ケーナと仲間になれたことを改めて感謝したいと思います」
「そんな大げさな」
「いいえ、大げさではありませんよ。ダンジョンに潜ることは普段よりも死ぬ確率が格段に高いのですから、最後の晩餐ぐらい僅かな干し肉より温かいシチューがいいに決まっています」
「確かに、そうだね」
ダンジョン初心者の私がバジェットの話をあれやこれやと聞いているところに、割ってはいるのが申し訳ないかのような、か細い声でハクレイが声をかけてくる
「……ケーナ、ケーナ、どうしましょう」
振り向くとハクレイが珍しく困った顔をしている。
聞くと、他の冒険者が食い物が残っているなら分けてほしいだそうだ。
多少図々しいとも思うが、美味しいそうな匂いをばら撒いていたのだからしかたない。
ダンジョン内ならシチューなど保存しずらい物を明日にとっておこうとはならない。ここで消化しなければただの荷物になるからだ。
普通であれば片方は余りものを消化できるし、片方は美味しい食事にありつける。両者ともメリットは一応ある。
私のような空間収納持ちがいる場合は例外なのだが、冒険者同士の交流ってのもアリかなと物々交換をして食べてもらうことにした。
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