第106話 魔の誕生日②
私は身につけるものをドレスは勿論、小物や靴も黒色で統一した。レースアイマスクで顔をなるべく隠し、大きめの帽子で髪を隠すようにした。まるで喪に服しているかのような格好だ。
対称的にハクレイは、シンプルで真っ白なドレスを着てもらい目立たせた。白い髪、白い肌もハクレイを際立たせるのにここでは役に立つ。
狙い通り、他の参加しいる貴族たちは男も女も神秘的なハクレイに釘づけだった。
ササッと挨拶を済ませてしまおうと父の元へと歩みを進める
「初めまして、カスケード卿。ケーナでございます。本日はご招待いただき誠にありがとうございます。こちらお嬢様へのお祝いの贈り物になりますのでお渡しいたします」
だが父親のベンドラだけはこちらにガッツり喰いついてくる。
「これは、これはよく来てくださった。次期魔王ケーナ殿」
敢えてなのか声を大きくして答えている。
そのせいでじろじろと視線が集まってしまった。
メインの椅子に座っていたエーナもこちらに気づき。何で来たんだと言いたそうな視線を送ってくる。
「よく顔を見せては貰えないだろうか?」
顔を隠している女性に人の注目が集まるところで顔を見せろなんて、失礼なのを知っていてもお願いしてくるあたり、何かを確かめたいという魂胆が見えすぎている。
だが、ここまで来てしまったのだから仕方ないと諦めてハクレイにレースアイマスクの紐を解いてもらい、帽子を預けた。
「お、おぉぉぉぉ」
言葉を失うベンドラ。後ろにいた執事やメイドたちも目を丸くしている。
離れた場所にいた母親、そしてやっぱり里帰りしていた双子の姉までこちらのザワつきに気づき寄ってくる。
母親は顔を見るなり
「エーナ! こちらにいらっしゃい。いいからはやくいらっしゃい」
とエーナを呼びつけ
「「なんでエーナがもう1人いるの?」」
双子の姉たちは不思議そうに顔を近づけてきた。
「あなた、これはいったいどうゆうことですの?」
まるで隠し子でも見つけたかのよう父に迫る母。
「似ているとは聞いていたがここまでとは思っていなかったぞ」
こちらにきたエーナの横に立たされ。他の人達にも顔が見えるようになってしまい、びっくり人間ショーのような状態だ。
驚く声が上がる中、隣のコピーエーナがため息をついてる。
「本日こちらにいる方は、次期魔王と言われているケーナ殿だ。本日は特別に参加していただいた。娘の顔と似ている噂は耳にしていたが、まさかここまでとは正直思ってもみなかった」
本日一番のサプライズ。赤の他人と瓜二つ。あり得ないわけではないが、珍しいことではある。
本当は複製なのだが、誰も考えもつかないだろう。
(帰りたい)
と思っているとユーナ姉様にグイッと腕を引っ張られる。リーナ姉様はエーナを引っ張る。
「私はエーナの姉のリーナ。ちょっと一緒にお喋りいたしましょうよ」
まだ双子の姉たちは入れ替えを継続しているらしく、名前が逆だった。
連れていかれたテーブルに着席するやいなや質問攻めにあう。
出身や親の名前、年齢、好きな色や、好きな本、好きな男性のタイプなどなど。
適当な作り話でのらりくらりとかわしていった。
「ねぇ、エーナも何か聞きたいことないの?」
「そんな、いいよ……」
「顔が同じだからって、なに恥ずかしがってるのよ」
「姉様たちは慣れてるかもしれないけど、初めてだから……」
変に会話をしてボロが出るより、話さない方がいい。
それをコピーエーナも分かっているようだった。
「私から1つよろしいでしょうか?」
その声の主はコピーエーナの後ろに立っているラルンテからだった。
「「いいわよ! 何でもきいちゃいなさいよ」」
「ありがとうございます」
そういって、お辞儀をすると真っ直ぐ目を見つめてきた。
「私はエーナお嬢様の専属メイドのラルンテと申します。エーナ様が生まれた時から一緒でした。なのでエーナお嬢様が大切で特別です。ですが、ケーナ様を見ているとエーナお嬢様と同様に特別な感情が湧いてきてしまいます。これはただ顔が似ているからだけなのでしょうか?」
ラルンテの本能だけは私とコピーエーナが同一人物だと言うことを見抜いているのだろうか。だとしたら恐ろしい。
ただ本能ではそれを分かっていても理性と常識が否定をしているのだろう。
「そうでしたか、私もラルンテさんとは初めてあった気がしません。きっと前世で繋がりがあったのかもしれませんね」
「そうですか、突拍子もない質問で申し訳ありませんでした」
「そんなことないわよラルンテ。私も本当の妹だと思いそうですもの」
「私はもう本当の妹だと思っていますわ」
「実は私だって思っていましたのよ」
姉様たちの謎のマウントの取り合いに苦笑いしつつ、この誕生会が早く終わることを祈ってしまっていた。
そのテーブルから解放された後も、なぜか貴族たちが順番に挨拶に来ていた。
今日の主役を蔑ろにしてまで次期魔王との繋がりでも持ちたいのだろうか。
どこどこのだれだと言われても分かるはずない、それに覚えられるわけもない。
しかし、1人だけ記憶に残ったのは白いハットを被ったダンディな紳士だ。
少し距離を詰めると、2人にしか聞こえないような小さな声で
「あなたは、誰ですか?」
と質問してきたのだ
(いきなり、そんなことを何で聞いてくるんだ?)
と、困った表情をしていると。
「また会いましょう」
とだけいい去っていった。あっけに取られて何も返せずじまいだった。
あまりに意味深な言葉だっただけに追いかけようとしたが、次の貴族が来てしまい後回しにしたのだ。
しかし、後からそのダンディな紳士を探したが見つけることができなかった。
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