第104話 悪戯妖精の手伝い要請
猫目亭からもそんなに遠くないところにある物件。
キャットテールの拠点となる屋敷は、豪邸のような佇まいをしていて本当に私が住んでいいのか気が引けるほどだった。
「こんなにすごいのに、妖精がいるってだけでどれくらい安くなるの?」
「こちら、元は金貨10000枚以上はしたと思いますよ。それが金貨100枚で即時引き渡しでした」
「やっすい!」
前の持ち主からかなり感謝されたらしく「ありがとうございます。本当に助かりました。どんなに安くしても誰も買いたがらなかったので困っていたのですよ。あ、何があってもキャンセルは受け付けませんからね!」とのこと
たぶんこの取引で一番喜んでいたのは、ここを早く手放したかった前の持ち主のようだった。
今の私にとって100万メルクぐらいはポケットマネーのような感じ。
その安さの原因となっている妖精は、探索スキルに既に3つの反応があるので嘘ではないようだ。
「今開けますね」
と鍵を開けるもののドアを押しても引いても全然動かない様子。
「あれ、おかしいですね。ふん!!」
バジェットが全力で試してみても状況は変わらなかった。
「お前はドアも開けられないのか? 俺が代わる」
今度はグランジが挑戦するものの、「ん゛ー」「あ゛ー」と唸るだけでやっぱり同じだった。
「ドアに魔法が施されてるみたい。力任せじゃなかなか難しいよ」
鑑定眼で見てみると、オーガスタスという物を巨大岩のように重くする魔法がかけられていた。この魔法を解くか、重くてもドアを開けられるか試されているようだった。
「私がやってみる。ここの主になる予定だしね」
スキル手加減の達人を停止させる。
ドアノブをゆっくり回し、ちょっとずつ力を込めて行った。魔法に対して敢えて腕力でねじ伏せに行く。
半分ぐらいまで力を出したとき
ゴッ
ドアが微妙にズレる
さらに力を込めていくと
ゴゴゴゴゴ
まるで巨大な石臼でもひいてるような音が聞えてくる。
8割程の力でゆっくり開き始めたドアは、通れる程度まで開くことができた。
ゆっくりと中に入って行くと
「開けちゃった」
「人族なのに」
「魔法解いてないのに」
ドアを開けた先に手のひらサイズの3匹の妖精がヒソヒソとお出迎え。
「どうする?」
「どうしよう」
「埋めちゃえ」
1匹の妖精が床に敷かれていた絨毯に魔法をかけた。
私の足が沈み始める。
「2人はまだ中に入らないで!」
本来ならそのまま沈んでいくのだろうが、耐性があるので足首に以上は沈まない
「なんで?」
「沈まないこの人族」
「魔法が効いてない」
焦る妖精たちに声をかけた。
「魔法を解いて話を聞いてほしいのだけど、いいかな?」
「魔法は解かない、でも話は聞いてあげてもいいけど」
強気な妖精が前に出てきてくれた。
「私はケーナ。この家に住みたいの」
「ダメ」
「なんでダメなの?」
「ここはお母さんの場所だから」
「お母さん?」
「人族がここにあった木を勝手に切り倒した。プリツたちのお母さんだった」
人族のエゴで母親を殺されたようなものだ。妖精が怒る理由はごもっとも。
「どうすれば、許してくれるの?」
「お母さんが残してくれた新しい命が、この家の下敷きになって芽吹けないでいる。家をずらすか、その種子を助けて欲しいけどあなたにそれができる?」
「わかったやってみる。その場所が分かるならそこまで連れて行って」
3匹がこそこそ相談して
「いいわ、案内してあげる。でも変なことしようとしたら今度こそ容赦しない」
そういうと魔法を解除してくれた。
ついた部屋は食糧庫に使うのであろう部屋。
「ここの真下よ」
指さす床は石が敷き詰められている。
「できるの?できないの?」
急かしてくる妖精。
「ちょっと待ってて、今調べるから」
まずは感知を使い種が本当にあるのかを確認。
【世界樹の種】
空間収納で確保しようとしてみたが地面の中にあるものは千里眼を使っても目視できない判定となり収納ができなかったので、穴をあけたくはなかったけどアブソーブでくり抜くように掘って行った。
拳ほどの大きな種を救出し妖精たちに見せる。
「それよ! それ。あなたやるじゃない」
「お母さんの残してくれた種だ」
「ありがとう。私たちじゃどうにもできなかったの」
とても喜んでくれてなにより。
「これで住んでもいい?」
「まだよ。今度はその種子を日の当たるところに埋めてちょうだい」
「わ、わかったよ」
家を手に入れる為だと思い、裏庭の日が当たりそうな場所に種を埋めた。
「これでいいでしょ?」
「まぁまぁね。後は私達が世話をするから、もう用はないわよ」
「ちょっと、この家住んでいいでしょ!?」
「条件があるわ」
何とも注文が多い妖精だ。
「まだ何か?」
「この種が大樹に成長するまで、私たちもここに住むから。そのかわり、家を綺麗にしてあげる。悪くはないでしょ?」
長い間誰も住んでいないと聞いていたが、家の中が妙に綺麗だったのは妖精たちのおかげらしい。
「それでいいよ。でも、この家の主は私だからね」
「じゃ、ケーナが死んだときはプリツ達が貰うからね」
妖精の方が長生きなのだからそれくらい構わない。
交渉は上手くいった。
それを2人に伝えると、驚かれた。
まず、妖精と話せる事、そして妖精と交渉をした事、家に住むことを許された事だ。
「次期魔王ともなると、妖精とも話せるもなのか……?」
「ケーナは凄い子だと思っていましたけど、また僕の想像を超えて行きましたね」
こうしてとても安い豪邸と掃除係妖精たちを手に入れることができた。
その日の夜から拠点として活用することにした。
妖精たちは屋根裏部屋が落ち着くらしく普段はそこに3匹一緒にいる。
豪邸なだけに部屋が沢山ある。そこでグランジが「1部屋分けてくれ」と調子のいいことを言ってきたが、仲間になりたいわけではなく宿代わりにしようとしていただけなので、金を取ると言ったら諦めていた。
せっかくなので妖精達と少しでも上手く付き合うために家を改造してみる。見た目はそのままだけどDEBUGMASTERを発動させ家を道具化させ、インタープリターのアビリティを追加させたのだ。
家の中にいれば誰でも妖精を見ることができ会話もできる便利な家の機能になる。
妖精たちも驚きながら自己紹介してくれた。
一番気が強く私と交渉をしてくれたプリツ。
「ふん、仕方ないわね、ここまでされちゃ挨拶するしかないじゃない。よろしく」
警戒心が強く魔法が得意なカプリ。
「変なことしないでよね」
人族と仲良くなるのが夢だったというポーキだ。
「こ、これから、たくさんお話しできたらいいなって」
私もゼンちゃんやハクレイも呼んで親睦会的な感じになった。
「お久しぶりですケーナ」
ハクレイの声が、1週間前とは別人と思えるほどの自信に満ち溢れていた。
空間収納内での特訓がどれくらいだったのか訊いてみると、約3カ月ほどになるという。いい感じにタイムが時間調整してくれたみたいだ。
「いつでもダンジョン行けますからね」
気になるハクレイのLVは61。グラフを超えてしまっていた。
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