第103話 顔を知る者②
「誰かケーナとよく顔を合わせる者はいないか? 娘のエーナの顔を絵にして持ってきているので見て欲しいと思ってな」
「よろしいでしょうかベンドラ様」
ヘッケンには頼れないと思ったマナが先にその絵を手に取る。
「マナ殿何かありますかな」
「それでしたら、受付嬢にその絵を見せていただくことは出来ますでしょうか? 日々多くの者と顔を合わせる受付嬢ではございますが、12歳の女の子の冒険者となれば極めて少ないので顔を覚えているかと存じます」
「そうだな、見せてみる価値はありそうだ」
「ただいま心当たりのありそうな者を連れてまいりますので少々お待ちください」
数分後2人の受付嬢を連れて戻ってくるマナ。
「こちらのベンドラ・カスケード様がお願いがあるそうなの。2人ともご挨拶を」
「受付のユニーと申します」
「同じくフレアと申します」
ペコリとお辞儀をする。
「早速だが、2人にはこの絵を見てくれ。忌憚のない意見を言って欲しい」
羊皮紙に黒ペンのみで描いてあるエーナ嬢の人物画を見せる。
ドレスを着てちょこんと椅子に座りながら遠くを見つめている姿だ。
「ほら2人とも、緊張しなくていいわよ。思った事を言ってちょうだい」
遠慮しないでくれといわれても相手が領主じゃ遠慮をしてしまう。しかしそれでは話が進まないので、失礼があっても何か言って欲しいのでマナが背中を押した。
「えっと、ケーナへの贈り物ですか? とても素敵だと思います。けど……」
「私も可憐でいいと思います。ですが」
2人とも若干歯切れが悪い。
「個人的な意見で申し訳ないのですが、ケーナは活発で元気な感じ子だと思っています。ドレスもとてもお似合いではありますが、ケーナらしさはこの絵からは感じませんね」
「私もそう思います。いつもの冒険者の服の方がらしくはありますね。あと笑顔が素敵なので、この表情はちょっと冷たい感じがします」
「そうか、ありがとう。とても参考になったよ」
「2人とも、協力ありがとね、仕事に戻ってもらっていいわ」
「「失礼いたしました」」
2人が部屋を出ていくと。ベンドラは羊皮紙を見つめ、ため息をついた
「最初から、絵のモデルがケーナだと疑っていなかったな。この絵は色が塗られていないのとはいえ、私から見れば娘のエーナそのものなのだがな」
「彼女達を連れて来たのは受付担当記録から、素材の買取や依頼の受付などでケーナに何度も会った経験のある者です。ここに連れてくるときも、エーナ様やケーナに関する事は言っておりません」
「それほど似ていたという事か。ユーナやリーナのように双子ならまだしも、他人で似ているとなると、一目会ってみたいものだな。……ならば、娘の13歳の誕生日に招待でもしてみるか。規模はそこまで大きくないが丁度いい機会だと思う。きっとエーナも驚くぞ」
「それでしたら表向きには、エーナお嬢様誕生会への招待でよろしいでしょうか」
「ああそういうことにしてくれ、後で招待状を作るのでギルドに来た時にでも渡してほしい」
「かしこまりました」
そうして帰っていくベンドラを見送ると疲れが思い出したように沸いてきた。
椅子にもたれるように座ると大きく一呼吸。
「ベンドラ様もいい親馬鹿になりましたわね」
「あー、そうだな。自分の娘の命がかかってたら当然かもしれないが」
「私たちもそろそろ親馬鹿になってみてもいいんじゃない」
その意味に気づいてハッとするヘッケン
「え……。そ、それはだな、そうなのだが、そのだな、その、いいのか?」
「私がギルドにいなくてもいいなら、私はいつでも構わないのよ」
「ま、まだ、ちょっと待ってほしい」
「あらあら。私がいないとお仕事も出来ないなんて、あまり待たせないでよね」
ギルドマスターはヘッケンなのだが、本部との連絡役やギルドで働く女性を束ねる者としていなくてはならない存在になっていた。
まだ代わりをできるものがおらず、バトンを渡せる者が育つまではまだ時間が必要らしい。
後日ベンドラからケーナ宛の招待状を預かり、受付嬢達に最重要事項として招待状の受け渡しを命じたのだった。
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