第31話 たぶんお祭りは財布の紐が一番緩くなる①
祭りの出店は様々で、酒を売ったり、串焼きを売ったり、食べ物飲み物は鉄板だ。村から特産品を持って来たりなど、この日は何でも売れる。
何も店を出すのは商人だけとは限らない。お祭り騒ぎに乗じて稼ぐ奴は大勢いる。
ケーナもその1人だ。
「さぁさぁ、挑戦者はいませんか!?こちらの銀に輝く玉。ただの鉄球じゃございません。世にも珍しい無敵の玉でございます。こちらの玉にもし傷を付けられたら金貨10枚!ヒビが入れば金貨30枚!割ることができたら金貨300枚!を差し上げます。我こそはという力自慢は是非とも挑んでください」
⦅なぁ、なぁってば!いつまで丸くなってりゃいいんだ⦆
「まだまだそのまま」
⦅まん丸ってのも疲れちまうぞー⦆
「我慢して」
⦅はぁ~なーんでこんなことになっちまったかな……⦆
見るからに筋肉自慢の男が近づいてくる。
「おい、武器は使っていいのか?」
「ハンマーでも槍でも剣でも慣れた物をお好きにお使いください」
「魔法は?」
「構いません。火でも、水でも、雷でも、自信のある魔法をお使いください」
「スキルもいいのか?」
「スキルも問題ありません。いくつでも発動してください」
「金は用意してるんだろうな」
「もちろんでございます。一度ご覧になりますか?」
「おう!」
子分になったボックスが横から出てきて、小さな箱の蓋を開けると黄金に輝く金貨が100枚ずつ列になりそれが3列。
「「「「おおおおおおおお!!」」」」
野次馬からどよめきが起きる。
「本物だろうな?」
「偽造通貨を見せびらかすほどの度胸はございません」
「良し、やったろうじゃないか!!」
「参加料は金貨1枚いただきます」
「構わねーよ。すぐ返してもらうからな」
「制限時間は1分間行きますよ。いいですか? 始め!」
挑戦者の男は手下に持たせていた片手斧を握ると力ませに玉めがけて振り下ろす。
斧がうなる程の勢いで叩きつけられたが、玉の上で止まったまま。
「こりゃ、予想以上だな」
スキルの発動で筋力強化、アビリティも使い斧の硬度を上げている。
それでも結果は同じ。玉には上に止まったまま。むしろ斧刃先が欠けてしまっていた。
「どうなってるんだ?」
「諦めますか?」
「いやまだだ!」
懐か小包を取り出し何かを飲み込む。一時的に筋力を上げる秘薬だろうか。
真っ赤な顔になり雄たけびを上げ何度も斧を振り下ろし必死に割ろうとしている。ここまでくるとプライドの問題なのだろう。
それでも無情にも時間は過ぎて時間切れ。
「お客さん。時間ですよ」
「はぁ、はぁ、はぁああ。参った」
取り上げた玉を野次馬の前に持っていき見せつける。
「本当に傷がねぇ」
「どうなってやがるんだ??」
「あの斧男がグルってわけでもねーだろ」
「あんな攻撃の見せられちゃな。冒険者かなんかだろ」
不思議に思う者が多くいたが残念ながら続く者がいなかった。この男が頑張りすぎて、この力を超える者がいないからだろう。
「我こそはと思う強き者はいませんか?」
皆が皆押し付け合っている。金貨1枚の参加料がちょっと高すぎたかもしれない。
ここらで場所を変えた方がいいかなと思っていると
「ミストがやる」
1人の魔法使いのような少女が挑戦をしてきた。
「嬢ちゃんやめときなあれは割れないんだって」
「参加料持ってるのかい?」
「この子の親はいねーか?」
周りの大人たちが止めようとしている中、金貨を差し出すミスト
「これでいいかしら」
「もちろんですとも」
「始めていい?」
「では始め!」
周りのことなどお構いなしに、魔法の詠唱を始める。
「嵐のように舞い、滅びの賛歌を奏でる輝く黒を従える者よ、日を斃す力を示せ。 黒雷」
知らない詠唱、膨大な魔力を感じた次の瞬間微かに聞こえた精霊の声。
(精霊魔法だ)
異世界言語スキルのおかげで聞こえた精霊の声。それで魔法の種類が判別できたが、止めることはできなかったので、せめて野次馬たちが被害にあわないようにと周囲に不可視の魔力障壁を張る。
轟音轟く漆黒の稲妻は、玉状態のゼンちゃんめがけて天から幾度となく降り注ぐ。周囲の人たちは驚き、逃げる者もいた。
少女が上手く操作していることで野次馬に被害はなかったが玉の周りだけ地面が深くえぐれている。
それでも肝心の玉はギンギンと輝いていた。
「えっ……アレでもダメ……なの? けっこう頑張ったんだけどな」
「は、はい!残念でしたー。頑張ったお嬢さんに拍手!!」
まばらに聞こえる拍手が人の減りを表していた。
騒ぎを駆け付け衛兵が来るかもしれない。
そうなる前に。
「前半はここまで後半もよろしくおねがいしますね。解散!」
とりあえず逃げた。稼ぎは金貨2枚。頑張った方だ。
まさかあんな少女がエグイ精霊魔法を使うなんて思ってもいなかった。ここは一時退散するのが正解かもしれない。
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