第19話 実家のコピーエーナ②

 そんなある日1人の女の子が駆け寄ってくる。最近懐いてくれたライナだ。泣いている所みると虐められたのかと想像していたが今回は違ったようで


「ねこたん、助けて!バルが森へ入ったまま帰って来ないの!」


 ねこたんとはこの着ぐるみの愛称だ。


「何で森行ったの?」


「私の妹が熱出しちゃって、それで薬草取ってくるっていって」


「衛兵には言ったの?」


「どうせ、私じゃ相手にしてもらえないよ」


 ここでは孤児の扱いは、あまり良いとは言えない。子供同士で身を寄せ合い何とか暮らしているといってもいい。    


 本当に小さい幼児などは教会に保護される事もあるが、そこも資金や人手の問題が山積みだ。


 そんな邪魔者扱いされている孤児をわざわざ探す衛兵などいるはずがない。


「そうだよね……わかった、私に任せて。必ず見つけるよ。向かった森は分かるかな?」


「分からない」


「何か持って行ったりしてた?」


「薬草入れる用の皮の袋持ってったよ」


「ここを出てからどれくらい経つかな」


「朝出て行ったきり……」


 数時間は経っているが、こどもの足で行ける場所などは限られてくる。


「ありがとう、もう大丈夫だから」


「ねこたん!お願い!」


 女の子を抱き、頭を撫で落ち着かせる。それと同時に千里眼の視界を広げる。


 東の森が一番近くにあったので重点的に見通すとバルがせっせと袋に薬草を入れている姿を捉える事ができた。


「……見つけた」


「え? もう?」


「東の森にいた。これから迎えに行ってくるよ。家で待ってて。それと妹にはこれで何か栄養のあるものを買ってあげて」


「いいの? ありがと」


「それじゃ行ってくるね」


 小さなポシェットから銀貨を1枚取り出すと、それをライナに渡し走り出す。自由に動けるこの猫君1号の真価は人では到底出せないスピードでも難なく超えることができ、普通のぬいぐるみでは耐えられない衝撃でも魔法障壁で強化されたボディは跳躍と着地の衝撃に見事に耐え抜いた。


 歩いて2時間程度の距離なら1分もあれば到着する。


 すぐに町へ連れ返そうとしたがバルを発見した時、ピカピカ光るスライムと戦闘になっていた。


「なんだこいつ。殴っても殴っても効いてないじゃんかよ。いい加減にしろよ」


 随分と好戦的なスライムを相手にしているらしく、執拗に追いかけ回されているみたいだ。


 間に割って入りに一発殴ってみるが衝撃を完全に吸収されポヨンと弾んだだけだった。


「ねこ!お前いつの間に来たんだ」


「こいつ倒すから離れて」


「気をつけろ。こいつ殴っても殴ってもダメなんだ」


「そうみたいだね」


 ダメージが通ってない感じからして物理に対しての耐性が高い。


 次は魔法、水魔法で閉じ込めようとするがスルリの抜け出してくる。 流水耐性も相当高いスライムらしい。


「おい!何やってんだよ」


「私だってびっくりしてるよ」


 属性を変えて風魔法で切り裂いてみようとするが打ち消されているようでこちらも効果が無かった。

 

 魔法への完全耐性の可能性があると見て空間魔法に変更する。


 空間魔法なら、相手を対象にしなくても空間に干渉ができるので効果がある可能性があったかだら。

 右手に魔力を集中させ拳を振り上げ飛び込んでくるタイミングで一気に振り下ろす。


 当たる直前に魔法を発動させ拳周辺の空間を潰して空間ごと胴体を潰してやろうと思ったのだが、ピカピカスライムが程よい緩衝材になってしまい、大きくバウンドしただけになってしまった。


 このままだと打つ手がない。逃げようかと考えていたとき聞き覚えのある声がこだまする。


「ゼーーーーーンちゃーーーーーん! 来ーーーーーーたーーーーーーーよーーーーーー!!」


 その声に動きを止めるピカピカスライム。声の主がこちらに近づくのが分かった。


「ゼンちゃんここにいたのか。で、あなたとそのぬいぐるみは何の用?」


 聞き覚えのある声はやっぱりオリジナルのエーナだった


 バレると厄介そうだったのでバルを抱え急いで逃げる。


「ちょっと待ちなさいよーーって、逃げ足速っ!」


 唖然としているうちに見えなくなってしまった。



 ⦅あいつがなぁ、おらの集めた薬草とっちまったんだ⦆


「あーそーだったのか。仕方ないね」


 ⦅あとあの変な奴。めっちゃくちゃ強かったぞぉ⦆


「あのぬいぐるみが?ほんとだゼンちゃん体力減ってるじゃん。何されたの?」


 ⦅殴られた?だけなんだけんど……。おら、またあいつと戦ってみてぇ⦆


「魔法・物理の完全耐性を無視する拳か、確かに気になるわね。でも無理しないでね。すぐ回復してあげるから」


 ⦅おう!⦆



 一気に町まで逃げてきた。抱えたバルはスピードに目を回し一瞬気を失っていたのでふらふらしている。

 ライナの家は知っている。家と言っても、橋の下に作ったテントのような所だ。


猫君1号が中に入ると狭くなってしまうのでノックをして外で待っているとライナが出てきてくれた。


「バル!!!」


「ごめん薬草取ってたら迷った」


「無事で良かった。ねこたんに私がお願いしたの」


「そう、みたいだな。おかげで助かったよ」


「無事でよかった」


「ありがとね、ねこたん」


 妹の具合は良くなっているようで安心した。薬草もあるのでなんとかなるだろう。今日はやたらと魔力を使ってしまったので早々と家に戻し、裏口に置いて回収しようと思ったのだが。


 裏口を開けるとそこにはオリジナルのエーナが猫君1号を抱えて待っていた。


「ただいまー」


「お、おかえり…」

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