第7話 静かな森の焚火の傍から男と少女の声がする①

――ラルンテが置き手紙を発見するよりも前に遡る



 家出は突拍子もない事ではなく、これはこれで計画していた。

 部屋と裏門までは空間転移魔法で繋げることができるように私の魔力でマークしてある。なのでいつでも見つからずに出て行ける様しておいたのだ。


 ナタの森の位置や生息モンスターについても、書物を漁りある程度までは調べ上げていた。

 ヒラヒラドレスでは目立つし動きづらいので、まだメイド服の方がましと考えた。だけどメイド服は盗むと即バレするのでギリギリまで手を付けられず、家出前にこっそり盗み出し着替えたのだった。


「まずは探索スキルから始めようかな」


 森の入り口で早速使ってみる。

 使用するとすぐにモンスターの位置や数、種族やレベルなど詳細な情報まで脳裏に表示され理解できる様になった。

 まるで感覚器が増えたように感じる。距離は自分を中心に5000m程度までなら捕捉可能といったところ。

 歩き回れば森全体の大部分をカバーできるかもしれない。


「やっぱり家の周りと違ってモンスターが多いなぁ」


 今までは、優秀な庭師のおかげで家の周りにモンスターなどは滅多に出没しなかった。試しに探索を使っても家の中にいる人を捕捉する程度だった。

 そしてスキル併用を試す。物を触らなくても収納できる所までは試したので、探索スキルで得た情報をもとにモンスターを指定して空間収納できるかどうかだ。


「まずは手前のホーンラビットから」


 探索の中からホーンラビットの情報が消えると同時に空間収納内の一覧に【ホーンラビット1】と表示された。

 続いて、遠くにいるゴブリンで試す。やはり結果は同じく探索スキルから情報が消え一覧に【ゴブリン1】と表示される。


 さらに空間収納内のホーンラビットの討伐を試みる。

 

 空間収納内の時間は止めてあるので、一応生きているが動くことは一切できない。そのモンスターのHPをスキルアブソーブで吸収し、0にする。 

 そうしたら、一度外に出してみて改めて鑑定。


(状態は戦闘不能になるのか)


 そこから1分後、状態が死へと変化した。そこで初めて経験値を得ることができたのだ。

 HP0でもすぐに死とならない場合もあるのはガイドブックを読んで知っていたが、モンスターにも適用されていることは知らなかった。

 念のためゴブリンでも試してみたが結果は同じ。死体となったモンスターも討伐を証明するため収納しておくことにした。


(いちいち取り出して、また収納するのはめんどうだし、ボックス内で時間経過させとこうかな)


 最初は時間停止を使わず、収納したら即座にHPを吸収し、戦闘不能にさせ死へと誘う。経験値が入ったらまた時間停止させてモンスターを保管する作戦へと切り替えた。


 効率的かつ安全に遠距離からの収納そして討伐。これは戦闘と呼べるものなのかわからないが、経験値が入る。一応スキルを使っているので戦闘になるのかもしれない。


 探索範囲のモンスターを全て収納したらしばらく歩いて探し回る。中級モンスターもいると聞いていたのだが、いちいち鑑定するのも面倒なので片っ端から収納することにした。


 最初の探索で収納されたモンスターは

【ホーンラビット23】

【ゴブリン32】

【ドスボア20】

【ビッグベア2】

【ホワイトウルフ13】

【エンシェントディア3】

【キラービー17】

【ポイズンスパイダー11】

【ジャイアントトード5】

【カモフラージュプラント8】

【グリーンスライム50】

【ビッグスライム1】

【オーク10】

【ロックゴーレム1】

【レッドトータス2】

【ポイズンスネーク10】

【レッドバード5】

【ブラックバード12】


と200体以上にのぼるが、空間収納にはまだまだ余裕で入る感じだ。


 昼を過ぎた頃、探索範囲に新しい情報が入ってくる。

 冒険者達が一定の距離置いて横一列で森に入ってきているのがわかった。


「何かを探してる?あ、そうか家出したんだった」


 モンスターに夢中になり、家出していた事をすっかり忘れていた。

 ただスキルの探索範囲でエーナに勝てる者は少ない。どんなに探したところで相手のスキルの範囲外にいれば捕捉は難しい。


「まだ強そうなモンスターゲットできてないから、ごめんねー」


 捜索から逃れるため、ついでに強そうなモンスターを見つけるためスピードを上げどんどん森の奥に入っていく。


 収納内のモンスターが3000を超えた辺りで森を抜けてしまった。

 そこは地平線まで何もないティニャック平原。さらにその先が国境となる。

 

 国境を越えるつもりもないので、ここでキャンプの準備をする事にした。

 ちょうど地平線に夕日がしずみ、平原が山吹色に輝く。異世界での初外出、初モンスターに、初1人キャンプ、黄昏ながら


(やっぱまだまだ世界は広いなぁ)


 なんて思ってみる。


 キャンプでも生活魔法が活躍してくれる。焚火の確保も簡単だし、川を探さなくても水は用意できる。

食糧は一応持ってきたけど、森の中でとれた木の実やキノコなどの食材と、意外と美味しいとされるホーンラビットの肉をいただく事にした。


 ナイフなどはないけど、スキルや魔法を応用させれば料理だってできると思っていたので早速実践する。


 木の実やキノコは水で洗い、キノコは一口サイズにエアカッターでカット、胡椒の代わりになりそうな木のみは石ですり潰しておく。

ホーンラビットは頭部、皮、血液、内蔵、骨をそれぞれ指定してアブソーブで吸収、残った肉にすり潰した木のみをまぶし、キノコと一緒に大きな葉で包む。


 地面に穴を開けたら、焚火で焼かれた焼き石を敷き詰め、包みを入れたらまた焼き石をかぶせ天然のオーブンの完成。

あとは一番星とマジックアワーのグラデーションの空に懐かしさを感じながら待つだけ。


「おおっ、いい匂いするね!」


 肉に火が通り、あたり一帯を香ばしい匂いが包む。

 それを堪能してると脳裏に浮かぶ文字。


【探索をレジストされました】


 この情報に気づいたのは何度か表示されてからだったと思う。料理に夢中で見落としてしまっていた気がする。


 探索スキルレベルAをレジストするとなると高スキルレベルの使い手か高威力の妨害系魔法や上位のアイテム。


 強者であることは間違いない。

 気づくのに遅れたことを考えると近くまで来ている可能性があった。立ち上がり、周りを見渡す。

 森と平原のちょうど境なので潜むとするなら森側だろう。


「いるのは、わかってる。話をしましょ」

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