2-4

よろしく。


その言葉を発するエンの表情は曇って見えた。


「はい。」


ひみは頷いた。


「それでは今日はゆっくりお休みになってください。」


そう言うと、エンは立ち上がり私たちを扉の前に案内した。


「こちらにあなた方の部屋を用意しました。」


「扉を開けると、そこにはベッドが二つ置かれた部屋があった。」


(こんなスペースはなかったはずだけど、これもエンさんの力で作られたものなのだろうか。)


「この部屋って。」


けいが口を開いた。


「はい。私が作った空間です。あなた方以外誰も入りませんのでご安心を。」


ふたりが部屋に入るとエンは扉を閉めた。


「これからどうするかねー。」


「どうしようにも、しばらくはここで生きていくしかないよね。」


けいは腹をくくったようだった。


「わたしたちの知ってる人たちはもうここにはいないのかな。」


「いないよ。僕たちの知ってる世界とここは違う。似ているけど違う世界なんだよ。」


「だよね。」


「明日はもう少しこの世界のことについて詳しく教えてもらおう。」


「そうだね。」


ふたりはそれからすぐに寝ることにした。


外は暗くなってちゃんと夜が来た。




外が明るくなる前にひみは目が覚めた。


けいはまだ寝ている。


(何時だろう。そういえばこの空間にはどこにも時計がなかった。携帯も持って出なかったし全くわからない。)


ひみはとりあえず今いる部屋から出た。


昨日エンと話した部屋。


そこにはまだ誰もいなかった。


ひみは外に出た。


まだ暗い。


空を見上げると月が出ていた。


(この空間にも月があるんだ。)


「もちろん月はあるよ。」


後ろから声がした。


(えっ?)


ひみは驚いた。


(知らないうちに声に出てしまっていたのかな。)


聞こえた声はエンの声とも違う。もちろんけいでもない。


「誰?」


「おはよう。よく眠れた?」


そこには女の人がいた。ニコッと笑ってひみを見ていた。


ひみは驚いて少し後退りした。


「大丈夫だよー。エンから話は聞いてるから。私はみなこ。よろしく。」


「ひみって言います。よろしくお願いします。」


「君たちって面白いよね。どこからきたのかよくわからないんだって?もしかしたら混乱してるのかもしれないね。たまにそんな子がいるんだよ。大丈夫。ここでゆっくりしていればいずれ思い出せるさ。」


「そうだといいんですけどね。」


みなこはひみの隣にきた。


「みなこさんはずっとここにいるんですか?」


「そういうわけではないんだけどね。明日は少し遠くに出かけるつもりなんだけど。ひみちゃんたちも一緒に行くかい?何か思い出すかもしれないよ。」


「はぁ。」


「あっ。そろそろエンが起きる時間かもなー。私は入るからごゆっくりー。」


そういうと、みなこは部屋の中に入っていった。


それと入れ替わりにけいが出てきた。


「おはよう、ひみ。早いね。」


「おはよう、けい。なんか眠れなくってさ。」


「大丈夫?」


「うん。不思議と体は全然だるくない。」


「それならいいけど。」



「2人ともー。」


家の方から声が聞こえてきた。


エンだった。


「朝ごはんの時間だよー。」


気がつくと辺りは明るくなってきていた。




「いただきます。」


テーブルの上に並んでいるのはふたりの知っている朝食と変わらないものだった。炊き立てのご飯に、卵焼き、味噌汁。



「美味しい。みなこさんが作ったんですか?」


「いやいや、作ったのはエンだよ。」


「エンさんって料理できるんですね。」


「ははっ、よかったよかった。」


「ところで、今日なんだけどさ。君たちにはこの世界のことについて知ってもらおうと思ってね。もう聞いてると思うけどみなこについて行くといい。」


うんうん、とけいは頷いていた。


「あれっ、けいも聞いてたの?」


「昨日の夜ね。」


「なんだ。」


みなことももう既にあっていたようだ。


「君たちは仲良しだね。本当に。」


みなこは笑った。


「ご飯を食べたらすぐ出発だ。」


ふたりは言われた通りすぐに準備をした。


と言っても特に持つものもなかったが。



「いってらっしゃい。気をつけて。」


「行ってきます。」


エンは笑顔で手を振ってくれた。


この空間に入ってきた時と同様、エンが空間に入り口を作り出した。



そこから出て、ふたりは後ろを振り返ったがもうそこには何もない。


「心配しないで。ちゃんと帰れるから。」


ひみの顔を見て心配してくれたのかみなこは私にそう言うと歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る