2-3
「あなたは?」
「いいから、とにかくついてきて。」
青年はそういうと走り出した。
そこには誰もいなかった。
この青年の仲間が引きつけてくれているのだろうか。
そしてひたすらに走った。
その青年はふたりの方を時々振り向きながらも走り続けた。そしてどれくらい走っただろうか。
青年が立ち止まった。
目の前には民家の塀があるだけ。
?
青年はその壁に手をかざした。
するとその壁がガガガッと音を立てて奥に倒れた。
青年はそこに入っていく。
「こっちこっち。」
呆然とする2人に手招きした。
「行こう。」
けいはそう言うと青年に続いた。
(大丈夫だよね。)
ひみも後に続く。
そこに一歩踏み入れた瞬間眩しい光に包まれるのが分かった。
ぼやけていた視界が徐々に晴れていき、ひみはあたりを見渡した。
そこはとても広かった。
目の前には古く小さな家。
そして目の前には川が流れている。
確かに民家の塀の中のはずだったが。
振り返るとあったはずの壁は無くなっていた。
けいも驚いた顔をしている。
「ねぇ、これって。」
「さっきここ壁だったよな。」
「無くなってる。」
「やっぱりそうだよな。」
青年はふたりの混乱を他所に話しかけてきた。
「無事でよかったです。怪我はしてないですか?」
「あ、うん。大丈夫だよね。」
「うん。大丈夫。」
「私はエンと言います。あなた方は?」
「ぼくはけい。そんでこいつはひみっていいます。助けてくれてありがとう。」
珍しくけいが先に口を開いた。
「どうも、ひみです。」
ひみも頭を下げる。
(いつもなら逆なんだが、まぁいいか。)
「けいさんと、ひみさんですか。ところでなんであんなところにそんな格好でいたんですか?」
「それがわたしたちもいまいち状況が掴めてなくて。気づいたらそこにいたっていうか。」
?
エンは首を傾げた。
「何も覚えてないということでしょうか。元々住んでいたところも?」
「それが、私たちあの周辺に住んでいたはずなんです。今日の今日まで、なのに急に世界が変わってしまったっていうか。おかしいですよね。分かってるんですけど。本当なんです。」
「なるほど。あなた達は少なくとも表側の人間であると。」
エンは考え込んだ。
「つまり、あなた方はなんらかの理由で時を超えてしまったと。」
「もしそうだとして、ありえるんですか?」
「わかりません。ですが、あなた方は今日の今日まで、争いの無い世界にいたんですよね?」
「そうです。なのに。」
「わかりました。私の仲間に何かわかるものがあるかもしれませんので、聞いてみますね。」
「ありがとうございます。」
ひみとけいは頭を下げた。
「お疲れでしょう。食事でもどうですか?」
「ありがたいです。」
真っ先にけいが応えた。
そしてひみとけいは小さな家の中に案内された。
木造のとても雰囲気の良い小さな家。
カフェのようだった。
ふたりは椅子に腰掛け。
出された水を飲んだ。
生き返ったような気になった。
「ぷはっ。」
「大変だったでしょう。ここにいれば安心ですので。しばらくはここで休むと良い。」
「ちょっと質問しても良いですか?」
けいが口を開いた。
「はい。どうぞ。」
「僕たちは、民家の塀があるところから入りましたよね。だけど振り返ったらその塀もなくて、こんなに広い空間があって。かなり混乱してるんですけど。」
「無理ないでしょう。ここはあるはずのない場所ですから。私が作り上げた場所。私と私の認めたものしかくることのできない場所です。私は空間を造り出せるのです。この場所に仲間と身を寄せている。今は出払っていますが、数人の仲間とここにいます。他の仲間達も私の作った別の空間にいます。」
「なんかちょっと理解するのに時間がかかりそうだな。」
けいは頭をかいた。
「なら、わたしからも。」
「どうぞ。」
「さっき言ってた、表側の人間ってどういうことですか?」
「そうでしたね。その説明をしなければ何も分かりませんね。この世界にはあなた達の知る人間と。わたしたち、神から何かしらの力を与えられた人間がいます。私たちは人間となんら変わりはありません。昔は区別なく共に生きていました。しかし、次第にわたしたちは、表の人間達から気味悪がられるようになり、災いを呼ぶと言われ、約200年前からわたしたちは住処を追われるようになりました。」
「200年前って。じゃあわたしたちは。わたしたちの生きてた世界はどこにいったの?」
「この世界はあなたの知る世界とは全く異なるものかもしれないということです。そのほとんどが未知ということになるでしょう。」
けいもかなり混乱している。
「元の世界に戻れるのかな。」
けいはつぶやいた。
「私たちにも分かりませんが、そのために協力しましょう。あなた方の生きていた世界はさぞかし美しいものなのでしょう。」
、、
「いや、そうでもないかもしれないです。だけど。私たちも協力できることなら何でもします。」
「それはありがたいです。どうぞよろしく。」
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