2-2

ひみたちはその異変にすぐに気づいた。


これで気づかないのはおかしいと思うほどに変わっていた。


景観の全てが。


先ほどまで2人が見ていたのはなんだったのか。


公園から出たその世界は人の住んでいる。というより、いた、と表現するのが正しいのではないかと思うほどにボロボロだった。


舗装された道路はヒビが入り雑草が生い茂っている。


日の当たらない影には苔が生え、立っていたはずの電柱は傾き、ブロックの塀はところどころ崩れている。


先ほどまできれいだったはずの景観は荒地と化していた。


「これって?」


けいも呆然と立ち尽くしていた。


「ここって俺たちがさっき通った場所だよな?」


「そうだよ。間違いない。」


「なんで?俺がおかしいのかな。この場所ってさこんなにボロかったっけ?」


「いや、そんなわけないよ。」


「夢みてんのかな?」


はははっ。


と、けいは笑った。


「とりあえずさ、家に行こう。」


ひみはけいに言った。


「そうだな。戻ろう。」


ひみとけいは全力で走った。


その道中も明らかにおかしかった。


道のヒビ。


そして所々に壊れて動かなくなっているであろう車があった。


その間、人とは出会うことなく、時々ブロック塀の上や、屋根に寝そべる猫だけを見た。


着いた。


2人は家の前にたどり着いた。


やっぱりだった。


ひみの住んでいるアパートも人の住める状況ではなくなっていた。


錆びれた階段を慎重に上がり、部屋の前にたどり着いた。


「入るぞ。」


「うん。」


ドアの鍵は空いていた。


(閉めて出たはずなのに。)


部屋の中は埃まみれだった。


まるで何年も、いや、何十年も人が出入りしていないようだった。


「どうなってんだ、これ。夢だよな。」


「う、うん。そうだよ。きっと夢だよ。悪い夢でも見てるんだよ。ほら私たち最近疲れてるじゃんだからさ。」


けいはひみの頬を摘んだ。


「いたっ。」


「俺のほっぺも摘んで。思いっきり。」


ひみはけいにつままれながら思いっきりけいの頬をつねった。


「いったー。」


けいは叫んだ。


「目、覚めないな。」


「覚めないね。」


「どうしようか。」


「どうしようね。」


完全に訳が分からなくなった。


「まあ、だけどさ、絶対夢だよ。現実な訳ないもん。大丈夫。目が覚めるまでさ、んめだと思ってこの世界を楽しもうよ。」


「はははっ、そうだな。絶対夢だ。楽しもう。」


ひみとけいはこの夢の中であろう世界を楽しむことに決めた。


「まず、もっと周りの状況を知らなきゃいけないな。」


「そうだよね。私たちの他に誰がいるのか確かめないと。」


そう言うと、けいは土足で部屋に入った。


そして蛇口をひねる。


水は出なかった。


「水でないんだけど。」


「見たらわかるよ。」


「喉渇いたんだけどさ。」


「落ち着いてよ。さっき買ったコーヒーが。」


ひみは袋の中を漁った。


あれっ。


袋の底に穴が開いていて、そこには何も入っていなかった。


「うそっ、なんもない。」


「はっ、なんでだよ。サバイバルでもしろってことか。なんだよこの夢。」


「とにかくさ。外、行こっか。」


「あー。」


ひみとけいは再び外に出た。


静かだった。


深呼吸をして心を落ち着ける。



ここはふたりの生活していた場所で、しかし、今の景色はその時とは全然違うものになっている。


足を踏み外さないように階段を降りる。


他の人が住んでいたはずの一階の部屋もノックしてみる。


しかしもちろん返事はなかった。


「どこに向かおう?」


「まずはもう一度さっきのコンビニに行こう。」


そうだね。


ふたりは、急いでそこに向かった。


向かう途中に目も覚めることなく。


外観から変わっていた。


そこは先ほどまでの明るい雰囲気もなくただただボロボロの錆びれた建物になっていた。



入口もドアも無くなっていて、けいは中に入った。


ひみは恐る恐るけいに付いて中に入った。


「水は。」


そこには何も無かった。


商品が並んでいたはずの棚はまだ残されていたが、カップ麺や水すら一本も残っていなかった。


「何もないじゃん。」


「どうしよう。このまま飲水もなかったら私たちやばいよ。」


その時。


ドンっ、と銃声のような音が響いた。


「なんだ。」


けいとひみは慌てて建物の外に出た。


音がした方向を見る。


煙が上がっているのがわかった。


まだ距離がある。


近づくべきか、離れるべきか。


「どうする?けい。」


「救助隊かもしれない。煙の上がっている方に行こう。」


「だけど、もし違ったらどうするの?」


「その時はその時だ、今はとにかく動くしかないだろ。」


(大丈夫かな。)


かなり心配だったが、ひみはけいの後ろをついていった。


煙の上がっている場所が徐々に近づいている。


「もう少しだ。」


けいは慎重に進み始めた。


次の角を曲がったところだ。


けいとひみはいったん建物に隠れて煙の上がっている場所を覗き込んだ。


「誰もいな、」


けいが口を開いた時、後ろからガシャッと何かが動く音が聞こえた。


「動くな。」


声が聞こえた。


ふたりは振り向くことすらできずに手を上げた。


「ひっ。」


見えないけど、なんとなくわかる。


察した。


銃を向けられている。


「あっ、あの、私たち。道に迷っちゃって。どっちに行けば。」


「黙れっ。」


「ひーっ。」


「人間の姿をした悪魔め、次口を開いたら撃つ。いいな。」


どうしよう。


けいも固まってしまっている。


(頭が働かない。動いてもダメ。口を開いてもダメ。もうどうしようもない。)


ひみは考えることを放棄した。


ドンッ、ドンッ。


「あっちだ。また奴らだ。気を抜くな。くそっ、動くなよ。」




ふたりの後ろで何かが起きている。


だけど、動けない。振り向けない。何が起きてるんだ。


その時、とん、とひみは肩を叩かれた。


「君たち逃げよう。急いで。」


その言葉を聞いて2人はようやく振り向いた。


そこには黒いローブを着た青年が立っていた。


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