1-2
私は昔からそうだったのかもしれない。
動かないもの。
私をみることも触れてくることもないものが好きだった。
だって、それこそが美しい。
それこそがあるべき姿だ。
その考えは誰もが否定する。
私は異常者だと言われる。
近づかないで。
そう言ってみんな私を遠ざける。
ほら見ろ。
人間はこんなにも醜い。
自分の嫌いなものは全て否定する。
目の前から排除しようとする。
だけど、今私の目の前にあるもの。
それは私を否定したりしない。
肯定することもないけれど、私をこの場から追い出そうとなんてしない。
だから、大好きだ。
出会ってからどれだけ経つのか、もう覚えていないけれど。
ここは時間が止まったように。
彼は形を変えずそこにいる。
冷たい状態でそこにいる。
朝になって日が差しても、新しい日が来ても何も変わらない。
夜になると私はもちろん眠る。
まだ生きているから。
彼は眠り続けている。
もう絶対に起きないことは分かっている。
分かっていて、私はそばにいる。
ここにいるすべては時間という概念を失う。
彼をここに運んできたのは彼自身だ。
これは何者でもないこれが望んだことなのかもしれない。
彼の体についた傷もその赤い血も。
彼の人生はここで終わった。
だけどここで力尽きることも彼は知っていたのだろう。
そうとしか思えない。
カサカサ。
そんな時、私は微かな音を聞いた。
ここにいるはずのない者の音が聞こえた。
なんとなく分かる。
私には分かる。
これは明らかに私の嫌いな生物の気配だ。
欲に塗れた俗物の気配。
ああ。なんでこの場所に来てしまうのか。
1人じゃない。複数人いる。
どうしてくれよう。
私と彼の時間を邪魔する奴は許さない。
そもそもこの森にどうやって入った。
私がここにいる間、侵入してくるものは1人もいなかった。
私はこの森と一つになった。
入ってこようとする俗物全てを拒んだ。
この森の生物達は私の味方をしてくれる。
なのになぜ?
なぜ気づけなかったのか。
私は私を責めた。
彼に見惚れてしまっていたのか。
しまった。
永遠よりも彼を見つめる一瞬をとって警戒を怠った。
私のせいだ。
私のせいで彼に何かあったら私はどうすれば。
「なにかいるぞ。」
聞こえた。
人の声が聞こえた。
大嫌い来な声だ。
「人がいる。」
私をお前達と一緒にしないでほしい。
私は怒りをなんとか沈めようとする。
ここで怒りを暴走させたら大切な彼を傷つけてしまう。
「人が倒れているぞ。動くなー。」
入ってきた。私たちの空間に。
許せなかった。
何人いる?
私と彼の邪魔をする人間は。
3人。
許さない。
決しててここに来れないようにしてやろう。
私は立ち上がった。
いつぶりかは分からなかったけど。
固まった体を動かした。
ガシャッという音。
「ひぃっ。」
入ってきた連中は小さく悲鳴をあげる。
そしてこちらに凶器を向ける。
そんなものは怖くない。
私は彼らを眠らせることにした。
永遠に起きてこないように。
彼のように私はこの俗物を愛すことはできないかもしれない。
だけど、彼に褒めてもらうんだ。
彼を傷つけさせないと誓ったんだから。
眠った彼に誓ったんだから。
そうして私は3人の人間を凍らせた。
そう私は化け物。
ひとつの愛のために化け物になった。
冷たい女。
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