エピローグ
エピローグ1
「わたしも最近思っていました。魂を憑依させるって、すごい技術ではありますが、同時に、鼠谷さんの言うように、明らかに自然の摂理に反すること。唯一、1つの肉体に1つずつ平等に与えられた権利を、人間が勝手に
目元をハンカチで拭いながら管理課長は言った。
「そうですよね。わたしも同感です。自分の会社を否定するようで、言うのを
「恋塚さん。あなたは、至って正常な感性をお持ちだと思いますよ。実はですね、ここだけの話……」
そう言って、管理課長は私の近くに来て顔を近づけて、耳打ちをしてきた。近くで見てもなお、美しい管理課長の顔と
「ここだけの話、近々退職しようと思っています」
「え!?」衝撃だった。残される管理課の職員はどうするのだろうか。
「恋塚さんにその意向を伝えていなかったのは、謝ります。でも、この会社には未来はありません。というか、意図的に潰してやろうとさえ思っています。実は、田中係長を審査課に異動することを受け入れましたが、こっそり、彼には、社の不祥事を
気付くと、管理課長の目に、悪魔の炎が点っていた。
「遅かれ早かれ、会社は打撃を痛い目に遭うでしょう。その前に、管理課職員一斉に辞表を提出します。内部告発することによって報復してやろうと考えています。家宅捜索を受けることになるかもしれませんねぇ」
普通に考えたら、組織の管理職としてあるまじき発言だが、不思議とわたしはその考えを支持していた。管理課長は耳打ちを続ける。
「田中係長には、その旨を伝えています。他の管理課職員もね。でも、就職して間もない恋塚さんのことが気になってました。どうします?」
今度は、わたしが管理課長に耳打ちをした。
「その提案、乗ります。でも、転職先とかどうされるんですか?」
「そこで、さっきあなたの言った、小林蒼汰くんの児童養護施設の件が本当なら、話、引き受けようかなと」
「え?」
いくら何でも、決断が早すぎるんじゃないかと思った。
「いや、さっきも言ったように、私は、困っている人の支えになりたいとずっと思っていました。それが、児童養護施設の職員として携わることでも構わないと思ってます」
つくづく管理課長は優しい人だと思う。冷静沈着で若くして管理職となる優秀な人だから霞みがちだけど、人格的にも申し分のない、できた人だ。
「わたし、ついてってもいいですか? 田中係長も一緒に!」
つい、大きめの声で言ってしまった。
「田中さんと? 彼が退職後どうしたいか、私聞いてないわよ」
言ってから、「あっ」と恥ずかしさが込み上げてきた。
「ひょっとして、恋塚さん、田中さんのこと、惚れてるんだね」
「言わないでください。恥ずかしいですから……!」
こうやって、管理課長が部下を茶化すことも珍しい。でも、このお茶目な性格が、
「良いわよ。田中くんにはこっそり伝えといてあげる。我が社でイチバン美人な恋塚さんの申し出だから、必ず気持ちに応えてあげなさいよ、と」
「課長ぉ、ヤメてくださいよ」
恥ずかしさはあったが、同時に何だか清々しい気分にもなった。
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