第27話 ほっぺのキス

 ピロリン♪


「んー……」


 朝、スマホの通知音で意識を取り戻す。


 見れば、心愛からのメッセージだ。


『これでたくさんシコシコしてね♡』


 銀髪美少女、甘露心愛のヌード写真付き。


 めちゃくちゃエロい。


「っ、今度はおまえかよ……!!」


 朝から完全に目が覚めた。

 それだけだ。それ以上のことは何もない。


「はぁ……」


 スマホを放る。返信はしなくてもいいだろう。


 紬祈はすでにいなかった。お弁当を作ってくれているのだろう。


 身体を起こして、登校の準備を始めた。



「兄さん」


 玄関を出る前、紬祈に呼び止められる。


 少し遠慮がちな視線を寄せていた。


「あの……えっと……」

「どうしたんだ?」


 基本的に物をはっきり言う紬祈には珍しく、頬を染めてモジモジしている。 


「キス……」

「え?」

「また、キス……してもいいですか?」

「そ、それは……」


 一昨日の誕生日パーティーでのことを思い出す。


「ほ、頬にだよな?」

「は、はい。唇はまだ、恥ずかしいので……」


 俺の唇を見つめた後、さっと視線を流す紬祈。


「兄さん、しゃがんで?」

「お、おう……」


 従ってしまう。

 頬にはまだあの柔らかい感触が残っているかのようだった。またして欲しいと心の奥で思っている。


「いってらっしゃい、兄さん。ちゅ」


 優しい、ソフトタッチのキス。


「……また、キス……しちゃいましたね♡」


「あ、ああ……」


「兄妹なら、キスくらいしますよね?」


 ま、まぁ頬ならまだセーフ、だよな……?


 海外映画では家族間でしているのをよく見るし……。


 俺の沈黙を肯定と受け取って、紬祈は微笑む。


「たくさんしましょうね、兄さん♡」


 その魅力的な提案を断ることなど、俺に出来るはずもなかった。





「月城」


 教室で自席に着くと、すぐさま南瀬がやってくる。


「お、おはよう……!」


 なぜか真っ赤な顔で挨拶された。


 でも、最近はこうして挨拶をしにきてくれるから最初に比べて進歩したものだ。


「おはよう、南瀬」


「え、ええ……!」


 毎朝ぷりぷりと怒っている(?)のだけはどうにかしてほしいが。


 南瀬はそんな調子のまま、話を始める。


「と、ところで、誕生日パーティーは上手くいったのかしら?」

「ああ、うん。紬祈も楽しんでくれたと思うよ」

「そう。それならよかったわ」


 自分に直接関係のないパーティーのことまで気にかけてくれるなんて、さすがの人の良さだ。


「南瀬もありがとな」

「へ!? な、なにがよ!?」

「いや、金曜は俺の都合で勉強会休みにしてもらったから」


 加えてお礼を言うと、南瀬は更に耳まで赤くして縮こまった。

 そのようすはさながら、噴火寸前の火山のようでドギマギする。


「ふ、ふん! 感謝するなら今日からはもっと私との勉強会に集中することね! もう時間がないんだから!」


「そうだな。勉強は南瀬だけが頼りだ。本当によろしく頼む」


「わ、私だけ……!? 私だけが頼りなの!?」


「まぁ、うん」


 3年の知り合いは殆どいないし、先生からは煙たがられている。


「そ、そう……私だけ。私だけなのね……うふふ」


 赤い顔のまま唇の端を吊り上げ、なぜかニヤけている。ちょっと怖い。


「じゃ、じゃあ今日も放課後、張り切っていくわよ! 私が最後まで手取り足取りお世話してあげるから! だからあなたも、私との時間を大切にしてよね!」


「わかってる。南瀬との時間は俺にとってすごく大切だからな」


 自分で勉強したって、正直ぜんぜん捗らない。

 

 しかし南瀬の教え方はとても丁寧で、俺の分からないところを的確に捉えて説明してくれるので理解が速い。


「〜〜〜〜っ!? ちょっとトイレ!」


「えっ? いや、もう予鈴なるぞ?」


「うっさい! あ、あなたとの時間は私にとっても大切なんだからね! 忘れないでよね!」


 そんなこと言うわりには、全速力で走っていく。やっぱり本当は拓真のことが嫌いなのだろうな……。

 

 というか風紀委員長が廊下を走ったらまずいのではないだろうか。

 いや、それだけ限界が近かったのだろう。

 あえて追及はしないでおこう。

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