第23話 エロ可愛い妹

「はいどうぞ、兄さん」


 そう言って紬祈がテーブルに置いた白いご飯は、まさしく山というに相応しい。


 ドンっと異質な音が鳴った。


「あらあら、拓真くんったらフードファイターになったのかしら〜」


 テーブルの向かいに座った瑞祈さんはニコニコとしながら状況を楽しんでいる。

 紬祈は俺の隣へ寄り添うような近さで腰掛けた。

 

 源三はまだ仕事から帰っていない、3人きりの食事。


 メインのおかずは豚カツ。これまた量が多いが、白飯のお供としては心強い。


 推定3〜4キロ。

 食べ盛りのこの身体ならイケるか……!?


「い、いただきます……っ」


 兄としての尊厳を保つため覚悟を決めた俺は、丁寧に両手を合わせた。



 ——数十分後。


「ぐっふ……」


 俺の腹はポッコリと膨れ上がっていた。

 上半身をやや後方へ傾けて、天井を見上げるお腹いっぱいのポーズ。限界だ。


「頑張ってください兄さん。あとちょっとです」


 紬祈が甲斐甲斐しく励ましてくれる。


「頑張って、拓真くん」


 瑞祈さんもまた、こんなに時間がかかっているのにも関わらず未だ見守ってくれていた。


 身体を持ち上げて、テーブルを見つめる。


 山のようなご飯はすでに完食している。

 あとは数切れの豚カツを残すのみ……。


 しかしこの腹パン状態の揚げ物が、死ぬほど辛い……!!


 フードファイター曰く、揚げ物は最優先で処理すべきである。大好きな揚げ物を最後に残して後悔するのは自分自身。食とは闘いなのだ。


 デラックス盛りご飯にばかり気を取られた俺の敗北である。


(もう無理……! マジで無理だ!!)


 残りの豚カツを見るだけで吐き気が押し寄せてきた。

 ああ、アブラ……アブラアブラアブラ……もうアブラいらないぃ……。

 転生して若くなり、何でもたくさん食べれることが楽しくて仕方なかったはずなのに、まさかこんなことを思う日が来るなんて。


 このままでは、紬祈と一緒にお風呂イベントをこなすことになってしまう……!


「兄さん……」


 不安気に見つめる紬祈は次の瞬間、箸を手に取った。


「これならどうでしょう」


 豚カツをひと切れ取って、俺の口へ寄せてくる。

 もはや昼休みのお弁当ではお馴染みになっている、あーんの体勢だ。


 怒っていたはずの紬祈だが、ここに来て俺に協力してくれるらしい。


 もう何も受け付けないと思っていた口が自然と開いてゆく。


「あ、あーん……」

「はい、あーん♪」


 口内に豚カツが放り込まれる。


 瞬間、身体が拒否するが……


(あれ……?)


 紬祈の天使のような微笑みを見ていると、不思議と苦しさが和らいだ。

 ゆっくりと咀嚼して、飲み込む。


「すごいです兄さん! まだいけますか?」

「あ、ああ……いける。食べれる」


 紬祈が喜んでくれると、さらにお腹の余裕が生まれるかのようだった。



「ごちそうさまでした……!」


 死闘を乗り越え、両手を合わせる。


「拓真くんすごーい!」

「お疲れ様です兄さん。ぜんぶ食べてもらえて嬉しいです」


 2人が拍手で祝ってくれる。

 

 これでどうにか、最悪の事態は免れた。


「紬祈は嬉しくて堪らないので、兄さんにご褒美をあげちゃいます」

「え?」

「妹とお風呂に入れる権利をプレゼントです♪」

「……………………」


 どうやら俺は最初から詰んでいたらしい。


「み、みみみ瑞祈さん!! 兄妹が一緒にお風呂なんてダメですよね!?!?!?」


 救いの手を求めて叫ぶ。


「え〜? べつにいいんじゃないかしら。仲良しで♡」


「仲良しの度を超えてますって!! 俺たち高校生ですよ!?」


「いいわね〜仲良しで〜。ふふふ、お母さんも一緒に入っちゃおうかしら♡」


「「それは絶対ダメ(です)!!」」


 紬祈と声が重なった。


 結局、紬祈の発言を撤回させることは出来なかった……。



 カポーン。


 湯船に浸かる。

 この後、紬祈も入ってくるらしい。


 せめてもの抵抗として目元にタオルを巻いてしまおうとしたのだが紬祈にバレて外された。


 股間だけはタオルで隠している状態。


「はぁ……」


 紬祈の裸なんて、言ってしまえば転生前のゲームでいくらでも見てきた。そのシーンで致したことも、ある。


 しかし2次元でしかなかったそれと、現実になった今とではわけが違う。


(いやいや……)


 俺は紬祈のことを妹として認識している。


 オ○ニーならいざ知らず、裸程度で欲情することなどない。


(紬祈は妹紬祈は妹紬祈は妹紬祈は妹紬祈は妹紬祈は妹紬祈は妹紬祈は妹……!!)


 問題ない。俺は冷静だ。


「兄さん?」

「ひゃ、ひゃい!?」

「入っていいですか?」

「ど、どうじょ……!?」

「失礼します」


 ゆっくりと扉が開かれる。

 俺は顔を逸らして、目を瞑った。


 今、俺と同じ空間に裸の紬祈がいる……!?


「兄さん、こっちを見てください」

「いや、それはさすがに……」

「見てくれないのですか……?」

「ダ、ダメだ。見ない」

「そんなに私の身体には魅力がないでしょうか……」

「…………っ」

「見てくれないと、泣いちゃいます……」

「つ、紬祈————あっっっっ」


 悲しそうな声につられて、思わず視線を向けてしまう。


 そこには一糸まとわぬ姿の紬祈が——


「え……スク水?」


 スクール水着姿の妹が立っていた。


「はい、どうですか兄さん。似合っていますか?」

「あ、うん。似合ってる。可愛いと思うよ」

「そうですかそうですか♪」


 青いスク水に身を包んだ紬祈は嬉しそうに微笑んで、その場でくるりと回って見せる。

 ぴっちりとした水着が白い肌にほどよく食い込んでいた。


「どうしたんですか、兄さん」

「え?」

「ポーッとしていますよ?」

「そ、そんなことは……」

「もしかして、妹の裸が見れなくて残念でしたか?」


 ニィっと紬祈の中の小悪魔が顔を覗かせる。


「ごめんなさい兄さん。紬祈の裸は、もっともっと大事な時にとっておきたいので……」


「だ、大事なとき……!?」


「はい♪ だから、今はここまでです……♡」


 紬祈は浴槽の方へと寄ってくる。


「入っていいですか?」

「え、そ、そこまで一緒に!? 狭いぞ!?」

「それがいいんだと思いますよ♪」


 細い脚を持ち上げると、俺の股の間に入ってきて座り込む。

 スク水を着ているとはいえ、紬祈の傷ひとつない綺麗な背中が間近に迫ってドキドキしてしまう。


 結った亜麻色の髪からは、艶かしいうなじが覗いていた。

 

「気持ちいいですね、兄さん」

「そ、そうだな……」


 会話も上の空になってしまう。


「まるで兄さんに包まれているみたい」


 こちらへ視線を流す紬祈の頬は上気していて、なんとも色っぽい。


「抱きしめてくれますか? もっと兄さんを感じたいです」

「えっ……!?」

「なーんて、冗談です」


 紬祈は悪戯っぽく笑う。


「代わりに、手を握りましょう?」


 俺の手を取ると指を一本ずつ、恋人のように絡ませる。なんだかこそばゆいような感覚だ。

 

「ずっとこうしていたいですね……♪」


 リラックスしたようすで呟くと、背中を預けてくる。

 熱いお湯に浸かっているというのに、それ以上の熱が紬祈から伝わってくる。


「兄さんも、そう思ってくれますか……?」


「……ああ、そうだな」


 なんだろう、この心地の良さは。

 

「それは良かったです」


 紬祈はホッと息を吐いた。


「私だけですよ。こんなふうに気軽にお風呂で一緒していいのは」


 握り合う手のひらにギュッとチカラがこもる。


「妹だけの特権なんですからね♡」


 兄としては、気軽さなんて微塵もないのだが……。


(妹が、可愛すぎる……)


 この時間は幸せ以外のなんでもなかった。



 深夜。


「兄さん♡ 兄さんッ♡ もっと……♡」


 紬祈の乱れようは凄まじかった。


(妹がエロすぎる……)


 義兄として生きるのも楽じゃない。

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