魔法使いの初恋
俺はしがない魔法使いAだ。のらりくらりと生きてきた冒険者である。どうもギルドが暇すぎるのでだらけている。まぁ、暇なのはこの国がとても安定していて、すごいいいことではあるのだが、冒険者は上がったりだった。周りの冒険者も稼ぎに隣国へ仕方無しに出向いたりしている。しかし、今日はあいにく模様が雨である。皆この冒険者ギルドにすらこない。こんな雨模様だと過去のことを色々思い出してしまう。
これは、ある一つの手紙から始まる。その内容は大した内容ではない。どちらかと言うと、私には関係ない手紙のはずだった。当時は忙しい毎日だった。薬草の採取や隣国へ行くという市民からの防衛依頼。そんなものが多く出回っており冒険者ギルドは賑わっていた。そんな時期にも関わらずパタリと依頼がとまったのだ。そう雨が降っていた。雨が降ると人は動かない。いや、動く人間ももちろんいるのだが、どちらかと言うとそちらの方々は働くことを重きとしている人たちだけだった。雨がふると家から出ないのはお国柄とでもいえるだろうか。ほとんどの商店は休みになる。変わり者たちだけが働いている。もちろん冒険者ギルドもその一員だ。そもそもこの国出身ではない、他国の冒険者さんもいるのだから、休みになるということがありえないのだ。そんな中でもたまたま、居合わせたのが私だけだった。
「ガロンさん緊急です。お願いできますか?」
「ルールですから」と周りを見ていった。そうこの冒険者ギルドは緊急案件がはいるとギルド内にいる冒険者さんに受付嬢から直接指名が入る。誰もいなければ当然私に回ってくる。それを厄介と思ったことは一度もない。そうして、なんの依頼なのかを詳しく聞いた。
ある手紙をある人に届けてほしいという依頼だ。本当は手紙屋と呼ばれる人々がいるのだが緊急便はこういった冒険者へ依頼するほうが速く相手に届くのだ。宛先は、この国の少し離れた田舎村だった。普通に手紙屋に依頼すると3、4日はかかってしまう。そして、通常の冒険者だとしても、一日半はかかるだろうが私は、風魔法を得意とするから雨を避けながらその分速く動けるから一日で行ける。
「あなたは、幸運ですね」と受付嬢が言い放った。
「な、なんでですか?」
「今依頼を受けたガロンさんは風魔法が使えます。移動速度は通常の冒険者に比べて1.5倍位早いです」
「良かった。いち早く届けたい手紙なのでよろしくおねがいします」
「おい、メイ。あんまりハードルを上げてくれるな」
受付嬢はてへっと舌をを出しておどけていた。
「では、まとめるぞ、田舎村の方に手紙を届ける。期間は今日から明後日までの期間でいいか?私であればおそらく明日の朝までにはついているはずだ」
「はいお願いします。急ぎ渡してもらえればそれでいいので、完了報告は急がなくても大丈夫です。どうせ手紙の返信は時間がかかるだろうし……」と依頼者は濁した。私はその件に関しては、あえて探りは入れなかった。守秘義務もあるだろう。余計な詮索をしないのは冒険者の心得だ。
そうして、緊急依頼をこなすために、やむおえず風魔法をつかいながら雨を避け、靴にもブーストをかけ田舎村へと駆けた。少し飛ばしすぎたようで、その日の夕刻にはついてしまっていた。私も結構鍛錬をつんだものだなぁと感心した。いろいろな冒険をするのは楽しい。色んなダンジョンへ足を運び新しいものを発見できるのは冒険者の特権だと私は思っていた。今回は、お手紙を届けるだけの依頼なので、目新しいものは全然ないのだが、自分の成長を感じられたので良しとしよう。
「おーガロンじゃないか?」急に声をかけられた。かけられた方に顔を向けると馴染みの人間がいた。
「セリアか。何してんだここで」
「ちょいと野暮用だよ。お前は?」
「市民様からの緊急依頼さ」
「お前はほんとう、よく働くねぇ」
「うっせぇ。たまたま私しかいなかったんだ」
「そうだ。お前今日ここに滞在するか?」
「そうだな。流石にブースト使って来て疲れたし泊まってから依頼完了報告に行こうと思っている。この案件も届けることが任務だし、問題はないだろう」
「おし、じゃぁちょっと付き合え」
そう言われて、別れて依頼者指定の方に手紙を届け、依頼は完了した。あとは戻って報告するだけで問題はない。いつもの冒険者宿へ向かい、一泊する手続きをした。ルームキーを渡され、部屋へ向かう。宿泊する分には問題ない部屋の間取りで慣れ親しんだ場所である。大きめのベットが大半を締め、入口付近には荷物を置く台や、ローブなどをかけるクローゼットがある。私はそのクローゼットにローブをかける。そして、そのままベットへ向かって、少し睡眠を取ることにした。セリアと会う時刻は暫く先である。魔力を使ったのもあり気づくと意識が落ちていた。
♪
起きたのは、夕刻前だった。セリアとの約束の時間が迫っていた。外を見ると雨はやんではいるが、まだくもっていた。軽く準備をして、集合場所へと向かった。
「お、ガロンぴったりだな」
「寝過ごすところだったよ」
正直に話すと、セリアは笑った。
「お前は昔から正直だよな。まぁそこがお前のいいところであり悪いところなんだけれどな」
「何を知ってるんだよお前は」
確かに、セリアとは長年の付き合いだが、そこまで苦楽をともにした記憶はない。俺より普段冒険より遊び呆けてるようなやつだ。ただ、冒険者の腕は一人前である。なんというか、オンオフがきっちりしている人間と言えようか。正直なところ知り合いじゃなかったら毛嫌いするタイプだ。
「それで、用事って言うのはなんなんだ?」
「言ってなかったか?合わせたい人がいるんだ」
「言ってないし、またかよ。お前が合わせたい人がいるっていうのはだいたい飲んだくれるだけだろが」
「まぁまぁそうはいうなって、今日は全部俺のおごりだ」
おごりならまぁいいかと思い、そのままついていくことにした。だいたいこういうときはセリアはおごってくれる。今までセリアと遊ぶときはほぼセリア持ちだった。男前すぎる。
「しかし、こんな田舎村に飲み屋なんてあるのか?」
「最近、夜も始めたらしいぞ。あの定食屋」
「え、あの定食屋が?どういうつもりだ?」
「いや、最近酒の供給が良くなったらしくて、安易に取り寄せることができるらしい。それでそこのマスターが実は定食屋ではなく、お酒を提供できる飲み屋を経営したいと思ってらしくてな」
「あのおっちゃんが?そんな風には見えないけどなぁ……」
ここの田舎村の定食はすごい美味しくてここにくると必ずは食べにくるくらいのご飯やさんだ。そのマスターがお酒を飲むような人だとは思わなかった。人は見かけによらないんだなぁと思った。
「いや、お酒は弱いらしい」
「いや、弱いんかい!!」
思わず突っ込んでしまった。
「なんか、田舎だからこそ飲み屋を作って情報を仕入れるんだとかなんとか」
「あのマスター時々意味がわからないよな」
そんな、ことを談笑しながらその定食屋へと向かっていった。
夜も手伝って、昼の定食屋の雰囲気とは全く異なっていた。なんか本当に飲み屋っぽいなと思うくらいには飲み屋になっていた。
「ほーすごいな。同じところとは思えない」
「だろう。俺も来たときはびっくりしたよ」
そういいながら、私達は店内へと入っていった。入っていくと中の雰囲気も違うように感じられた。同じ配置のテーブル、カウンター席のはずなのにカウンターにはお酒がずらりと並び、ショットグラスやらもカウンターの奥にある棚へ配置されていた。昼だとそこはカーテンで仕切られていてなんでとは思っていたがそういうことだったのかと納得もした。そして、店の奥側ほうのカウンターに一人女性が座っていた。ショートヘアの女性で美人と言うよりは少し艶やかさがある感じの雰囲気だった。しかし、うつむいてて顔こそはまだ拝見できてはいないが、私の想像している顔であってくれと願った。
「おーミラ。はやかったな」と、セリア。
そうすると、奥側にいた女性は声に反応し、顔を上げた。少し目が細く、鼻がすっと伸びており、狐っぽさを感じてしまった。正直好みだった。俺がどぎまぎしていると。
「あれ、ガロンもしかしてほれた?」
「そ、そんなことねーよ」図星だった。願ったとおり、顔立ちである。
「あーきみが、ガロン?セリアから聞いているよ魔法使いなんだってね」
「そ、そうです」緊張して敬語になってしまうくらいにテンパっていた。声も、そんなに高くなく、落ち着いた雰囲気の声で、どこかしらお姉さんっぽさを感じる。年上が好きって言うわけではないのだが、なにかこう落ち着いた声が安堵を私にもたらすのだ。
「紹介したいって言ってた。ミラさんだ。俺らと同じ冒険者だ。ただ隣国のな」
「あー隣国の。大変ですね」
隣国の冒険者は、市民と対立しており、一切市民の依頼は受けていなく、主にダンジョン踏破がメインの国である。一言冒険者と言っても、色々ある。我らの国はそこまではひどくはないが、ひどいところでは奴隷にみたいに扱う国もあるそうだ。
「大変とは思わないよ。私が冒険者になるときからそうだし。そもそもそれが当たり前なんだよ。冒険者になるのは、落ちぶれた人間だけだよ」
そこはどの国でも共通認識である。違いはその扱いである。冒険者の子は冒険者であることが当たり前なのだ。自ら望んで冒険者になるのは本当にまれだった。
「と、言うことは親が冒険者さんですか」
ミラはこくんとうなずく。なるほど。
「まぁ、そんなことはどうでもいいじゃないか。今が楽しければそれでいいだろう」とセリア
「たしかにそうだが……」
「それで、話を戻すんだが……」とセリア。なぜ私に彼女を紹介したいと思ったかを話し始める。セリアは私の好みを把握してくれている。そういう話をよくするからだ。そして、同業者。それが最低条件である。身分の違う恋は本当にめんどい、ならば同業者同士で付き合ったほうが楽である。と思うのが私の持論だった。それで、偶然あったミラさんが俺の好みの女性だと踏んでセッティングしたとのことである。
「しかし、隣国とはまた遠いですね。ここには何をしにきたんですか」
彼女が一瞬どきりとしたように思えた。
「え、えと新しいダンジョンが見つかったそうなんだが……」
「そ、そう!!ただ、管轄が隣国の冒険者ギルドでな」とセリア。
何かがおかしい。変に気を使われているような。私も冒険者の端くれではあるが、ダンジョンの情報などは豆に更新しているつもりだが……いつのまに新しいダンジョンが見つかったんだろうか。
「お二人なにか隠しているのか?そもそも新しいダンジョンの情報なんて聞いたことないぞいつ出たんだ?」
「あれ?そうだったけ?つい先日だったと思うぞ、隣国の管轄だから俺らのとこはすこしおくれたんじゃないか?」
「セリア……お前は嘘をつくのが下手だな。冒険者ギルドは独自のネットワークが気づかれている。情報は統一されてるんだ。長年冒険者をやってるならそれくらい常識だろう」
「くっ……」
「俺を騙すのは百年早いぞ」
そう話をしているとミラが話に割ってきた
「すまない、騙すようなことしてしまった。そういうわけではない」
俺には疑問符が頭にできる。
「なんでミラさんが俺を騙す?」
「すまない、私はミラ=ルーン・ハイレンだ」
「ハイレン?」
どこかで聞いたことあるような名前だ。しかし何故か思い出せない。そして私は続けて言う
「ハイレン……ってなんで冒険者にファミリーネームがあるんだ??」
冒険者は基本的にはファミリーネームは存在しない。存在しても隠して生きることが大半である。
「ハイレン王国の第三王女ミラ=ルーン・ハイレンだよ」
「王女様がなんでここに?!」
そうだ。ハイレン王国。隣国の名前だ。
「声が大きい!!」とセリア。
「すまん……でもなんでここに」俺は疑問符しか浮かんでこない。
「実はな、俺らの国では市民と冒険者はほぼ対等であることに興味があるらしくお忍びで来ているらしい」
「なるほど。他国の観察ってことか」
「そうなるな、ただお忍びだそうだ」
「第三王女って王位継承権はあるのか?」
本人がまた割って入ってくる。
「私に王位継承権はない。王位継承権は王子だけ与えられるのだ」
「ではなぜ観察しにきたのですか」
「私はな……私の国で冒険者がどれだけ大事なのかを国民に知らせたいのだ。あまり関わりを持たない国民が冒険者を毛嫌いすることが歯がゆいのだ」
「でも、王になれないのであれば、それは叶わないのでは?」
「時期王は、私の二番目の兄になるはずだ。そしてその二番目の兄に命令されてここに来た。私の父はそう長くない。そうして裏でこうやって改革をしているのだ」
そう語る眼の前の女性は本当に凛々しかった。ほんとうに冒険者と国民をどうにかしたいと言う気持ちが溢れていた。そして、俺の初恋も同時に終わった。それは無理だ。王女に恋なんて恐れ多い。
それから、ミラ王女はお忍びで色々調べあげ、ハイレン王国は冒険者と国民が関わりを持ち繋がりができたのは言うまでもない。
♪
「これだから雨は嫌いだ。そんなことを思い出してしまうから。初恋は実らないと言うがほんとうにそうだ」
「ガロンさーん?どーしたんですかー恋がどーのってなんです」
「いや、こっちの話だよ」
「え、ガロンさん好きな人でもできたんですか?初恋ですか?」
「いやいや、少し昔の話さ」
今日も、この雨は止みそうにはなかった。今日も一日何事もなく過ぎていくだろう。好きだと思う気持ちは風化しない。次はいつ人を好きになれるだろうか。私を好きと言ってくれる人間はいるのだろうか。そんな事考えても仕方ないか。
「雨だと気が滅入りますねーまぁ……次がありますよガロンさん!!」
そう言って受付嬢の彼女は慰めてくれた?彼女も誰かを好きになることがあるんだろうかそれなら幸せになってほしいと思う魔法使いAである。
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