魔法使いの憂鬱
柊木 深月
魔法使いは猫を探す
「魔法使いの憂鬱」
私は、そこら辺にいる魔道士Aだ。名は名乗るほどでもない。冒険者ギルドで暇を持て余している。昔は、「冒険」にあこがれて色んなパーティと冒険をした。もちろんダンジョン探索も行なった。レベルはもちろん中堅くらいには上がっており、魔法も大分極めた。私が得意とする魔法は風属性だった。この世界には、4つの属性が存在している。火、水、風、土である。噂によれば光や闇もあるそうだが、伝記や伝説の類だ。冒険すると必ずついてくるのは怪我だ。もちろん怪我をした場合はすぐに撤退をする、止血をし、骨が折れていれば固定をさせる。回復薬等は存在はしているが、回復は微々たるものだ。それらを飲んだからと言って体が超回復するというようなことはありえない。もし、治癒魔法などが存在すれば、冒険も幾分かは楽になっていたであろう。冒険者になるものは大抵職につけない学がないものや、近衛兵などにもつけぬ端くれ者が多い。きちんとした者であればまず冒険者ギルドなんて訪れることはない。私もその端くれ者と同じだった。魔法さえ使えれば職は安泰と言われたこの国で私は魔法使いで冒険者として活動をしている。冒険者から足を洗い、職につけるかと言われるとかなり難しい険しい道である。冒険者となってしまったが最後なのだ。市民から発注される依頼や困りごとの解消などが多いこの国は、まだ冒険者に理解がある国であることが救いだ。噂ではあるが、他国では扱いが奴隷ぐらいの場所もあるそうだった。
さて、話が大分それてしまった。なぜ私が冒険者ギルドで暇を持て余しているかと言うと、依頼がほぼなくなっていることが原因だ。市民からの依頼は日に日になくなってきている。回復薬の原材料さえも、農家が栽培し、流通までしている。近辺調査自体もほぼ完了されている国であり、新しいダンジョンさえ、生まれなければ冒険者は暇なのである。他国に旅をしたらいいのではないかなんて考える輩もおるが、それは若い冒険者のみである。理由は先程いった冒険者は他国だと奴隷扱いすることもあるが原因である。私は生まれも育ちもここであるから他国の事自体についてはほぼ皆無である。ある冒険者と一緒にダンジョン探索していた時に私にこういった。「お前の国はいい国だな冒険者を差別する事がないじゃないか」当時の私には到底理解ができなかった。旅をしたくて冒険者になったわけではないので、私は他国に訪れることがなかったからだろう。
そんなことを思い返したいると一人慌てた様子で受付カウンターまでいく人を見た。
「すみませんすみません、い、依頼をすぐにお願いすることはできますか」
「な、なんでしょうか。場合によっては受付ができないものもあります。とりあえず落ち着いて話をしてくださいませんか?」
受付嬢は、一人の来客をなだめていた。冒険者ギルドの受付は、元冒険者であることが多い。国の所有物ではあるが、関わりを持ちたくないゆえに、冒険者へ国が投げたのだ。なので、短剣を腰に挿している嬢は多い。自己防衛のためだ。ま、そんな杞憂することもないのだが……念の為なんだろう。片手をさやに伸ばしている。
「子猫を、子猫を探してほしんです」
「子猫ですか……それはまた難しいですね」
「そうですか。でも諦めたくないんです」
「大事な子猫さんなんですね。わかりました受け付けましょう」
そうして、彼女は手続き書類を依頼者へ渡して手続きを行なっていた。しかし、周りに冒険者いない。いるとすると私ぐらいだろう。私はこういう類のものは苦手でありあまり受けることはなかった。だから今回も見送ろうかと思ったが受付嬢から声がかかる。
「今ここにいるの、ガロンさんぐらいですからお願いできませんか」
「やはりそうなるか?」
「はい」
受付嬢が私を指名した。よくあることだ。緊急的なものであればその場にいる冒険者へ声がかかる。その声は拒否ができない。それがルールである。
「ありがとうございます」と声がかかった。
仕方ないと私は、子猫を探す依頼を受けることとなった。
♪
子猫の特徴を依頼者から聞いた。いわゆるどこにでもいる三毛猫であること。首輪は黒く鈴が小さくついているという本当にありきたりな猫である。捜索が困難をきわめそうな猫姿である。特徴もないと探しにくい。私は知恵を絞る。情報があまりにも少なすぎて頭を抱えた。この国からは出ていることはないと依頼主は言っていたが定かではない。実は、この国には「上」もあるのだ。その「上」とは空中都市である。行き方は単純明快、上にいくだけ。しかし、上に行くにはある条件がないと行くことができないのである。
「もし、空中都市へといっているならお手上げだ……」
「ガロンさんはいくことができないのですか?」
「いや……」と私は言葉を濁した。
行けなくはないのだ。私は魔法使いで風属性使い。魔法を使って飛べばいいだけ。私一人くらいは浮かせることは容易だ。ただリスクがかなりある。つまり面倒くさいのだ。他に手立てがあるとすれば公的な手続き行うことになるが、その手続きには一ヶ月程度はかかる。
「私達が上に行くことは禁止されているのです。」
地上で暮らしそこで働いてる一般市民は空中都市の行き来を禁じられている。行くすべがないのだ。ただ冒険者は違うらしい。先程も言ったが公的手順を踏めば行き来ができる。それは冒険者の特典みたいなものだった。
「私らは公的な手順さえ踏めば上に行けるのだが……ただその手続きに一ヶ月ほどかかるのだよ」
「時間がかかるのはちょっと……ほんとうに心配なんです。一ヶ月も会えないなんて考えれません」
「うむ……とりあえずここで探してみるか……」
「そうですね私ももう一度探してみます」
そうして、私達は隅から隅へと子猫を探し始めたのだった。
――空中都市、庭園(中庭)
「あら、可愛い子猫ちゃんだこと。迷い猫かしら?」
一人の女性が、猫を見つけたようだった。猫は三毛猫で少しばかり小さいようだった。
「もしかして、下の猫かしらね」続けて女性は言った。女性は断言したのだ。この猫が下の猫だということを。
「どうやってきたのかしら?動物は自由に行き来するっていうことを聞いたことがあるけど本当なのね」
すると、女性の後方からまた人影が現れた。
「おや、シータ。どうしたんだいこんな中庭に」
「ロア。猫ちゃんが迷い込んできたみたい」
ロアと呼ばれた男性はその女性とかなり親しい間柄と見て取れた。まるで婚前の二人のようである。
「そうか、下の猫か」
彼もまた猫を下の猫と断言する。
「そうなの。どうしようかしら?」
「きっと飼い主さんが探しているだろうから私が、『下』へ行ってこようか?」
「でもあなた最近「下」へいきすぎじゃない?」
「そうかな?そんな事はないと思うけれど」
上に行くことは難しいが下に行くことはどうやら簡単にできるようだった。
これは上の者が下の者より上流だと言うことであることが明白だった。自由に下へ行くことができるそれは上の者だけが知っている。
「まぁいいわ。今回はその猫ちゃんが迷い込んできたせいでもあるし」
「そうだろう!そうだろ!!」
ロアという男性は目を輝かせていた。すると今度は二人の面前から人ではない何かが現れる。
「ロアにシータ。お茶会でもしているのかい」
二人に声をかけたその姿はそこにいる三毛猫と何ら変わらない姿だった
「あら、違うわよニー。これよ」とシータ
「あー下の猫か」とニーと呼ばれた猫が人語を喋っている。
そうシータやロアが断言できたのはそういうことだ。
上の猫は人とコミュニケーションがとれるのだ
「まったく。下の猫も困ったものだ。すぐにここに来たがる」
「しょうがないじゃない。ここのほうが空気は美味しいんだもの」
「確かに。そりゃそうだ。そうだ私が、この猫を『下』へ連れて行ってやろう。丁度『下』へ行く予定があるから」
「ニーが『下』へ行くなんて珍しいわね」
「ニー……ほんとうにタイミングが悪いな」
「まさか、ロア。その子をつれて『下』へ行こうとしたか?」
「そのまさかだよ!せっかく行けると思ったのに……」
「猫同士のほうがバレないからな優先されるのは俺だ」
「そーだな。残念だけれどそのほうがいい今回は潔く諦めるよ」
そうやって話はまとまった。ニーと言われた猫はその三毛猫をつれ「下」へ降りた。
♪
――冒険者ギルド
「やっぱりいませんでした」
「仕方ありませんまた明日、日が登っているときに探しましょう。もしそれでもだめなら『上』に行く手続きをしましょう」
「はい……」
依頼者はそういって冒険者ギルドをあとにした。
「やっぱり『上』なのかしらね」
「あぁ多分な猫は『上』が好きだからな」
「まだ私達もよくわかってないのよね。なんで空中都市があるのか」
「そうなんだよ。一般市民も立ち入れないのに俺ら冒険者は手続きをすれば『上』に上がれる。ただその受付もここ経由だ。」
「私達受付嬢は何も知らないわよ」
「そこもおかしいんだよなぁ上に行くときはここマスターのトーマ・カヤバに届け出が必要」
「この国の七不思議の一つだわ」
「まぁ私達が知ったところでっていうのはあるがな」
そう、気にしても仕方がないのだ。一冒険者はそんなことを考えることはしないのだ。
「まぁでも今日はいい気分転換ができたよ」
「あんなだらけてるガロンさんも珍しいですからね」
「ははは、私はもう志がないのだよ。譲ちゃん。」
「いや、ガロンさん。ガロンさんはこれからですよ頑張ってください」
「君に言われるとは私も落ちぶれたものだ。まぁ落ちぶれてるんだけれど」
私は自虐するしかなかった。それくらいに憂鬱だった。まぁ今の依頼はきちんとこなそうと私は心に誓った。
「この依頼うまく収まるといいですね」
「あぁ……」
そんな話をしていると猫の声が聞こえた。
「あれ?今猫の声しなかったか?」
「気のせいじゃないですか?」
「いや聞こえた気がするちょっと外を見てみるよ」
そうやって私は冒険者ギルドから外へでた。するとそこには二匹の猫がいた。片方の猫はやや大きく毛並みが整っておりきれいな黒色だった。瞳はエメラルドであり気品を感じる。一方の猫は少し小さく、依頼者が言っていた三毛猫である。毛並みは整っていはいるが大きい猫よりは気品さを感じない。まるで、黒猫が三毛猫をここへ連れてきたような感じだった。
「おい、メイ!猫がいる」
俺は受付譲を呼んだ。
「あら、可愛い猫さんだわ。しかも二匹」
「あぁ、しかもこの猫依頼者の猫じゃないか?」
「本当だわね。三毛猫だ」
通じるはずもないが、私は猫に訪ねた。
「お前がこの猫を探してくれたのか?」
「ガロンさん猫に話しても無駄ですよ」と受付嬢は笑った。
しかし、黒猫は鳴いた。まるでそうだよと言わんばかりに。
「ガロンさん今この子鳴きましたね。意思でも取れるのかしら」
「お前……今自分が言ったことと矛盾してるぞ」
「でもなんとなくそんな気がしたわ」
「同感だ」
そして黒猫は私に再度お願いするように三毛猫を前へ押し出す。そして、黒猫はまた鳴きその場から離れてしまった。
この晩三毛猫を冒険者ギルドで保護し、翌日依頼者に見せたところ「確かに私の子猫ルーですありがとうございます」と深々とお辞儀をした。
こうして、迷い猫依頼は無事解決したのだった。
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