第4話
――炎に包まれた家の周りでは、その家の人たちや村の人たちが必死の消火活動をしているが火の勢いは衰える様子がない。
母親が泣き叫び、必死に家へと近寄ろうとするがまわりの村人たちに止められ近づくことができない。
……とその時、
全身を真っ赤な炎で包まれた大きな紅い鳥が悠然と夜空に現れる。
呆気にとられる村人たちの側を帽子を被った少年が駆け抜けていき、ようやく気がついた何人かの制止も振り切って煙と炎が渦巻く家の中へと突っ込んでいく!
何事かと騒然とする村人たちの頭上で鳥が一声高く鳴く。
夜空を見上げた村人たちがいまだ燃え盛る家に視線を戻すと、何かを抱えながら炎の中を歩いてくる人影をそこに認める。
彼らは不意に気がつく、あの少年と赤ん坊だ、と。
不思議なことに、煙と炎は、少年と赤ん坊をまるで傷つける様子がない。従順な下僕のように少年につき従っているように見える。
紅く照らし出された少年の姿は、
まるで、炎のマントに身を包んだ王者の如く。
あるいは、炎の巨大な羽根をもつ悪魔の如く。
村人たちは慄くことしかできない。
ついに炎の中から抜け出した少年は、もう大丈夫だと笑顔で宣言する。
赤ん坊の母親が、村人たちの制止を振り切って少年の方に駆け寄る。
少年は笑顔で赤ん坊を母親へと差し出す。
母親は険しい顔で赤ん坊を少年からひったくると、拒絶するような視線を少年へと向け、そのまま群衆の中に駆け込んでしまう。
戸惑う少年は助けを求めるように周りを見るが、少年のことを見る村人たちの目は、何かおぞましいものを見ているかのようで、
……ボクは混乱した。
今度こそは、『力』をうまく使えたと思ったのに。ヒクイドリだって、使いこなせたのに。人に怪我をさせるんじゃなくて、上手く炎をコントロールさせることができたのに。
村人たちの間から、囁く声がこだまする。
見なよ、あの魔物、恐ろしい。
見なよ、あの力、人間じゃないよ。
見なよ、あの姿、あの子も魔物だよ、きっと。
「違う! ボクは、魔物なんかじゃない! ボクは人間だ! だから、そんな目で見ないで!」
ボクは、絶叫した。
赤ん坊の泣き叫ぶ声が、真紅に染まった夜空に反響して、……
「!」
ボクは、飛び起きた。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
荒く息をつきながら、いつもの自分の部屋であることを確認する。
「……夢、か」
ボクは額の汗を拭いながら立ち上がると、いつものように帽子を被る。そして、窓際に歩み寄ると、カーテンを静かに開ける。
……梅の木が、そのか細い指先をおずおずと伸ばして、空にそっと触れようとしている……
「ふぅぅ……」
窓におでこを預けながら、ボクはため息をついた。
あの日、詩音お姉ちゃんを助けてからというもの、ボクと詩音お姉ちゃんは一緒に行動するようになっていた。
ボクは野山のいろいろなことを教え、詩音お姉ちゃんはボクの知らない世界の話をいろいろと教えてくれた。
おじいちゃんには内緒で、こっそり、『カード』を使う練習もした。ボクが『カード』を使う所を詩音お姉ちゃんに見ていてもらい。『力』を使いこなすための練習をしたんだ。
今までは、見ていてくれる人がいなかったから練習のしようがなかったんだけど、――術者はその『力』と一体になっちゃうので客観視しにくい――、詩音お姉ちゃんのおかげで、ボクの使える『カード』は質・量ともに格段の進歩を遂げたんだ。
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