二日目 学校をサボりたい君
いつも通り屋上で本を読む。今日はアルマジロの人形アルマさんを抱えながらページをめくる。少しするとサトナさんが来た。
「やあ!少年おはよう。今日は死ぬのにいい日だね」
「おはようございます。死ぬのにいい日も悪い日もありませんよ。今日はカラオケに行くんですよね」
「行きたいところだが、私は今日塾があって遅くまで遊べない。ついでに昨日も塾だったとCOしておこう」
「なんつうカミングアウトですか!?もしかして昨日の電話って、、、」
「塾にいかなかったことを知った親からの電話だが?」
「・・・他に隠してることはないですよね?」
「さあ?君こそないのかな?」
「・・・ないですよ」
サトナさんは時間だと言って教室に戻った。僕も本をしまって屋上を出る。今日は久しぶりに教室に行くことにした。
この時間は体育なのか教室には誰もいなかった。自分の机に向かう。机の上におかれた花瓶と数々のメッセージを片付けて席に座る。少しの間ボーとしていると誰かが教室に帰って来た。僕には目も合わせず荷物を取ってさっさと教室を出る。僕は改めて自分の置かれてる状況を知るのだった。
昼休み、今日はサトナさんは来なかった。彼女には友達がいるから仕方ない。そう思いアルマさんをぎゅっと抱き締める。本を読もうにも心が落ち着かない。
呼び鈴がなる十分前くらいだろうか、屋上の扉が開く音がした。振り返るとそこにはサトナさん、、、ではなく弁当を持ったクラスメイトの男子二人だった。ビックリしてつい物陰に隠れてしまう。そっと二人の会話に耳を傾ける。
「屋上って意外と広いんだな。今日からここでご飯食べね?」
「やだよ~だってここ出るって噂だろ?」
「なにがだよ?」
「幽霊だよ~。ここで自殺した学生の幽霊が出るって有名な噂だよ~。ぼく、こういうの苦手だから。ね、やっぱり教室で食べよ~?」
「え~、そんなの噂だろ。いるわけ、、、」
僕が二人の話を聞いていると屋上のドアがドンと大きな音をたてた。それにビックリしてクラスメイトは逃げてしまった。
「やあ!少年。遅くなってしまってすまない。さっきの一年は君の友人か何かかい?」
どうやらさっきのドアの音はサトナさんのようだった。
「・・・クラスメイトですよ。あんまり話したこと無いですけど」
「そうか、そしたら弁当箱を持ていってくれ。彼らよほど急いでたらしくお弁当箱を忘れたらしい」
「わかりました」
「さて、話は変わるが今日は何をしてくれるんだい?」
「・・・?あと十分ぐらい授業始まりますよ」
「そうなんだよなあ。何かやれることとか無いのか?」
「10分だと厳しいです。授業をさぼるとかしない限り」
「・・・。」
なんか余計なことを言った気がする。サトナさんは腕組みを何かを考える。時々スマホをいじりながら考え込む。頼むから変な方向にだけはいかないでくれ。そう願いながら見つめる。数分後なにかが吹っ切れたようにサトナさんは話す。
「安心しろ、友人のお陰で授業はなんとかなりそうだ」
どうやら僕の願いは届かなかったようだ。今からやめようにも友達にいってるらしく手遅れだった。
「わかりましたよ。授業をサボりますか!」
「やったぁ!」
サトナさんは目を輝かせながら喜ぶ。ただそれだけなのになぜか懐かしい気がした。
僕は廊下の様子をうかがう。今なら誰もいないから簡単に抜けれそう。僕はサトナさんを呼んで廊下に出る。誰もいない廊下、教室から聞こえる教師と生徒の声。少しでも気を抜いたら誰かに見つかるんじゃないかという緊張感からかいつもより行動が慎重になる。僕は大丈夫だが、サトナさんは見つかったらまずい。
「いいですか?絶対に離れないでくださいね?」
「そんなに心配なら手でも握ればいいじゃないか」
「わかりました」
そう言って手を握る。離れないように強く。普段の僕なら照れたりしてるだろうけど、今はそんな場合ではない。音をあまりたてないように、でも時間をかけないように走って移動する。
外に出て僕たちは公園のベンチで一息つく。少し走ったせいかサトナさんの顔が赤い。
「大丈夫ですか?顔赤いですよ」
「・・・そろそろ手を離してくれないか」
「・・・?わかりました」
僕はサトナさんの手を離す。そんなに手を繋ぐことが嫌だったのかとショックを受ける。無言の空間が辛い。少しの間が空いたあと、知らないお爺さんが話しかけてきた。
「そこの若いの学校はどうしたんじゃ?」
「サボってるだけですよ」
「若いのぉ、ワシにもそんな時期があったわい」
「怒ったりしないんですか?」
「サボるのは学生の特権じゃ、しかし可愛らしいお嬢さんが誰もいない公園にいるのは感心できん。気を付けるんじゃよ」
「・・・わかりました」
お爺さんは帰っていった。サトナさんは不思議そうに僕を見つめる。
「少年は、、、男だよな?」
「・・・そうですけど?」
僕はムッとしながら答える。念のため言うが
「あははは!」
「何がおかしいんですか?」
「学校出る前までは男前で別人みたいだった少年がいつも通りの少年戻って安心しているのだよ」
「そんなに違いましたか?僕はいつも通りだと思ったんですけど」
「あぁ、軽く惚れる程度には」
「っぐふ」
なんか不意打ちでデレられたんだが。ギャップ萌えで死にそうになるのをなんとか耐えて夕日を眺めていた。
少しして、サトナさんは帰る時間になった。荷物は友人に持ってきてもらうらしい。
「今日は満足できましたか?」
「うむ、満足したぞ少年。明日こそはカラオケ行こう」
「そうですね、ではまた明日」
そう言って今日もサトナさんとの一日が終わった。
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