第3話 入り口の本
異世界転生、異世界転移。好きで沢山読んでいると思う。自分もそんな風に異世界に行ってみたいと思わなくもないけど、所詮物語だよって思っている自分もいる。そんな風に自分が呼ばれるとか、チートな能力をもらって無双とか、あり得ないよなあと。
その本屋は、初めて見る本屋だった。
(こんなとこに本屋があったんだ)
興味本位で入ると、品揃えが可怪しかった。異世界転移、転生モノのオンパレードだ。それだけではない。古今東西の神隠し、世界の人や都市が消失した話などといったものが集まっている。物理学の次元論なども見られる。ヒョイっと見たら、『不思議の国のアリス』まであった。
(なんだ、この本屋)
薄気味悪い位の偏った品揃えだ。こんなんでやってけるのかな、他人事ながら考えてしまった。
その中に、今まで見たことのない本があった。
『異世界の歩き方-異世界転移への招待-』
文庫本サイズより一回り大きいぐらいのサイズでそれほど分厚いわけでもない。本を手にとって、中身を見ようとしたが、シュリンク包装がしてあって確認できない。表紙と背表紙に題名が書いてあるだけで、他にはなんの情報も無い。シュリンクの上に値札が貼ってあって「1880円」とある。
この本は1冊しかない。
題名以外何もわからない本を買うかどうかは難しい。ハズレを引いたら落ち込みそうだ。でも、本との出会いは一期一会だ。次があるとは限らない。値段は、それほど高くない。
本を手にとって、レジに向かった。
家に帰って、シュリンクを外して早速中身を確認だ。
「ようこそ、異世界の旅路へ」
1ページ目には縦書きでそう書かれていた。
次の瞬間、周りの風景かわった。家にいたはずなのに、今、草原に立っている。
「こんにちは、この異世界の旅路を案内するナビゲーターです」
さっきまで手に持っていたはずの本が、今目の前に浮かんで話しかけてきた。
本の表紙に目鼻口がついて、小さな手と足が本から生えている。百○おじさんかよ、とツッコミを入れたくなる形だ。
「お前が、僕をこんな所に連れてきたのか」
「私はこの旅のナビゲーターなだけです。これからの旅路についてご案内します」
○科おじさんは、表情が変わらないので少し怖くなってきた。
「僕を元の場所に返してくれ」
「もう帰ることをご希望で?それは難しいですね。ツアーはまだ始まったばかりです」
「はい?」
ナビゲーターが説明するには、この本を開くことで本を通じて異世界を旅するツアーに参加することになるのだという。
この世に存在する世界は、いずれもどこか別の世界で物語られているらしい。だから、その世界を十分に楽しんだら本を通じて別の世界に渡る、そうして様々な異世界を探訪しようという企画に僕は強制的に参加させられたらしい。
「じゃあ、僕は僕がいた世界について書いてある本を見つけないと帰れないのか」
「はい。そうなります。そしてこの世界には申しわけありませんが、貴方と私が来た世界について書かれている本はございません。なんといっても最初の世界ですから」
僕は絶句した。
「判った。じゃあ、幾つか質問して良いか」
「勿論です。お客様」
「異世界を渡るために僕には何か新たな能力があるのか?それからお金とか食べ物とか、生きてくための道具とかどうなっているんだ」
「この世界に来るに当たってお客様が新たに獲得された能力ですね。それは本を通じて他の世界に行けるという能力になります。それから、異世界探訪をするにあたっての資金や道具に関しましては、世界をご案内するとともに私ナビゲーターがアドバイスさせていただきます」
「え、能力ってそれしかないの、それにアドバイスって具体的に何かもらえるわけでもないの」
「はい、左様です。ご理解いただきありがとうございます。身体能力などは頑張って努力していただければ、向上するかと思います。まだお若いですから伸びしろは大きいものかと。ああ、旅支度はすでに整っておられますよ」
言われて自分の格好をみると、自分の部屋にいたときのTシャツ、Gパンではなくなっていた。しっかりした生地のシャツにズボン、その上に胸当てとマントを身につけていた。足下は頑丈なブーツ、手には革製のフィンガーレスグローブをつけている。腰のベルトにはやや長めの短剣がある。背中にはいつの間にかザックを背負っていた。
「なんてこった」
茫然と立ち尽くす僕を尻目に
「では、お客様。ツアーを始めましょう。まずはこの草原を抜けて街まで行きましょう」
口調だけは嬉しそうに、でも表情が変わらないナビゲーターが短い指で行き先を示した。
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