第5話 城門警備の門破り
売買禁止のレゲレレ草の検挙はお手柄だった。
気をよくした警備兵たちに僕は色々な禁止品の現物を見せてもらい臭いを記憶した。
これであらゆる禁止品を規制できる。
毎日のように僕は禁止された草花などを見つけていた。
「大手柄ですよ」
「だよな。バル様様だわ」
「よ、バル君、今日も頼むよ」
僕の信用度はどんどん上がっていた。そんなある日。
「次の人」
ドン。
「うわぁああ」
「わっわっ、門破りだ。またか。捕まえろ!」
城門の列に並んだふりをしてぎりぎりで突き飛ばして検問を突破しようとする人がいたのだ。
すでに三回ほど取り逃がしていて、警備兵たちの名誉はすでにズタズタだった。
今回を取り逃がしたらもう後がない。
「がるるるる」
強引に列を突破して逃げていく犯人。
しかしこちらには僕がいた。
全力ダッシュだ。あまり長い時間を走ることはできない。
しかし最大速度は人間よりずっと速い。
「がるるるるっ」
追いついて足に噛みつく。
もちろん深く傷つかないように手加減をしている。
「うわああ」
「がるるるっ」
「くそっ、犬っころ、放せよう!」
彼を転ばせて地面に倒した。
僕は彼の足首に食いついたまま、うなって威嚇を続ける。
「くそぅ! くそくそ!」
警備兵たちが集まってきて僕たちを囲んだ。
「はっはっは。どうだ犬様は強いぞ。観念しろ」
「どうか、命だけは」
「大丈夫だ、とって食ったりはしないよ。俺たちはな。犬様はわからんが」
「どうか、ご勘弁を……」
こうして門破りを防ぐことができた。
兵士たちは全員安堵を息を吐いた。
今回取り逃がせば、ボーナスは没収という噂があった。
そんなことになれば借金がある家では首が回らなくなる。最悪の場合は借金奴隷になる可能性があった。
「やったぞ! うおおおお」
「うぉおおおお」
「いやっほおおおお」
拍手喝采。あちこちで歓声が上がった。
「バル! バル! バル!」
「そーれ、バル! バル!」
「もひとつ、バル! バル!」
しばらくお祭り騒ぎとなった。
しかし城門の前には長蛇の列ができてしまった。
みんな急いで仕事に戻っていく。
もちろん検問の前線では僕が臭いを嗅いで、その品々を検品していた。
その数日後の休暇日。
毎日僕だけに城門の仕事というわけにもいかない。
マリーちゃんも付き添いとはいえ毎日じゃ大変だろう。
またエルバラード公爵が挨拶に来た。
内容はこの間の門破りを防いだ功績だった。
「報奨金、金貨三十枚だ」
「確かに、ちょうだいします」
うやうやしく応接間でマリーちゃんの父親の伯爵が金貨を受け取る。
お犬様の稼ぎもなかなかのものだ。
僕は鼻が高い。犬だけに。
「成功を祝して乾杯!」
「乾杯!」
二人はその場でワインを飲み始めた。マリーちゃんはブドウジュースだ。
マリーちゃんがことの一部始終を語って聞かせると、よっぱらいの貴族様は手を叩いて喜んだ。
「それは愉快だ! さあ飲むぞ」
「もう一杯」
ワインは三本開けられたようだった。
マリーちゃんも褒められて嬉しそうだったから、まあいいとしよう。
警備の仕事は好評でしばらく続けることになった。
マリーちゃんは騎士見習いになって、鎧を着るようになった。
今まではただの見学者の立ち位置だったけど僕の責任者なので、立派な格好をしようということらしい。
白と赤に塗られたドレスアーマーはとてもかわいくてかっこよかった。
まるで姫騎士みたいだったから。
剣も一応用意されて、今では僕たちの後ろで素振りをしている。
頑張っているのだけどとても微笑ましいので、みんなほっぺが緩んでいた。
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