第4話 城門警備の仕事

 あの紳士、ミハイル・エルバラード公爵というらしい。

 公爵というのは貴族中で一番偉い。これより偉いのは王族だけだ。


「――今回のスリを捕まえた件。お礼として金貨二十枚、白磁の皿を一枚」

「これはこれは、ありがとうございます」


 今はうちの応接室だ。

 マリーちゃんの父親のエイルハルト・アイアンバウアー伯爵が応対していた。

 隣には母親のバルメラさんとマリーちゃんもいる。

 俺は大人しいため一緒にいることが許されて、部屋の隅で眺めていた。


「あれだけの大芝居をした犬が、ここでは非常に大人しいと。粗い性格なのかと思っていたが、本格的に賢いのだろうな」

「ええ、バルはなぜか歴代の犬の中でも、空気を読むのも判断力も素晴らしくて、マリーの護衛としても最適です」

「だろうな、それで城門の警備の仕事、引き受けてくれるだろうか」

「いいですよ」

「それは助かる。最近、城門を突破しようとする不届きものが何回か続いていてね。いずれも取り逃がすという失態で」

「あぁ、その件は知っています。『王都警備隊の恥知らず』ですよね」

「名前まで付けられてこちらとしては頭が痛い」


 爵位が異なるので敬語なのがマリーちゃんのお父様で常体なのがエルバラード公爵だ。

 公爵は王都騎士団と王都警備隊の指揮権を持っている騎士団長だ。

 頭を悩ませていたところ、優秀な警察犬になる僕が現れたので、白羽の矢が立ったのだ。


「それでは来週の月曜日からで」

「わかりました。マリーにも付き添わせます」

「了解した」


 伯爵と公爵が握手をして場を終わらせる。

 どちらもとびきりの笑顔だ。


 月曜日。


「行ってきます」

「わぅぅううん」


 マリーちゃんと僕と付き添いのメイドさんが城門へと移動する。

 ここは王都クスキリッド。塀に囲まれている城塞都市という構造で出入りには城門を通る必要があった。

 その城門の警備なのだ。


「じゃあバル、頼みますよ」

「わうぅうん」

「まったく。本当にわかってるみたい」

「わうぅ」

「バルは賢いもんね」

「わぅわぅ」


 マリーちゃんが撫でてくれる。やっぱり嬉しい。

 城門へとやってきた。


「こんにちは、マリーです」

「やあやあ、聞いているよ。我らの救世主、バル君と飼い主のマリーちゃんだね」

「はいっ」

「じゃあ、さっそくだけど警備担当の横でスタンバイしていてくれ」

「了解です」


 おちゃらけてマリーちゃんが敬礼すると、みんなが顔を崩した。

 かわいいマリーちゃんにメロメロだ。

 僕も誇らしそうに「わおぅん」と一鳴きしてポーズを決める。


 いろいろな人が門を出入りしていく。


 その中の一人。一見して青年の商人風なのだが、違法薬物の臭いがする。

 レゲレレ草というもので変な独特の臭いがして依存性があるため禁止されているのだ。

 以前に一度マーク君がうちにも持ち込んできたことがある。

 両家の伯爵に大目玉を食らったので、よく覚えている。


「わうぅ、わぅぅう、ぐるるる」

「どうしたの? バル?」

「マリーさん。きっとこの人、何か持ってるんですよ」


 警備兵が商人風の青年を睨む。


「俺は何も、悪くない。何も変な物なんて」

「いいから、青年。列を外れて、こっちで検査しよう」

「うっ、はい」


 青年が青い顔をして隅で荷物を広げはじめる。


「あったぞ。レゲレレ草だ。確かに売買や輸送が禁止されている」

「でも、だたの香草だと思って」

「香草ね。これは禁輸品だから、没収だ」

「わかりました」

「悪意があるわけでもないし、数も一本だけだ。今回は許すけど次はわからん」

「気をつけます。ごめんなさい」

「よし。行っていいぞ」


 青年が解放された。

 列はその間も次の人々を見分している。

 通常はすべての荷物を開いて調べるわけにはいかないので、目視で人相チェックくらいしかできないのだ。

 そこでバルの鼻は大活躍するというわけだった。

 いちいち荷物を広げなくても、駄目なものを探せる。


「バル、お手柄だぞ。ほれ干し肉をやろう」

「わうわうっ」


 羊肉で噛めば噛むほど味がして美味しい。

 僕の中では好物だった。

 ジャンプしたり回転して喜びを表すと、警備兵たちもわっと湧いた。


「めっちゃ喜んでるじゃないですか隊長」

「ああ、表情豊かだな、こいつ」

「あははは」


 けっこう受けた。やったね。

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