ガラクタの兄さん

 とある森の中でマドカは目を覚ました。


 マドカは今いる世界が夢の中だとわかっているか少し不安だ。


 ピコーン。


 マドカの頭上に『コードネーム:マドカ』と表示された。


 マドカはコードネームが何だかよくわかっていない様子だが、森の中では孤独だと感じ、街中に出ることにした。森の中を歩いて廃棄場を過ぎた。そして、西に三キロ程歩いていくと小さな商店街へと辿り着いた。


 商店街の隅にはワンマカのガチャがひっそりと置かれてあった。


 ――あ、ワンマカだ。


 マドカはそのガチャを引こうと、足早になる。


 すると、誰かが声をかけてきた。


 そう、ミコトだ。


「なあ、君、ワンマカが好きなのか?」


 マドカは声を発することが出来るか不安だったが「うん」と声を出して頷くことが出来た。


「俺もワンマカが好きなんだ」


「私、マドカ。貴方は?」


「俺はミコト」


 話は流れに沿って進んでいった。


「あ、ちょっと待って。さあ、こっちへ来て」


 ミコトが何かを見つけて言った。


「どうして?」


「怪しい男が居るんだ。急いで」


 ミコトはマドカの手を引いて走った。


 始めて会ったばかりなのに、急に手を繋がれたことにマドカは少しだけドキッとしながら、足をもたつかせ、ミコトの背中を見て走った。


 セフィが、ガチャの周辺をうろうろしていた。


 セフィはマスクで顔が隠れていたため、マドカはセフィに気が付かずにいた。


「しっ、今だけ声を殺して」


 ミコトが小声で言う。


「あの人、どうかしたの?」


 ミコトはマドカが男に殺される運命だったことを説明し、隠れているようにと説得した。


 初めは信じていなかったマドカだが、ワンマカのガチャを引こうとしていたことを見透かされて、ミコトの記憶を信じることにした。


 セフィが居なくなるまで、二人の間に沈黙が流れる。


「さあ、もう良いよ」


 ミコトはマドカの肩を軽く押した。


「ええ、恩に着るわ」


 マドカは落ち着いた様子で答えた。


「で、ガチャを引こうとしていたんだろ?引かなくても良いのか?」


 ミコトがガチャを指さして言った。


「これから引くとするわ」


 マドカは財布から三百円を取り出して、ガチャを回した。


 カラン。


 マドカは金色のレアアイテムを手に入れた。


 ミコトが「レアアイテムじゃないか!」と興奮気味に言う。


 マドカがキーホルダーを身に着けていたショルダーにつけた瞬間、地面がぐらりと揺れた。


「キャッ」


「地震か。大丈夫?」


 尻もちをついたマドカの手を引くミコト。


「うん。ありがとう」


「軽い地震だ、安心して。なんにせよ夢の世界だから生命に心配はないだろう」


「そうね。さて、これからどうしようかしら」


 マドカは起き上がると、胸の前で両腕を組んで考えことをした。


 考えた結果、二人は森へ向かうことにした。


「最初この世界に来る時、私、あの森の中で目覚めた気がするの」


 曖昧な表情をしてマドカは答えた。


「森の中で?」


「そう、確か、近くに廃棄場があったような……」


 マドカはそう言いながら東にある森へと歩き出そうとした。


「何かわかるかもしれないな。だが、気を付けて行こう」


 一つ忠告を添えて、ミコトはマドカの背中を追った。


 マドカの言った廃棄場には約三十分で着いた。


「ただのゴミの山じゃないか。ここに何があるって言うんだ?」


 積み重なっていた鉄材を足で崩しながらミコトは放った。


「……ピー、ポポポポ……」


 廃棄場の奥で音が鳴った。


「……待って、今何か聞こえなかった?」


 ――聞き覚えのある音……。


 真剣な顔つきに変わるマドカ。


 ミコトはその音にすら気が付いていない。


「確かに聞こえたわ。私見てくる」


 マドカはそう言って、ガラクタの山をよじ登って廃棄場の奥へと歩き出した。


 足をもたつかせるマドカを見てミコトは少し心配になった。


 数分と待ってマドカの声が廃棄場の奥から聞こえてきた。


「ねえ!ミコト、来てちょうだい!」


 呼ばれたミコトは返事をして、ガラクタの山を登ってマドカの元へと向かった。


 ガラクタの山の奥には平らなコンクリートの地面が広がっていた。


「ようやく来たわね、待ちくたびれたわ」


「ごめん待たせた」


「これ、見てちょうだい」


 マドカの視線の先には改造されたレノの機体があった。


「ロボット、か」


 鉄材で集められたレノの機体は軽く破損していた。そのせいで、どうやら上手く起動しないようだ。


「ミコト、このロボット、直せたりしない?」


 ミコトは機体の破損部分を数秒眺めて答えた。


「やってみる」


 ミコトは散らばっていたネジとボルトを拾い上げ、都合良く落ちていたトルクレンチでネジのボルトを締めた。


「ピー、ポポポポ……」


 レノの機体から音が鳴った。


「お」


 どうやらミコトはレノを直すことができたようだ。


「ピー、ポポポポ……第三機、レノ。起動します」


 ロボットの名前はレノと言う。レノが起動した。


「流石!ミコト!」


 喜ぶマドカは感心しながら手を叩いた。


「人間、二人認知。私はレノです」


 カタコトな口調でレノは言った。


「……レノ、レノ……」


 マドカの表情が変わった。


 ――レノって……兄さん……兄さんなの?


「レノ、君は一体何なんだ?」


 ミコトがレノに向かって尋ねた。


「この世界、SPACE‐F‐の案内機です」


「SPACE‐F‐?」


 ミコトは尋ねた。


「はい。夢の中のこの世界の名称はSPACE‐F‐と言います」


「確かにレノって言うのよね。その胸につけられている印は何?」


 レノの胸には バツ印の傷がつけられてあった。


「生前、つけた傷の一つです」


 レノが静かに答えた。


 その一言で、疑念から確信に変わった。


 ――この傷、改造されたときについた傷よね。と言うことはこのロボット、きっと、兄さんに違いないわ。


「……そう、兄さ……いいえ、レノ。分かったわ」


 そう、SPACE‐F‐の案内機レノは、正真正銘マドカの兄であった。


 違ったのは見た目と心だ。見た目はただのガラクタの集まりのロボットで、心臓は代わりに感情を捨てるプログラムが仕掛けられていた。


 レノの心はガラクタの集まりみたいな心だった。


 そして、レノはもうマドカのことをすっかり忘れていた。


 それに気が付いていたマドカはレノを兄さんと言うことを止めにした。


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