同じ夢の中で
六月十九日からレノがいなくなって、一人ぼっちになってしまったマドカは眠りにつくたび不思議な夢を見るようになっていった。
謎の男に追われる夢だ。
マドカには追いかけてくる何かが、もやもやとした影に見えていた。謎の影の正体がわからないマドカは、ただ捕まることを避けて必死に逃げ回っていて、捕まると終わってしまうとどこかで思っていた。
その謎の影の正体がMODSのメンバーの一人、セフィであることも知らずに。
――何よ、この影!いやっ、来ないで!
マドカは息切れ切れになって走った。行き止まりはどこまで行ってもなく、半永久にグレーの景色の中を走っていた。
グラッ。
地面が大きく揺れて、マドカは足をもたつかせた。
突然、景色は変わり、レノが研究室の溶媒液に浸かっている姿が映った。
「……こちら、準備完了です。そちらは?」
セフィが第一声を放つ。
「溶解度正常。他はどうですか?」
ジルが言った。
「すみません!こちら少し遅れております」
エスが焦りながら言う。
レノが溶媒液に浸かっている姿が見えた。
マドカはその情景を見ていることしか出来なかった。
――……兄さん……。
マドカの兄であるレノはこの時、MODSの手によって機械に改造された。
「うあぁぁぁぁぁ」
レノの叫び声が聞こえてきた。
MODSはレノの能力を奪った後、『活力吸収エナジードレイン』の力を手に入れた。
レノが改造され、叫び声を上げている姿を見るのはとても悲惨なものだった。助けることも出来ず、ただ見ていることしか出来ないマドカは、毎日、夢の中で涙を流していた。
七月二十六日の朝。
目を覚ましたマドカは遠くの天井を見つめて、荒い息を吐いていた。
――何回同じ夢を見たらいいのよ……。兄さんはもう助からないの?
マドカはこの不思議な夢を毎日のように見た。
精神は完全に疲れ切っていた。
夢から覚め、起きるたび念を込めたが、いつになってもレノがいた数日前には戻ることはなかった。
開けっ放しにしていたカーテンが静かに揺れていた。微かに風も感じられた。今年は冷夏が続いている。
『ワンマカの新ガチャ本日発売だわん!皆ゲットしてね!ゲットしないと、わんって吠えてやっつけちゃうぞ!』
つけっぱなしにしていたテレビからCMの音が聞こえてきた。
マドカはワンマカのCMをぼうっと眺めた。
のそっと体を起こし上げる。
その後、マドカはカップ麺を朝食にした。昼食はコンビニで買ってきたパン。コンビニへ外に出るのも億劫だった。そして、夕食はまたカップ麺にしたようだ。レノがいなくなってから、マドカはまともな食事をとっていなかった。
その日の夜、マドカは眠りにつく前
――明日はワンマカのガチャでもゲットしに行こうかしら。
と思った。
少しでも楽しいことを考えて、不思議な夢のことを考えないようにしたかったのだ。
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