再び

 高校へ行くと、可笑しなことが一点あった。


 ユースケの存在がなかったのだ。


 ミコトはユースケの姿を始業式が終わるまでずっと探していたが、どこにも見当たらなかった。


 始業式を終え、途中までマドカと二人で帰った。二人は次の十字路でお互いの帰路へついた。


 自宅へと帰るとリンカの元気な声が聞こえてきた。


「おっかえりーなのです!」


「ああ、ただいま」


 ミコトは当たり前のように言う。この可笑しな世界でもリンカは変わっていないことに少し安心した。


 ミコトは帰るなり、直ぐに自室に向かい、パソコンを開いた。


 そして、SNSでワンマカのキーホルダーについて掲示板を作り、タソ、フェンダー、ミドリを捜そうとした。


【ワンマカのキーホルダー、そして、SPACE‐F‐を知る者達よ】


 タイトルを作り、掲示板に張った。


 トゥルルルル。


 突然スマートフォンが鳴り、着信画面はマドカと表示されていた。ミコトはマドカと連絡先を交換した覚えがなかった。が、ミコトは応答ボタンを押した。


『やあ、マドカ』


『もしもし、ミコト?今週の土曜日って空いているかしら?』


 今週の土曜日は九月三日となる。


『今週の土曜日……ああ、空いているよ』


『良かったら、デートでもしない?』


『デート?』


『ええ、付き合ってるのだから当たり前のことでしょ。今まで行ってなかったのがおかしいくらいよ』


 ――俺は本当にマドカと付き合っているのか……。


『あ、そっか。で、どこへ行くんだ?』


『水族館のチケットが二枚あるんだけど、水族館なんてどうかしら』


『水族館か、良いぞ』


『それじゃあ、今週の土曜日楽しみにしているわ』


 マドカはそう言うと電話を切っていった。


 電話が切れたのを確認すると、ミコトは再び掲示板に目をやった。


 ――誰か、来ないかな。


 ミコトが掲示板を十分程眺めていると、一軒のメッセージが届いた。


 ――お!誰だ?


 ミコトは画面をスクロールしてメッセージを送った者のペンネームを見た。


【フェンダー:主はSPACE‐F‐を知っているのか?】


 相手はフェンダーで、フェンダーはミコトの存在をまだわかっていない様子だ。


【ミコト:主は俺だ。皆の生存を確認出来たらと思って書きこんでみた】


【フェンダー:ミコトか、またやり取りができてとてもうれしい】


【ミコト:タソとミドリの生存はまだ確認できていないが、マドカの生存は確認できている。どうやら俺とマドカはこの世界で付き合っていることになっているらしい】


【フェンダー:付き合っている⁉どういう馴れ初めだって言うんだ】


【ミコト:それが、俺にもわからないんだ。ただマドカは平然としている】


【フェンダー:この世界、ちょっとばかり変じゃないか?】


【ミコト:わかるか?この異変に】


【フェンダー:今日、スマホの画面を見たら八月二十九日と表示されていてな。俺はその間過ごしていた記憶がないんだ】


【ミコト:同じく俺もその状態だ。しかし、マドカは当たり前のように俺を迎えに来た】


【フェンダー:それはおかしい】


【ミコト:俺達は本当に現実に戻れたのだろうか】


 フェンダーの即レスは、実際会って話をしているような感覚にさせ、ミコトは夢中になってメッセージのやり取りをした。


「お兄ちゃん―、晩御飯なのですー!」


 一階から甲高い声が勢いよく響き渡ってきた。


【ミコト:フェンダー話しているところ悪いが妹に呼ばれた。また後で話をしよう】


 ミコトはそうタイプしてエンターキーを押して、椅子から立ち上がった。


「今行くよ」


 リンカに聞こえるように声を張り、階段を下りた。


【タソ:やっほー!私、タソだよ!】


 一方、掲示板では、新しいメッセージが送られてきていた。


【フェンダー:やあ、タソ。きっと来ると思っていた】


 フェンダーは即レスをする。フェンダーが即レスできるのは自宅警備員をしていて、常に部屋にいるからだった。


【タソ:この掲示板はフェンダーが作ったの?】


【フェンダー:いや、この掲示板の主はミコトだ】


【タソ:そっか、やっぱりフェンダーも皆との再会を求めて?】


【フェンダー:ああ、ネットサーフィンで何か情報が得られるかと思って】


【タソ:私も皆に会いたくて捜していたの!マドカちゃんとミドリ君の生存の確認は?】


【フェンダー:マドカは確認できている。だがどういうわけか、ミコトと付き合っているらしい】


【タソ:え、どういうこと?訳が分かんない】


【フェンダー:マドカに関しては謎が多いようだ】


【タソ:よくわからないけど、後はミドリ君の存在が確認できればいいんだよね!】


【フェンダー:ああ、そう言うこととなる。待つとしよう】


 一旦、メッセージのやり取りは終了した。


 晩御飯を食べ終えたミコトは自室に戻り、パソコンで掲示板を開くと、タソの存在を確認した。


 それから、三日が経ち、九月一日となり、掲示板にミドリの存在が確認された。


【ミドリ:こんにちは、ミドリです。皆さんとまた話せるようでうれしいです】


 掲示板のやり取りを一通り見たミドリは、一通のメッセージを送った。


【ミコト:やあ、ミドリ。これで、皆の生存が確認できた。皆は今何処に居るんだ?俺達再び会うことは可能なのだろうか】


 ミコトはミドリのメッセージを読み一通送った。


【フェンダー:俺は東京都の××区に住んでいるが、皆は?】


【ミドリ:僕も、同じく××区に今います。○○病院で入院しています】


【ミコト:俺も××区だ】


【タソ:私も××区!案外会うのも簡単そう!】


【フェンダー:近くに住んでることはSPACE‐F‐の何か接点でもあったり?】


 五人は偶然、同じ××区に住んでいた。


【ミコト:病弱なミドリの移動は大変そうだ。四人で○○病院で集合するのはどうだ?】


【ミドリ:そうしてもらえると助かります】 


【タソ:そうしよう!】


 それから三十分程メッセージのやり取りは続いて、最終的に四人は一週間後の九月八日の夕方に○○病院で集合することになった。


【フェンダー:久々の外出になる。なんだか緊張してきた】


【ミコト:そうだ。マドカにも伝えておくとするよ】


【タソ:また皆に会えるなんて、とっても楽しみだし嬉しい!】


【フェンダー:ミコト、マドカのことは頼んだぞ】

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