いなくなってしまった
二日が経った。九月三日、マドカとミコトのデートの日だ。
マドカは小走りでミコトの家へと向かう。
「おまたせ」
マドカは軽く深呼吸をしてミコトに言った。
「準備はできている。行くとしようか」
靴を履くミコトが言う。
マドカのスカートが風で揺れる。
二人はバスに乗り、水族館へと向かった。
バスに乗っている道中、ミコトはマドカに言った。
「八日の夕方、○○病院へ一緒に行こう」
「どうして?」
マドカは不思議そうに尋ねた。
「会ってほしい人達が居るんだ」
「会ってほしい人達?私の知っている人?」
――本当にマドカは何も知らないのか?
マドカの質問を聞いて、ミコトは思った。
「忘れているかもしれないが、マドカの知っている人達だ」
ミコトは慎重に答えた。
「……わかったわ。空けておくわ」
「ありがとう」
バスは水族館の最寄り駅へと着いた。水族館の中へ入ると、マドカは直ぐに水族館に興味津々となり子供のように燥ぎ出した。
「ねえ、見て!このアザラシ、すっごい可愛い!」
ミコトはマドカの後ろをついて歩いた。
「ああ、あんまり燥ぎすぎるなよ」
マドカはミコトの言うことを無視して、目をキラキラと輝かせ、水族館を見て回った。
――それだけ楽しみにしていたのか。
マドカの姿を見てミコトは思った。
水族館を見終えた二人。
「まあ、楽しかったな」
「ねえ、まだ時間が余っているから、どこか別の場所に行かない? 」
マドカが振り向いて言った。
「そうだな……それじゃあ、近くにあるプラネタリウムなんてどうだろう」
ミコトは同じ施設の中にあるプラネタリウムを思い出し、提案した。
「賛成!早速行きましょう!」
二人は同じ施設にあるプラネタリウムへと向かった。
プラネタリウムで見た星はとても奇麗で、かつ本物のような流れ星がとてつもなく儚かった。この空間は夢の中のように現実離れした美しさを見せた。
「今日は、楽しかったわ」
ミコトの家の前に着くと、マドカは小さくお辞儀をした。
「俺も楽しかった」
「また、一緒にどこか行きたいわ。それじゃあまたね」
マドカはそう言って、自分の帰路に就いていった。
マドカの後ろ姿はなんだか、今日見たプラネタリウムの流れ星のような儚さを感じさせた。
翌日、九月四日。リビングでテレビを見ていたミコトはとあるニュースをみた。
『続いてのニュースです。今朝、午前七時半ごろ、東京都××区に住む、前田ツカサさんが、何者かに刃物で刺される事件があり、××区△通りで死亡が発見されました。犯人は未だ、逃走中で、××区警察署は犯人の行方を追っている最中です』
以前、テレビで紹介されていた、LISTERの前田ノノの姉、前田ツカサの写真が表示された。
ニュースキャスターは続けて言った。
『……加えて、前田ツカサさんの手にしていた携帯電話を調べたところ、ある掲示板が見つかり、そのアカウントからタソと言う人物が確認されました。これは犯人ではなく、おそらく前田ツカサさんの偽称だと思われます』
それを聞いたミコトは声を漏らし、テレビ画面を見て呆然とした。
そう。タソは、LISTERの前田ノノの姉、インフルエンサーの前田ツカサだったのだ。
前田ツカサ……タソは殺害された。
ミコトは急いで、自室に向かい、パソコンを開いて掲示板を見た。
――タソの存在が消えている……。アカウントもメッセージの履歴も消えているだと?
掲示板で、タソの存在を確認することは出来なくなっていた。
【ミコト:タソ、なあ、いるよな?いたら応答してくれ】
ミコトは焦って、メッセージを送った。
しかし、返ってきたのはフェンダーからのメッセージだった。
【フェンダー:ミコト、ニュース見たか?タソのことだが、きっともうタソは存在しない】
フェンダーはやるせない気持ちでメッセージを送った。
【ミコト:そんな、冗談だろ。前田ツカサとタソは同一人物だって言うのかよ】
ミコトは未だに信じることが出来なかった。
【フェンダー:アカウントも消えているんだ。そうに違いない】
フェンダーは確信していた。
この世界からタソが消えた。
それから、二日後。
掲示板にはミドリから……ではなく、ミドリの父親からメッセージが送られてきた。
【ミドリ:はじめまして。ミドリの父です。携帯電話にこの掲示板が開かれてあったので報告させていただきます。息子の病気のことは知っていただいているでしょうか。息子の病状が悪化し、昨夜空に旅立ちました。そのため、こちらのアカウントは削除させていただきます。SNSの中でミドリと言う少年と仲良くしていただき本当にありがとうございました】
ミコトはそのメッセージを見て、十秒程固まり、その後酷く混乱した。
混乱しているうちにミドリのアカウントとメッセージ履歴が消えてしまった。
【フェンダー:これってマジ?】
【ミコト:おい、ミドリ、いるだろ。冗談だと言ってくれ】
ミコトは急いでメッセージを送ったものの、ミドリからメッセージが返ってくることはもうなかった。
タソに引き続き、この世界からミドリも消えていった。
【フェンダー:もしかして、ワンマカのキーホルダーを返納するあの時の、最後のミッションをクリアしなかったのが原因だったりして。だったら最悪だ。きっと次は……】
フェンダーはこの狂った世界についに恐れを抱き始めた。
【ミコト:フェンダー落ち着くんだ】
【フェンダー:落ち着いてなんかいられない。俺はここから離れる】
【ミコト:待ってくれ。こんな状況だが会う約束はどうなるんだ】
いつもは即レスをするフェンダーだったが、メッセージは二時間待っても返ってこなかった。
掲示板に何の動きもなく、一日が経った。
自宅警備員のフェンダーは、次は俺が消えてしまうのではないか――と不安になり、家から出られなくなってしまった。
掲示板に一人取り残されたミコト。
――クソッ、俺達の友情が無くなってしまった。タソもミドリも消えて、フェンダーとも連絡が取れなくなって……マドカは……居るけど、何も話してくれないし……。一体どうすればいいんだ。この世界にはユースケもいない。俺は友達を作ることもできないのか……?
【ミコト:なあ皆、実はまだここに居るんだろ。SPACE‐F‐での思い出は幻なんかじゃないよな。なあ、そうだろう】
掲示板は静かなままだ。
――このままだと、俺もこの世界から消えてしまうのか?
気が付けば、ミコトは不安と恐怖で心を病むようになっていた。
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