最後のミッション
――眩暈……。アレ、皆は……。
二十分程経っただろう。気が付けば、あたりは病室の待合室のような景色へと変わっていた。
それに気が付いたミコトは、残るメンバーの姿を急いで探した。
フェンダーとタソが椅子に腰を掛けていて、ミドリは壁にもたれ掛かっていた。レノは待合室の真中に佇んでいた。
「やっときたわね」
マドカの声だ。
ミコトが後ろを振り向くとマドカの姿があった。
「先に来ていたのか」
ミコトがマドカに向かって言った。
「ええ、何の原理かわからないけど、皆、この待合室に辿り着いたわ、さあ、皆、ようやくミコトが来たわ」
「たく、待ちくたびれたぜ、ミコト」
フェンダーが腰を上げて向かってきた。
「皆揃ったようですね」
そう言いながら、ミドリもミコトのいる方へと向かった。
「待っていたよー!ミコト君!」
タソが燥いで向かってくる。
五人は再び集結した。
「次のミッションがあるのか?」
ミコトが尋ねた。
「わからないわ。レノに聞いてみないと」
マドカが落ち着き払って答えた。
「早速聞いてみよう」
ミコトはそう言ってレノに近づいた。
「レノ、次は何があるのか?」
「ピー、ポポポポ……。次は最後のミッションになります。最後は皆さんの持っているワンマカのキーホルダーをこの世界、SPACE‐F‐に返納してもらいます。それで、ミッションはクリアとなります」
レノはミッションの説明をした。
「……キーホルダーの返納が条件なのね……」
マドカは静かに言った。
「キーホルダーを返す……」
そう言って、タソは考えこむ様子を見せた。
「これ、お気に入りなのに……ん?待ってください」
ミドリは気が付いたように言った。
「このキーホルダーを返納したら、ミッションはクリアします。だけど、皆さんとはどうなるんですか?」
「……そうだよね、……そうだよ。このキーホルダーを返したら、……返したら、私たちの友情はどうなってしまうの?」
タソが不安げな表情で皆に向けて言った。
「……なかったことになってしまう……わね。なんにせよ夢の世界ですもの……。返したらきっと……このまま目が覚めたら、再会は厳しくなってしまうと思おうわ……」
「そんなの嫌です!」
ミドリが叫んだ。
「私も嫌だよ!……どうすればいいの?」
タソが嘆く。
この最後のミッションが五人にとっては一番難解だった。
「俺達の友情はここで終了か?……そんなのごめんだ」
フェンダーが頭を抱えた。
「一体どうしたらいいんだ……」
ミコトがぼやいた。
すると、閃いたように、マドカが話し出した。
「そうだ!こういうのはどうかしら、お互いの持っているキーホルダーを交換するの。交換することによって、この世界で起こったことは現実世界で目を覚ましても忘れることはない。万が一忘れたとしてもキーホルダーがこの友情を保ってくれる。そう思わない?」
「……確かに、このキーホルダーは何か意味ありげみたいだし、交換するのも悪くないですね」
ミドリの表情に希望が見いだされた。
「私も賛成する!ねえ、フェンダーとミコトも良いと思わない?」
タソは大きな声で尋ねた。
「ああ、俺もマドカの提案に賛成する」
先ほどまでの動揺がなかったかのようにフェンダーは安心したように答えた。
「俺も」
ミコトは答えると、ポケットからスマートフォンを取り出して、スマートフォンに付けられていた青色のキーホルダーを外した。
マドカも金色のキーホルダーをショルダーから外していく。
「このキーホルダーはミコトにあげるわ」
マドカはミコトへ金色レアアイテムを差し出した。
「え、俺に?」
「ええ、ミコトに是非、受け取ってほしいの」
「えっ羨ましい!俺金色アイテム、スゲー狙ってたんだけど!」
それを聞いたフェンダーが羨ましそうにして言った。
「これはミコトにあげるのよ」
どういうわけかマドカは頑としてミコトへキーホルダーを上げる意思を曲げない。
「それじゃあ、貰うとするよ。ありがとう」
ミコトは礼を言って、マドカから金色キーホルダーを受け取った。
その後、ミコトの持つ青色のキーホルダーはミドリの元へ……。
ミドリの持つ紫のキーホルダーはフェンダーの元へ……。
フェンダーの持つ黄色のキーホルダーはタソの元へ……。
タソの持つ赤色のキーホルダーはマドカの元へ……と交換されていった。
「残り時間、三十分、よろしいですか?」
レノが静かに発した。
それを聞いた五人は、お互いの表情を見て同時に頷いた。
「良いわ」
「オッケーです!」
「僕はこのままで良いです」
「構わない」
マドカ、タソ、ミドリ、フェンダーが次々に答えていく。
「これで良いんだ」
ミコトが呟いた。
残りの時間は五人でミッションの思い出を振り返って雑談をした。
「フェンダーもミコトもあの戦闘で生き残ってくれて本当に良かったです」
ミドリが残りの時間を惜しむ様子を見せた。
「お前は確かに強かった。現実世界でもへこたれてないで強く生きろよな」
フェンダーがミドリの肩を軽く小突いた。
目頭が熱くなったミドリは、流した涙を両手で拭った。
「おいおい、今更、ガキみたいに泣くなよ。お前はいつも冷静さを保つ、強い真の男だろうが」
「ありがとうございます」
三十分はあっという間に過ぎていった。
「ミッション……不成功……では、お疲れさまでした」
レノがカタコトの口調で発した。
――ミッションクリアならず――
レノの体は徐々に半透明になっていき、次第に姿を消してしまった。
同時に五人の体も半透明になっていき、全員SPACE‐F‐から姿を消した。
病室の待合室のような景色はもやもやと霧がかかっていき、グレーの雲の中へと景色を変えていった。
――これで、本当に良かったのか?
目を覚ます直前、ふと、ミコトは思った。
しかし、そう思うのはもう、遅かった。
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