仕掛け部屋のパズル

 十分程経った。まだ皆の疲れは取れていない。しかし、レノだけは機械の如く疲れを一切見せずに立ち振る舞っていた。


「次のミッションを開始いたします」


 レノが冷淡な口調で放った。


「もう、次のミッションか?」


 ミコトが放つ。声がさっきよりも出やすいとミコトは思った。


 フェンダーもミコトも無事ミッション開始時までに治癒されていた様子だ。


「次のミッションは何かしら?」


 マドカがレノに向かって尋ねる。


「次は、脱出ゲームです」


「脱出ゲーム?」


 不思議に思ったタソが言葉を繰り返した。


「はい。四つのピースを捜してもらい、パズルを完成してもらいます。完成すると、今から行ってもらう部屋から脱出することが出来て、ミッションクリアとなります」


 レノが説明をした。


「パズル、ね。その部屋はどうやって行くのかしら?」


 マドカは一瞬悩んだ表情を見せたが、気を引き締めてレノに聞いた。


「今から、移動しますので、揺れにご注意を」


 レノが発すると地面が大きく揺れだした。五人は地面が崩れ落ちるような感覚を感じた。


 気が付くと、一つの部屋の中に五人が倒れこんでいた。そこに、一体のレノがぽつんと立っていた。


「うう、頭が揺さぶられるようだ」


 ミコトが頭を抱えながら言った。


「皆さん、大丈夫ですか?」


 ミドリが皆に向かって尋ねた。


「ええ、なんとか」


 マドカが体を起こし上げながら答えた。


「ここが、次のミッションエリア?」


 タソがレノに向かって尋ねた。


「はい。この部屋は機械仕掛けの部屋となっております。ご注意を」


「機械仕掛けか……また気を引き締めなければいけないのか……」


 フェンダーが小さく嘆いた。


 フェンダーの嘆きにも関わらずレノは素早く発した。


「皆さんは隠されたパズルのピースを四つ集めていただき、部屋の扉の前にある型番にはめてもらいます。それではミッション開始です」


 部屋は鍵がかかっていて、扉の前に穴の開いた型があった。


「もうスタート?」


 タソがレノに向けて尋ねた。


 レノは青く光りピー、ポポポポと発した。


「どうやらもう始まっているようね。えっと……パズルのピースを集めるんでしたっけ?私、捜してみるわ」


 マドカはそう言って、直ぐに部屋にあるソファー、机、棚を順に探っていった。


 残り四人も引き続き、必死になってピースを捜し始めた。


「どうだ?見つかりそうか?」


 ミコトはマドカの後ろ姿に向かって尋ねた。


 部屋の中を散策していたマドカは机に置かれてあった花瓶に目を付けた。そして、花瓶の底を眺めて言った。


「これ、もしかしてピース?」


 マドカは黄色く光ったピースを手に取り、皆へと見せた。


「おお!きっとそうに違いない」


 フェンダーが確信したように言った。


 一つ目のピースは花瓶の中にあった。


「幸先が明るいですね」


 ミドリは飾り気のない口調で言った。


「取り敢えずこれは、私が持っているわ。さあ、残りのピースを捜しましょう」


 マドカはそう言って、ショルダーの中にピースを入れた。


「そうだな……それじゃあ、俺は台所を見てくる」


 ミコトはそう言って、奥にある台所には奇麗なシンクがあり、ミコトはシンクの中を覗いた。


 すると、排水溝から、液体が噴き出てきた。


「うわっ!……イタッ、痛い痛い!」


 何の液体かわからなかったが液体を浴びたミコトは驚き、猛烈に痛がる様子を見せた。


「どうしたんだ?」


 ミコトに近寄るフェンダー。


「ここから液体が噴き出てきて……、それが目に入ったんだ」


 ミコトは目をこすりながら言った。


「大丈夫か?」


 フェンダーはミコトの様子を伺って聞いた。


「ああ、もう治った。特に傷を負ったりはしていない」


 ミコトが瞬きをして言った。


「これが、仕掛けの一つか?」


 フェンダーが慎重にあたりを見渡しながら言う。


「どうやらそのようだ」


 ミコトもどこから何が出てくるかわからない。と慎重になった。


「おい、あの天井、何か光るものがないか?」


 フェンダーが何かを見つけたようだ。


「アレ、ピースじゃないか?待って、皆を呼んでくる」


 ミコトはそう言うと、マドカとタソ、ミドリを呼んだ。


 五人は天井に張り付けられているピースを見た。


「これが、二つ目のピースね……にしても、一人じゃ取れそうにないわね」


 マドカが少し迷ったような表情を見せた。


「肩車でギリギリ行けるってところだな、俺が土台になるぜ」


 フェンダーが言うと、タソは顔を赤らめて言った。


「いやっ、私フェンダーの上には乗りたくないよ!だって、見えちゃうもん!」


 タソはスカートの裾をキュッと握りしめた。


「私も嫌」


 マドカが続けて言った。


「うわー、傷つくよ……、でも確かに女子軍に乗ってもらうのはなんだか違う気がする。ミドリか、ミコトか……だな」


 フェンダーは傷ついた心を隠して言った。


「それじゃあ、俺が乗るよ」


 ミコトは答えると、フェンダーの肩を軽く叩いた。


「それじゃあ、頼んだ」


 フェンダーが腰を下ろす。


 ミコトは早速、フェンダーの肩にまたがり、態勢を整えた。


「オッケーだ」


 ミコトがフェンダーに向かって合図を送る。フェンダーは足を踏ん張り、慎重に立ち上がった。


「よいしょっと」


 ミコトが天井に向かって手を伸ばす。


 ペリッ。


 天井に張り付けられていたピースが剥がれる音がした。


「二つ目、ゲットだ」


 ミコトの手には黄色に光ったピースが握りしめられていた。


「やったあ!」


 タソが歓声を上げる。


「見事です。次は僕に任せてください」


 ミドリが続けて言った。


 ミコトはフェンダーの肩から降りて床に足を付けた。


「マドカ、これも持っていてくれないか?」


 ミコトはマドカに向かって尋ねた。


「ええ、良いわ」


 そう言うと、マドカはミコトからピースを受け取り、黄色のピースをショルダーの中に閉まった。




「残るは二つ、ですか」


 ミドリが部屋の中を物色しながら呟いた。


「これだけ探しても見つからないなんて、一体どこにあるんだ。あー疲れた」


 部屋の中にはシングルサイズのベッドがあった。


フェンダーが嘆き、疲れた体を脱力させ、ベッドにダイブした。


 ピコーン。


 ダイブの衝撃で、ベッドの中にあったボタンが押された。


 すると、何もなかった白い外壁から扉が浮き出てきた。


「これは一体……?」


 部屋の隅にぽつんと佇んでいたレノに向かってミコトは尋ねた。


「新しい通路です」


「通路ですか?僕行ってみます」


「ミドリ君、危ないから私も付いていく」


 タソがミドリに向かって言った。


 ミドリは外壁から浮き出てきた扉を引いた。


「ミドリ君!上!」


 タソが瞬時に叫んだ。


 半径一メートル程の鉄球が上から降ってきた。


 ミドリはそれに反応して急いでしゃがみ込んだ。


 鉄球は十回程前後に揺れると奥へと消えていった。


「助かりました」


 ミドリは体を起こし、心を落ち着かせて、タソに礼を言った。


「ミドリ君が助かって良かった!さあ、次へ進もう!」


 タソは相変わらず元気な様子を取り乱さない。


「はい、行きましょう」


 ミドリは態勢を取り戻して、再び前へ進んだ。


 扉の先には細くて暗い通路があり、ミドリとタソはその通路を慎重に歩いた。


 奥を見たミドリが黄色に光るピースを見つけた。


「あ!ありました!」


 ミドリは速足で通路を渡っていく。


「待って、ミドリ君!こっちへ来て、急いで!」


 タソがダッシュして細道にあった小さな窪みに身を寄せた。


 再び鉄球が迫ってきたのだ。次は正面からで、鉄球は一本の細道を勢いよく転がっていった。


「ミドリ君!早く!」


 鉄球に気が付いたミドリは急いでタソのいる窪みへと向かった。すばしっこい動きで間一髪鉄球の流れから逃れることが出来た。


「ふう、危ない所でした……またもや助けてもらって、ありがとうございます。タソさん」


「これが、機械仕掛けの部屋っていうのね。でも無事なら良かった!」


 タソがミドリの手を握って言った。


「機械仕掛け……まだなにかあるんでしょうか?」


「きっと、もう来ないと思う。それでも慎重に歩いてね」


 窪みから出てきたタソがミドリに向かって言った。


 ミドリとタソは再び歩き出した。


「タソさん、あそこにある黄色のピースが見えますか?」


「うん、見えるよ!きっとあれが三つめのピースね。ミドリ君取りに行ける?」


 タソは奥にある黄色のピースを見て言った。


「はい。取ってきます」


 ミドリはそう言うと、奥へと足を踏み入れて黄色に光るピースを手に入れた。


 三つめのピースをゲットした。


 ミドリとタソは他のメンバー達と合流した。


 ミドリは皆に見せつけるようにミドリのピースを突き出した。


「見てください、僕が手に入れたんです」


 ミドリは自慢げに言った。


「よくやった、ミドリ」


 フェンダーがミドリの頭をわしわしと撫でた。


 ミドリは面倒くさそうにフェンダーの手を弾く。




 ミコトは本棚の周りを捜していて、途中で一冊の資料本を手に取った。


 そこでミコトは"未来維持能力者開発組織【MODS】"と書かれている資料を見つけた。


「未来維持能力者開発組織?」


 ミコトが呟いた。


 それに気が付いたマドカが近寄ってきて言った。


「何を見ているの?」


「よくわからないが、多分なんかの資料らしい」


「ちょっと見せて」


 ミコトはマドカに本を渡した。


 マドカは真剣な顔つきでページをめくっていく。すると、"能力者の情報をお寄せください"と大きく書かれたチラシがひらりと本の隙間から落ちてきた。


 マドカはそのチラシを手に取ると、一瞬にして表情が切り替わった。


「どうかしたの?大丈夫か?」


 ミコトは心配してマドカに尋ねた。


「……え、ええ、何でもないわ」


 マドカは酷く動揺していた。しかし、それを隠してミコトに伝えた。


「この本は私が持っていてもいいかしら」


「どうして?」


「どうでもいいでしょ、少し興味があるのよ」


 マドカは何か隠していた。


「そうか」


 ミコトはその異変に気が付けなかった。




「これで、残るピースは一つか」


 ミコトがあたりを見渡す。


 しかし、部屋の隅々は既に散策してしまっていた。


「……ここには、もうどこにもありはしなさそうだ」


 ミコトはトホホと溜息をついた。


「レノ、最後のピースの秘密を教えてくれない?」


 マドカはもしかしたらと思い、レノに向かって尋ねた。


「ピー、ポポポポ……。ピース。……最後の四つめのピースは私が持っています。」


 レノが静かに答えた。


 五人は一斉にレノの方へと振り向いた。


「なに⁉」


 フェンダーが声を漏らす。


「本当に持っているのか?」


 ミコトはレノに向かって尋ねた。


「はい。皆さんが三つめのピースをゲットしたところで渡そうと思っていました。……こちらが最後のピースになります」


 レノはそう言うと、頭上から半透明なピースを生み出した。


 ミコトは溜息をついて言った。


「もっと、早く言ってくれよ」


「最後のピースはレノが持っていたのね、気が付かなかったわ」


 マドカは落ち着き払って言った。


「レノ、このピース取るわね……ありがとう、レノ」


 マドカはそう言うと、半透明なピースを手に取り、ショルダーに閉まった。


 これで、四つのピースが集まった。後はパズルを完成させるだけだ。


「扉の前に行こう」


 ミコトが合図を送り、五人は扉の前に移動した。


 まず初めにミドリが黄色のピースを型にはめた。


 ポーン。


 ピアノのような軽い音が鳴った。


 残る三つのピースはマドカが持っていた。ショルダーからピースを順に取り出していく。


 マドカが見つけた黄色のピースがはめられる。


 ポーン。


 再び音が流れた。


 次に、ミコトとフェンダーで力を合わせて手に入れたピースをはめられた。


 ポーン。


 軽やかな音が自然と頭に響いてくる。


「これで、最後ね」


 マドカが透明なピースを手に取る。


「それをはめたら、ミッションはクリアするんだよね?」


 タソがステップを踏んで扉の前に近づいた。


「多分、そのはず」


 ミコトが答えた。


「それでは、行くわよ」


 マドカは慎重にピースをはめた。


 完成したパズルが黄色く光りだした。その光は、五人の体を包んで、部屋全体を覆った。


 地震が起きた。突然の地震でミコトは意識を失った。 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る