第27話 動き始めた真実(2)


 画面に映る春樹が持っていたはずの封筒。


「えっ、ここって・・・・・・春樹の会社だよね?」

 彩香はニュースを見て、恐る恐る春樹に聞く。

「そうだよ。それにあの改ざん資料は――俺が持っていた資料だ」

 次第に春樹の目つきは変わっていく。

「えっ、改ざん資料持っていたの?」

 ショックを受けた顔で彩香は春樹を見る。

「持っていたというより・・・・・・、あの資料は事故の日、突然上司から封筒を預かったんだ。チラッとは見たけど、表紙の題名くらいしか見ていなかった。でも、あの書式とあの文書構成からみて――間違いないよ。まさか――そんな資料だったとは・・・・・・」

 春樹は信じられない顔でそう言って、ゆっくりと俯いた。

 間接的だが、持っていたという事実は改ざんに加担していたということになる。

「でも、春樹が持っていたんでしょ? なら、なんでマスコミに?」

 気が付いたように彩香は首を傾げる。

「そう――そこなんだよ。あの封筒は俺が死ぬ間際まで持っていた書類だ。それがマスコミに流れたということは――犯人が持ち去ったかもしれない」

 飛ばされた封筒を見つけ持ち去った。その可能性が非常に高い。

 何よりその封筒がその『改ざん資料』だったとしたら――? 何者かはそれを奪うために俺を突き落とした――? 春樹の中の点と点が今、線となって繋がっていく。

「それじゃあ、春樹は殺されたの?」

「――そうなるよな。あの封筒を持っていたせいで」

 あれは事故ではなく、殺人ということになる。

「それじゃあ、あの封筒をマスコミに流した人が犯人・・・・・・?」

「その可能性が高いよな」

「なら、その犯人を捕まえられれば・・・・・・?」

「――人間に戻れる?」

 春樹と彩香は目を合わせる。

 確かにその可能性は高い。


 犯人は『改ざん資料』である封筒を俺から奪うために突き落した。

 そして、その資料をマスコミ流した。


 でも――。いったい、何のために?

  春樹に疑問が残る。


 それにこの封筒を渡したのは――風間部長だ。

 

『やはり、あれを持たせるべきじゃなかったか――』


 春樹の葬儀の際、通り過ぎた風間部長の独り言を思い出す。


「まさか――。風間部長は知っていたのか?」


 あの言い方はその事実を知っていたということだ。

 その上で風間部長は俺に資料を預けた。


 どうして、俺に預けたんだ?

 春樹にはそこがどうしてもわからなかった。


「春樹・・・・・・」

 彩香は不安そうに春樹を見つめる。

「あ、ごめん、彩香」

 ハッと我に返り、春樹はいつもの表情で謝る。

 彩香に言われなければ、あと二時間くらいはこんな感じだったかもしれない。

「春樹、大丈夫?」

「ん・・・? 大丈夫って?」

 素直な顔で春樹は首を傾げる。

 その姿は飼い主に首を傾げるただの柴犬だった。

「その・・・・・・。自分が殺された理由がわかったからさ・・・・・・」

 躊躇うように彩香は俯く。

「んー、これでやっと点が繋がった気がするよ。まあ・・・、なんでこの姿になったのかはわからないけどね」

 春樹は彩香に向けて微笑む。


 自分の身に何が起きたか。

 それを知れたことだけでも大きな収穫だ。


「そうだよね・・・・・・」

 戸惑いながらも彩香はうんうんと頷く。

「とりあえず、俺なりに調べてみるよ」

 この姿でもできることはいくつかある。できることをやろう。

「その・・・・・・気を付けてね?」

 寂しそうな顔で彩香は春樹を見つめる。

「大丈夫。必ず・・・・・・。必ず戻るから」

 春樹は自身に言い聞かせるよう彩香に言った。

「わかった・・・・・・」


 こうして、彩香は職場へ行き、春樹も自身の職場へ向かった。


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