第26話 動き始めた真実(1)


 午前六時半。

 彩香の目覚まし時計のアラームで春樹は目が覚める。


 にしても、部長から預かったあの封筒の中身はなんだったのだろうか。

 それに事故の時に飛んで行ってしまったから、きっと部長に迷惑が掛かっているに違いない。


 春樹は起きて早々、小さくため息をついた。


「おはよう。彩香」

 彩香側にある時計のアラームを止め、寝ぼけ顔の彩香に声を掛ける。

「ふぁあ・・・・・・。おはよう春樹――って、なんであんた私のベッドにいるのよ」

 眠たそうに大きなあくびをして、彩香は途端に不機嫌そうな顔になる。

 寝起きの乱れた髪型は不思議と愛らしさがあった。

「えっ? 彩香が連れっていったんじゃん・・・・・・? ――覚えてない?」

 なんか俺が勝手に入ってきたみたいな言われ方である。

「そうなの? ――――覚えてないわね」

 一瞬、彩香の顔が真っ赤になったのがわかった。


 思い出したようだ。

 それでも覚えてないと言うのは、きっと恥ずかしいからだろう。


「なら、もう一度言っておくよ」

 女の子座りでベッドにいる彩香の前で春樹はおすわりをする。

「もう一度・・・・・・? なに?」

 嫌そうな顔で彩香は言う。

「――愛してるよ」

 春樹は静かに彩香に言う。


 この姿になって自然と気持ちを素直に伝えることができるようになった。

 春樹は自分の中身の変化に気づく。

 どうやら、外見だけではなく中身も大きく変わってきたようだ。


「っ! ・・・・・・私もよ」

 そう言って彩香は寄り添うように抱き着く。


 前の関係じゃないのにも関わらず、どうしてか前よりもこれが本当の自分たちのような気がした。

 きっと、それは自分たちの思いに向き合った結果だと春樹は思った。



 朝ごはんを食べる彩香の隣で春樹も朝ごはんのドッグフードを食べる。


 犬になったからか、ドッグフードが案外おいしく感じ始めていた。


 いつも通り二人で朝のテレビニュースを見ていた。

 そんな時だった。


『続いてのニュースですが、

 グレイス商事で商品の品質偽造が発覚いたしました――』

 

 朝のニュースキャスターは確かにそう言った。

 そして、一部モザイクがかかった『改ざん資料』が画面に映し出される。


 春樹は一瞬にして全身の毛が逆立つような衝撃を受けた。


「これは――」

 慌てて立ち上がり、春樹はまじまじとその画面を見る。


 多少モザイクはかかっているが間違いない――。



 ――俺が持っていた封筒の資料だ。


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