第8話 悲劇と出会い(6)
春樹が考えた、そんな時だった。
人ならざる者の気配を感じ取る。
『ん? 君は元人間かな?』
目の前には犬。
いつの間にか春樹の前にいたその犬は春樹にそう話しかけた。
犬の身体は大きく、白いもふもふとした毛並み。
おそらく、犬種は秋田犬――――だろう。
「わかるんですか・・・・・・?」
春樹は恐る恐る聞いた。
不思議と会話が成立しそうな気がする。
人間との会話は出来なかったが、犬との会話は試していなかったのだ。
それも今の今まで犬に会っていなかっただけかもしれないが。
「ああ、そうとも」
秋田犬はうんうんと笑顔で頷く。
返事の内容が成立しているということは、どうやら会話が出来ているようだ。
「えええええっ。まじですかー」
嬉しさのあまり春樹はぴょんぴょんと小さく飛んでいた。
犬生で一番嬉しい事態。
まあ、まだ半日間だけど。
「うん。だって、私――犬神だもの」
秋田犬は背中を向けて、振り向くようにそう言った。
なぜか――ドヤ顔で。
「・・・・・・」
春樹は自然と眉間にしわを寄せていた。
うーん、何というか雰囲気が――胡散臭い。
「えっ。どうして、そこ黙るの? ここはおおおっ、ってなるとこじゃないの!?」
えええっ、とでも言いそうな顔で秋田犬こと犬神はクレームをつけてくる。
「いや、そんなドヤ顔で言われても対応に困りまして・・・・・・」
なんでこの犬はこんなにドヤ顔で攻めてくるのだろうか。
「そりゃそうか・・・・・・。この姿はさすがに説得力が――無いよな」
自分の身体をまじまじと見て、犬神は納得した顔で言う。
「どうしてその姿なんです? 犬神って、なんか狛犬的なイメージが」
犬神と言うと、そっちの姿のイメージが強い。
「んー、なんでだろう? 狛犬っぽいから?」
「それは――色だけでは」
春樹は即座にツッコミを入れる。
「まあ、そうかもしれないね。――で、どうしたの?」
「どうしたの、と言いますと?」
「人間が犬になるなんて、珍しいなと思ってさ」
「それは俺が聞きたいですよ」
「――お? 自分でなりたくてなったわけじゃない・・・・・・? 夢のワンダフルライフを送りたいとかじゃなくて?」
「なんですか、その夢のワンダフルライフって」
やはり、どこか胡散臭い。
「ドリームワンダフルライフ。まさに――私のような生活さ」
「・・・・・・」
「おい、何で黙るんだね」
眉間にしわを寄せ、犬神は解せない顔をする。
「いや、ドリーム要素ゼロじゃないですか」
「――確かに」
納得するなよ、犬神。
しかも、真顔で。
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