第13話(終)

 かつて高い科学技術を有しているも、一夜にも満たない時間でたった1人に制圧されたある国家は全面降伏以外の選択肢が取れないほどに追い詰められていた。また降伏したところで別の生存圏にとって、疲弊した組織程付け入る隙が多分にある瞬間は無く、絶滅か隷属化されるのは時間の問題となっていた。そんな状態で当の国家は事実上の身売りである外交交渉を打診した。持ち得るすべての技術を提示する代わりに安全保障を確約してもらうというものであった。当初は交渉にすらならないと考えられていたが、一部内容に加筆ことであっさりと合意が交わされた。

 そして連合国家ミルスクはASF傘下の生存圏として星ごと新天地に移動し、再スタートを切った。政府も一新され、新政府の最初の仕事は謝罪から始まった。クーデターが秘密裏に実施されていた事実と彼らがASFに攻撃を加えたことが原因で政府が崩壊した2点が国民に初めて公表された。新政府の役職者の多くはクーデター前の政府側にいた人々であり、クーデターを許してしまったことや1歩間違えば暗い未来がお訪れてしまっていたかもしれないという不甲斐なさに関することであった。政府からの緊急速報が流れたと思えば情報が渋滞しすぎており、ミルスク国民は大いに混乱した。ただこれまでと変わらない生活の保障と後日改めて詳細を公表する旨が伝えられ、暴動や治安の不安定化までには発展せず衝撃のニュースという範疇に収まった。

 これらの事実は政府の力で揉み消すことやあやふやにすることも可能であったが、ミルスク新政府はこちらの想像以上に国民を想っているらしい。すでにASFから復興支援と終戦合意に基づいた対外駐在官が派遣され、共生の道を歩み始めていた。また国を示すエンブレムもかつて使用されていたものから中心部が青く、花弁が白色のアネモネに変更された。新エンブレムをあしらった旗が街中に掲げられ、風に触れられそよめいていた。

 いつまでもこの景色が変わらないように願い、変えさせられないように努める決意を胸にグラスは踵を返した。遠くない将来にまた聴きに来ることを楽しみとして。

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