第12.5話

 規模や部隊数、本拠地が謎に包まれているASFには尾ひれが付いたり、そもそも的外れな噂や憶測が付いて回っていた。その大半が本当であるならどんな悪酔いも覚めるような冗談であってほしい程のものであった。その中で聖天に関するものは一周回って酒の肴になる代物であった。


・死を冒涜するプリペアー

・単騎で籠城戦と反撃戦を行える攻守のバランスブレイカー

・現実を伴うイマジナー

・撓みを操り挙動を予知させないインファイター

・空間を歪めるスピードホルダー

・大量破壊兵器級武装を手掛けるスミス

・我が道を貫くエレクトロルーラー

・認識を陶酔させるセンスキラー

・存在が存在しないセキューター

                     ・・・・・・・


そんな化け物達の1席に名を連ねるグラスはミルスクからASFの拠点へと帰還していた。ミルスクの後始末を後続部隊に任せ、報告と今度の処遇について協議するため聖天間での場を設けたいとチャットを飛ばすと、全員とはいかないまでも参加の旨が返ってきた。

聖天会議とも呼ばれるASFの最高戦力が一堂に会する本場ではASFの方針や重要事項が決定されている。   

・・・・と言われているが実際定期的に近況報告などが行われている場であり、通信や魔法によっていつでも顔を見合うことはできるが、気軽に声や顔を合わせられるようになるほど直接会いたくなるもので、聖天会議は会議という名の直接会うための口実というのが聖天同士の暗黙の了解となっていた。ただこの真実を知らない部外者からはわざわざ顔を見合わせて話し合うほどの内容だとか実際重要案件が決められた際には本会議が最終決定を下すため、本会議よりも前に決定事項となっていても聖天会議が直接決定したと見なされ、結果として根も葉もない噂を生む要因となってしまっていた。

 そんなグラスはとある一室の前にいた。ここにくるまでに視線が合えば距離を取られ、陰からチラチラと見られるばかりの日陰者扱いを受けていたが気にも留めず扉をくぐった。扉をくぐる前後では景色が大きく違っていた。くぐる前はある程度の広さを持った部屋であったが、くぐった後のグラスは

厳密にいえば室内だが室内とは思えない様相だった。天井、もとい空は海面を映したかのような表面は淡く、深くなるにつれて濃い滄溟な空がゆらいでいた。目線を下げると雪と思うような白色の草が地面を覆い、点々と花々が咲き誇る。白色の地面世界の花々は花の色が一層引き立てられると同時に、草や茎の緑も引き立てられ花の存在が際立っていた。そんな浮世離れな風景を横目に進んでいくと薄氷のような台座と椅子が見えてきた。すでに何人か座っており、グラスを視認すると各々な反応を示していた。

「主催者が最後に登場するのはお決まりな展開だけど実際体験すると待たされてる感が釈然としないの!!」

グラスが座る横から非難の声が上がった。

「いきなりを使ってくる人に言われたくわないかな。」

グラスはジト目を飛ばしつつ反論した。

「相っ変わらず相思相愛なお二人ね~、クロとグラスは。」

対岸から茶々が飛んだ。その張本人は二人の否定の言葉に「どうだかねぇ~」と揶揄い口調でニヤニヤしていた。

「テクモもそれくらいにしないと何のための集まりか分からなくなりますよ。」

場の軌道修正のためにルリィが口を出し、恒例行事もそこそこに会議が開始された。

今回会議に出席したのはグラスを含めた


・第一特務 ルリィ・クーパー 

・第二特務 テクモ・シュガー 

・第4翼  グラス・チェレスタ 

・第5翼  クロ・アルハ

                               計4名だった。


 会議はグラスの報告から始まり、今回の事件の経緯及び顛末、今後の方針が話し合われた。会議はつつがなく進行しミルスクは暫定措置としてASFの隷下として扱い、事態の収束をみてミルスク側の代表者と協議したうえで同盟を結ぶかどうかを判断すると結実した。ミルスクに甘すぎるのではと意見も出たが、提供された情報や技術を鑑みたことや当事者グラスの進言も合わさり、4人の総意として結論付けられた。

ミルスク関する一連の話がまとまると、主題はグラスへと移っていった。特に縛りプレイという名の鍛錬を終えたグラスの実力が如何ほどなのかと注目が集まると、

「なら今度私の部隊との模擬戦闘データ上げとくからそれで判断して頂戴」と否定の意味を込めて答えた。グラス以外の3人、とりわけテクモとクロは今すぐにでもと好戦的な表情をしており、先回りで釘を刺され口を尖らせてグラスに向けて文句を垂れ流していた。

「ところで参加を意気込みそうな2人は?」

「オンレとノインのこと? ノインなら涎垂らしながら提供された技術を漁ってたよ。オンレは涎垂らしながら寝てたね。」

グラスの問いかけにクロが呆れながらに答えた。

「ノインが起きたらまず間違いなく「試させてもらうニャ」と言って切りかかってくるぞ~。あいつ最近持て余してたから。」

4人ともグラスが刃を振り回されながら追われる姿が即座に浮かび、グラスはため息を3人は笑みを零した。


「グラス少し良いかしら。」

会議終了後、クロとテクモがそれぞれの持ち場に戻った後グラスはルリィに引き留められた。

「会議では言えないようなこと?」

グラスの問いにルリィは頷いた。

「あなた、ミルスクでは劇場を出た後は軍本部に向かったのですよね?」

「途中で足止めはされたけどね」

「あなたが軍本部に到着したのと同時刻に、別の基地が襲撃されていたようよ。ここからが重要なのだけどあなたと全く同じ魔法を使っていたわ。しかも性質や出力だけでなく痕跡も報告ではあなたのものだったそうよ。」

グラスは怪訝そうな非常を浮かべた。ルリィが嘘を言う訳がない。そもそも嘘をついたところで何のメリットもない。しかし私ではない私が別の場所で行動していた。そして一番のネックは

「死んだ後の私の魔法を再現していたんだよね?」

この1点が不可解だった。自分のそっくりさんが自分とは別の場所に存在することはよくあり、そっくりさんを仕立て上げ悪事を働くことでプロパガンダに利用するのはフェイクニュースとして常用されてきたし、したこともある。しかし今回は訳が違う。

「以前の私の痕跡ならいたずらの範疇だけど、自分で言うのもアレだけど蘇生直後で以前とは性質も出力も大幅に飛躍した私を瞬時にマネするなんて不可能だよ」

「確かに普通の分析とかでは無理だと思うわ。でもあなたの攻撃を直接受けていたとしたらそれが不可能ではない可能性があるわ。グラス、あなたが直接手を下した相手は全員死亡したのは確認した?」

「それはもちろん全員殺したは・・ず・・!?」

グラスは1人だけ確証のない人物が思い当たった。それはグラスに向かって突撃を行い狙撃のための死角を作った兵士だった。

「私が死ぬ原因となったあの兵士! 蹴り飛ばした後すぐ狙撃で死んじゃってて確認が取れてない。でも実力が今と死ぬ前だったし、そもそも殺す気の蹴りだったからいくら今と死ぬ前で実力が雲泥の差だったとしても殺し損ねは無いはず。」

グラスの指摘は真っ当だった。グラスは縛りプレイ中は聖天内で最弱であったが、あくまでも聖天内での話であり、ただの兵士ごときがまぐれで生き残れるほど生易しい弱さをしていない。

「グラスあくまで仮定の話なのだけど、」

ルリィは考えたくないある推測を口にした。

「もしその兵士がだったとしたら辻褄が全て合うわ。フォーの実力をもってすれば死ぬ前のあなたの攻撃から本当の実力をコピーすることも可能だろうし、襲撃した理由も私たちが得た情報や技術を独自に得るためだったと理解できるわ。」

グラスとルリィの表情が曇る。もしこの仮定の話を会議中に出していれば間違いなく紛糾していただろう。フォーという名前を出すだけでも空気が変わるのに、本案件に関与している可能性があるとなれば事態は聖天全員揃えての会議が必要となってくる。

「まだ調査中だから断定できないけど、当事者のあなたには伝えないといけないから。」

ルリィはそう言い部屋を後にした。するはずだった。

ルリィとグラスの視線の先にソレはいた。即座に臨戦態勢へと移行したルリィとグラスを前にソレは不敵に微笑むと影が消えるかのように居なくなった。

2人だけとなった空間でルリィとグラスはしばらくの間臨戦態勢を解くことが出来なかった。

           

        かつて天翼に反旗を翻し、弓を引いた反逆者。

           ルリィとグラスの

           

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る