第11話
ルリィとの談笑を終えたグラスの前は地獄の様相だった。通話中も続々と送り込まれてくる敵を容易く往なしていたグラスの周囲は死屍累々と化していた。また増援回数が増えるにつれて敵の装備や火力の苛烈さが増していた。航空機によるアウトレンジ爆撃や化学兵器、外骨格スーツを纏った特殊部隊の投入など、他の生存圏へ侵攻を行うかのような大規模な部隊運用がグラスに仕向けられていた。しかしそれら全てグラスをその場から動かすことさえできずにいた。爆撃を敢行した航空機は、投下した爆弾を返送される形で撃墜。化学兵器を一瞬で無力化され、特殊部隊に至っては、何もさせてもらえずにグラスの魔法に貫かれていた。
肩透かしも甚だしい中、グラスは周囲に展開していた部隊が引いていくの感知した。敵の通信を傍受しているグラスは、新たな兵器がこちらに向かっており、それがミルスク軍の切り札ということを盗み聞いていた。
敵部隊が引き切った直後、それは高速でグラスの元に複数殺到した。体躯は5M程の巨体でヒト型のような見た目をした機械兵器。脚部の無限軌道が唸りのような音を上げ、グラスの身長を優に超えるブレードや重火器がこちらを捉えていた。
「切り札にしてはインパクトに欠けるんだけど」
グラスは何度目かの肩透かしを食らっていた。
魔法が兵器として本格運用されるようになって機械戦力は大きく後塵を拝していた。魔法を扱う歩兵が容易く戦車などを撃破し、従来歩兵がもつ機動性の高さは魔法により大きく飛躍し、歩兵のみでの進軍や侵攻が出来てしまうほどであった。また部隊編成が歩兵に統一されることによって、補給や兵站構築が効率化され燃料切れなどを無視した進軍を可能とし、侵攻限界線は想定を困難とするほど伸びることとなった。その結果兵器の岐路に立たされた機械戦力は攻撃目標を魔法を扱う歩兵へとシフトしていった。これまでは高火力を用いて相手を早く殲滅することに重点を置かれていたが、魔法を無力化しつつ手数で魔法防御を突破することに重点が置かれるようになった。
そして現在、グラスの目の前に現れた機体群はその進化の到達点の一つであった。先ほどから攻撃を開始していた機械兵器の攻勢を受けきっていたグラスは、並行して振動魔法で機械兵器の破壊を目論んでいたが全く効果が出ているようには見えなかった。
「確認する方が早いかな。」
1機に目標を定めたグラスは地面を抉りながら疾走した。あらゆる方向からの攻撃を容易く躱し、回避行動を取ろうとしていた当該機の胸部にソッと触れた。一拍置いて触れられた当該機は胸部部分がごっそりと崩壊していた。この手の機械兵器が破壊された際に僚機や随伴機が取りうる手段やその予兆がないことに、グラスはうっすらと感じていた疑念が疑惑へと変わった。機械兵器から絶え間なく続く攻撃を、グラスは円状に覆う障壁で防ぎながら動かなくなった機械兵器を調査した。
「リンクはしてるけど搭乗してた形跡も無ければ、スペースも無しか。」
破壊された当該機の残骸からグラスは1つの可能性に行き着いた。この手の兵器は正確な操作を行う必要性から、搭乗員が必須であることが世の理であった。しかし目の前の兵器たちは恐らく搭乗員が存在していない。それでありながらそのことを感じさせない反応速度や正確性を持っていた。
「面白い手土産がひとつ増えたね。」
ルンルン顔の友人を思い浮かべつつ、グラスは魔法を放った。
これまでと変わらない振動魔法であったが、出力をほんのりと上乗せしていた。魔力を液体で例えることはないないが、気持ち一滴分の魔力を加えた放たれた振動魔法は大気を奔流させ、地形を転変させた。
この時投入された機械兵器は指揮機・支援機含め総勢14機であり、そしてその全てが無人機かつ遠隔操縦型であろうと後の調査で推定された。断定されたのは当該機械兵器の設計図や資料が接収されてからであった。理由としてグラスが相対した14機含む計2508機全てが原型を留めない形で産廃物そのものと化してしまっていたためであった。またそれらを操っていたオペレーター、966名も例外なく消されており確証が得られなかったためである。
後に聖女と謳われるグラスであるが、力が絶対的な生存方法であるこの世界において
敵対した者に慈悲を与えるような曖昧なやさしさは持ち合わせていなかった。
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