第3.5話
「今度の公演か?それとも・・」
視線を上げてみると普段とは違う雰囲気の人物がそこに立っていた。
「やっぱり演奏会についてか」
こちらが答えるよりも早くその人物は
「期待はしてないけどな」
グラスは刹那ともいえる速さの身のこなしに驚くことなく、寂しさを滲ませた。
「それなのに足繫く通うのだろ?」
「期待していないからといってその通りになるとは限らないからね。それに想定をいい意味で裏切られたときの興奮を味わってしまうとやめられないものだよ。オンレ」
オンレと呼ばれた人物は「確かに、そうだな」と恐らくつい先ほどまで繰り広げられていたであろう手ほどきを思い出しながら納得した様子であった。
オンレはグラスたちが所属している組織でも随一の戦闘能力があり、戦闘全般の指南役を務めている。そんなオンレであるが常に眠たそうにしており、ヘニャっている姿が多々目撃されていることから本来あるべき権威などは無いに等しい。ただ例外的にその片鱗を見せる瞬間がある。それが、
「扱きがいのある子でもいたの?」
グラスの問いかけにオンレは「少しな」と笑みを見せた。オンレはしばしば部下たちにあらゆる戦闘術を実戦形式で指導しているが、その指導中と後は人が変わったかのような変貌を遂げる。重たそうな瞼は開き、背筋が伸びることで普段の幼さ残る印象から大人びたものとなり、興奮の高まりから口調も力強くなっている。普段とのギャップに加え、特に指導後では色香が強まり、見慣れているはずのグラスでも中てられそうになっていた。
「ただ不完全燃焼気味でな。欲求不満なんだ、相手してもらっていいか。期待を裏切ってくれるんだろう?」
オンレはグラスを真っすぐ見つめ言い放った。
「こちらも楽しませていただきますよ」
グラスもオンレを見つめ返した。
両者立場上前線よりも内地で情報分析を行うことが多く、部下への指導では全力とは程遠い出力を小出しするため、目一杯を出せず燻っている状態だった。そんな中で唯一の解消法がハイレベルな者同士とのぶつかり合いであり、オンレはよく自身が直接指導を行っている保有部隊と模擬戦を行っていた。それでも全力には遠く及ばない。それはグラスも同じであった。そうなってしまうと残る手段は1つだけであり、聖天と呼ばれる組織の中でも13人の最高戦力同士での憂さ晴らししかない。しかしそれぞれの職務等によってそのような時間の確保が難しく、手合わせは稀有となっていた。だが部下相手にできない高度な駆け引きや戦術の試用と実戦以上の成果が得られることがあり、聖天間では貴重な機会として重宝されている。
(今度は刃を表せてもらうよ)
荒れ地が確定となる模擬戦舞台に向かう途中、グラスは怪しげにほほ笑んだ。組織最強の中距離インファイターを前にグラスは鬱勃たる闘志が全身を包んでいた。
グラスもまたオンレに負けず劣らずの
オンレ及びグラス両名による無許可相対に関する報告書作成に同行した者のメモ
真面目に書く気が失せるほどの荒廃っぷりであり、冷酷とまで称させるほど深沈なルリィ様が頭痛を伴うほどであった。(個人的にルリィ様の貴重な一面が視れてチョーラッキーでした(^_-)-☆)そのあまりの荒れようから「敵地で模擬戦を行えば勝手にモロモロ解決してくれそうね」と半ギレぎみで仰った。(その顔も以下略・・・)
ただそれほどまでの被害を出してもまだ全力の5割程度というのだから寒気が走る。同行した者の中には残留する魔法痕によってダウンする者が結構な割合でいたため、直接魔法を感知してしまったらと考えるとゾッとしてしまう。(なんとかしてこの魔法痕を持ち出せればこの後お楽しみに使えそう・・)
この先は本人のプライバシーが過多含まれていたため規制対象
執筆者 クラム・モーディ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます