第3話
クロッサンドラ劇場
ミルスクの第一都市であるユーバン近郊に建てられた総合劇場。その圧倒的な外観から観光名所とも知られており、芸術性の高さから劇場内部は一般開放されるほどとなっている。多種多様な演目に対応した演出が可能となっており、付近に軍の関係施設があることから軍の音楽部隊の御用達ともなっている。
クロッサンドラ劇場が眼前に聳え立ち、その姿形に周囲の人々は様々なリアクションやアクションを取る中、グラスは平然と建物へと歩みを進めていた。今のグラスは素晴らしいと思われる景色が何も見えていないからである。瞼を閉じているというわけではない。グラスは自分自身の瞳に盲目となる魔法を行使していた。グラスにとって音楽は個性溢れる 「音」 による総合芸術で、音は奏者ごとに見せ方を変えると考えていた。そして音の個性は繊細で先入観などによって埋没してしまうため、音本来の個性を見るためにグラスは音楽を聴きに行く際には必ずこの魔法を使用していた。また受付などどうしても視力が必要とされる際には、視界のほぼすべてが白色に見える魔法を行使するなど、情報取得に関して必要最小限に定めている。この魔法開発にあたり相談を受けた同僚からは「こんな不利益しかない魔法を欲しがるのは君くらいだよ」と半ば飽きられていた。しかしそれほどまでにグラスは音楽に真摯に向き合っているという証左であり、「今日はどんな音が聞けるだろうか」と凛とした顔立ちがわずかに柔らかな色に染まっていた。まるで子供がプレゼントを開ける瞬間のような純粋さを伴って。
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