第16話大会初戦

大会初日になった。適正魔法では新しい魔法を学ぶことはなかったが、基礎魔法ではいくつか新しい魔法学んだ。ルーズはここ最近少しだけ自信に満ちた顔をしている。俺も筋力はそこそこついたし、魔法の斬り方もわかってきた。念のために今まで使っていた杖は右の腰に着いたベルトにしまっている。引き締まってさらにイケメンになったというわけだ。この世界じゃ美男美女ばっかでそんな差はないが。

トーナメント表は前日に張り出されている。俺、ルーズ、レオスは同じ枠に分けられている。具体的に言えば、ルーズとレオスが一回戦目で当たり、もし俺が一回戦目を勝てれば、どちらかとぶつかる。エマとイレーナは反対側に配置されてる。当たるなら決勝というわけだ。


「バンには悪いけど、レオス王子との戦うチャンスは与えないよ。僕が勝つから」

「それはそれで楽しみだな。レオス王子に勝ったルーズに勝てばどっちにも勝ったようなものだろ」

「そうかも。行ってくる」


ルーズの試合を俺は見ることができない。その裏で俺も試合がある。一回戦目はBクラスのミント・ディーチェ。特段噂を耳にするようなやつではない。俺のスタイルが通じるかどうかのデビュー戦だ。

大会会場はもちろんイベント室。入学式では体育館のような空間だったが、今は円形のスタジアムと観客席になっている。俺もルーズの試合も観客は多いだろう。ルーズの方は王子が試合を行ってるし、俺は王子とためを張るくらい知名度が高い。人気はないけどな。歴代最弱の大会参戦と聞いたら少しだけ見る気がおこるだろ。

軽く準備運動をしてスタジアムに足を入れる。土で平らに作られたステージの正面に立つのはミント。何属性の使い手なのかもわからないが、身長は高く、杖を高く持ち上げて、右足を前にして体を斜めにして構えている。イベント室の中央天井にはどでかい立方体のモニターが俺らを映し出している。


「さーB会場一試合目ミント・ディーチェとバン・ルシウスの試合が間もなく始まりまります。実況は放送サークル二年カレン・フロウト解説はAクラス担任のセシル先生がお送りします。選手情報について軽く紹介します。ミント選手は課外授業ダンジョン攻略では四層まで到着です。相対した二年生曰くいわ突破力のあるスピードタイプだそうです。バン選手も同じく四層までの到着、相対した二年生曰く魔法を利用した突飛な発想力で状況を変化させる思考タイプだそうです。そうですねーこの試合はミント選手が一気にけりをつけるか、それともバン選手が耐え忍び長期戦に持ち込めるかといったところですかね、セシル先生」

「それが一般的な解釈になるでしょう。ただ、一筋縄ではこの大会はいきません」

「それもそうですね。ああーそれと試合が始まると外の声は聞こえなくなりますので選手のお二人は頑張ってくださいね!試合を開始しましょうーではスタート」


スタートの言葉を合図したかのようにスタジアムが一瞬で変形した。地面に凹凸が生まれて、直線上にいたミントの姿も見えなくなった。よく見ると、この土の素材も変わっている。岩のステージってわけか。ガウル先生の言っていた魔法具の巣窟ってのはこういうことか。落ち着いてやるべきことを整理しよう。まずは、刀を抜いて周りを見渡す。形も大きさも違う岩たちがランダムに配置されている。先の見える最長の距離は十メートルほど。岩を登ってミントを探そう。索敵が最優先だ。


岩にできた影を利用して足場を作って登った。岩の上にはミントの姿は見えない。この時点でほぼ岩属性の可能性は消えた。突破力があるなら突っ込んでくるはずだ。注意深く見渡すと動く人影が視界に入った。こちらに気がついて向かってきている。上をとれてる以上こちらが有利だ。直線距離でおよそ五十メートル。魔法を放ってくる可能性もある。

直線距離にしておよそ十メートルこちらまで最短距離で詰めてきたミントは動きを止めて、岩陰に身を隠した。ここまで距離が詰まったなら刀で接近戦を仕掛けたほうが有利だろう。隠れているだろう岩陰に向かって飛び込む。するとミントは行動を見越したかのように岩から後ろに大きく一歩バックステップをした。それと同時に杖を中心に風が弓矢を形作って矢を引く動作を同時に行った。発射した風の矢を間一髪刀を振って断ちきる。とっさの行動にバランスを崩して、着地に失敗する。その隙にミントはこちらとの距離を詰めてきている。


「ウインド」


小さい頃に見た少年たちの魔法とは明らかに威力の違うウインドがバンの体に命中する。ウインドによって飛ばされ岩に背中を強打させられ、一瞬呼吸ができなくなった。

ミントの追撃は止まらない。風の矢を既に発射している。


「プロテクト」


すんでのところで呼吸のリズムを崩しながら守った。ミントは追撃をやめ、上空に向けて弓を構えている。


「スカイアロー」


ミントが魔法を唱えると矢は上空へと放たれ、その数は何十へと増やる。そして勢いよく降り注ぐ。俺はすぐに反応して自分の影を自身の上に広げで守りをつくる。しかし、いくつかの矢は影を貫通して体をかすっていく。顔や腕に熱くヒリっとした痛みが走る。矢が止んだことを確認して影をとく。すでにミントは大きな風の矢をつくり放ったあとだ。今までよりも速く大きい矢が襲う。一瞬の判断で刀の柄と切先の前あたりをつかんで刀に影を纏わせる。矢は防いだが、風が拡散して体の肉を抉る。

素早い、次々の猛攻に完全に後れをとっている。焦って詰めた判断を悔やむ。けど、もう策は打っている。ミントを突如後ろから影が襲う。俺はミントの後ろにある岩の影の支配に一つ意識をさいていた。

ミントは弓状態を解除してすぐにプロテクトを唱えた。猛攻が一瞬でも止まれば、隙は生まれる。すぐに間合いを詰めて影を纏わせた刀を振る。ミントはとっさに周囲の風で刀の勢いを殺そうとした。想定内だ。体の重心を下げて腰を横に捻る。体重移動を乗せて脇腹目掛けて刀を振る。本来の刀であれば体を深く斬りすぎてしまうが、纏わせてある影か切れ味を抑えて衝撃へと変換させる。ミントの体が横に少しだけ飛んで、地面に倒れこむ。もう立ち上がることはできないようだ。


「試合終了です。勝者バン・ルシウス選手だ~」


ステージのギミックは解除されて元の形に戻った。歓声を受けながら会場を出ると張り出されたトーナメント表の文字が動く。ミント・ディーチェと書かれた文字にバツがつけられ、バン・ルシウスと書かれた上にある対戦表の線が赤く上に上がり、次の相手の線とぶつかる。レオス・フレイム。ルーズは負けたてしまったようだ。

突如担架を担ぐ人が通った。その上にはボロボロになったルーズが横になっていた。


「ルーズ……」

「君のルームメイトゴミみたいに弱かったよ。手加減したつもりだったんだけど」


レオスはルーズを馬鹿にするように笑って俺の肩に手を置いた。


「君もだいぶ怪我をしたみたいだね、勘弁してくれよ。満身創痍な相手をぼこしたら虐めてるみたいじゃないか」

「レオス!」

「いいのかい?お友達のお見舞いは」


愉快そうに大きな声で笑ってレオスはその場から消えた。

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