第17話友の声を聞いて

ルーズがいるであろう救護室に向かった。こういう時ワープできるのは便利だ。


「救護の先生ルーズは大丈夫ですか」

「ああ安心してくれ、そもそもこの大会じゃ治らない怪我はありえないから」

「そうでした」

「君も怪我してるね、テーピングでも巻こう。大丈夫薬じゃないからルール内だよ。こっちに来てくれ」


テーピングや包帯、絆創膏はこの世界でも意外と普及している。それは魔法の使えない平民にとって必要だったからだ。もちろん簡単な治癒ならば、安価で受けることができるが、小さな怪我ならわざわざ受けずに絆創膏で自然治癒をはかるし、緊急ならばとりあえずの止血などに使うため需要がそこそこある。

救護の先生は体のあちこちに張ったり、巻いたりしながら視線を落とし口を開いた。


「体の方はどれだけでも治せる。でもね、心の傷はそう簡単に治せない」

「ルーズのことですか」

「君にとっては彼だろうね、この大会後はやめる生徒も少なくない。ついてきた自信が他者によって慢心だと気づかされる。かける言葉慎重になった方がいいよ」


救護の先生がルーズの場所から少し離れたところでやったのはこのことを言いたかったからか。そうだな。言葉選びは気をつけないければ。ルーズが横になるベットの隣に立った。ルーズは体を横に倒したまま俺の顔を見た。


「バン、君は勝ったんだね」

「なんとか、勝てたよ」

「僕はね、本気で勝てると思ってたわけじゃないんだ。レオス王子はずっと天才だと言われてきていたし、実力の差があることもわかってた。でもさ、悔しいじゃないか自分が最も優位な植物のステージで何もできなかったなんて。自分のもてるすべての手を使っても全部通じなくて、少しもダメージを与えられなかった。僕だって、ここ一か月必死に努力してきた。放課後だって先生に教えてもらって、褒めてもらえたことだってあったのに。結局才能だった。悔しいんだ、情けないんだ。せめてもの戦いの傷もきれいになくなって僕は何を思えばいいんだよ、教えてくれよ……」


ルーズは嗚咽を必死にこらえようとして、涙を見せまいと、体を反対に向けた。

かけられた毛布にしがみついて、顔を埋めている。今は一人にしてやるべきだ。

それにかける言葉を俺は持ち合わせていない。

俺は静かにその場を離れようとした。


「バン……レオスに勝ってくれ、頼む……」

「ああ、勝さ」


目頭が熱くなったのを感じる。俺は絶対に勝たないといけない。こいつの本気を嘲笑ったレオスが許せない。扉を荒っぽく開けて、会場に戻った。

他のブロックも着々と進んでいる。各ブロックの期待の選手として画面に挙げられているのはAブロックはレオス・フレイム。Bブロックはエマ・フォカロルとイレーナ・アルレヒド。Cブロックはアルカナ・ブレンス。Dブロックはサラとなっている。CブロックとDブロックの注目選手は知らない。Dブロックのサラには家名がない、多分平民出身ということだろう。

いや、今はそんなことはどうでもいい。レオスに勝つそれだけだ。

俺とレオスの試合は前回と同じく、B会場。念入りに準備運動を始める。傷口の痛みを感じながらもスタジアムに足を運ぶ。実況席に座る二年生が声をあげる。


「さーAブロックはまたしても注目の対戦カードだ。一試合目では圧倒的な実力でノーダメージ突破を果たしたレオス・フレイム選手だ。もう一方は一回戦では激しい攻撃を見事に受けきり、逆転勝利したバン・ルシウス選手だ。」


観客席には人がぎっしりと集まっている。これもレオスがいるからだろう。実況は注目の対戦カードと持ち上げていたがそれは激しい試合を期待してではない。天才と非才の試合だからだ。


「セシル先生的にはやはりバン選手を応援していますか」

「私はどちらも応援しています。そこに差はないですが、正直言ってバン君には棄権を進めたいですね」

「やはり、天才には勝てないと」

「いえ、時期早々というだけです。一試合目で使っていた特殊な武器。まだ完璧に扱えてはいないように見えました」

「なるほど、私はあの武器を見たことないですが、何ですかね。これはバン選手に聞きましょう」


画面の映像がズームして俺の顔がアップで映される。


「この武器はクサナギです。刀でありながら杖としての要素をもつ唯一無二の武器です」

「刀ですか、なるほどーたしかに教科書で見たことのある形をしていますね」

「私も実物を見たのはあれが初めてです。遠くから見ても素晴らしい出来だとわかります」

「これはバン選手の勝機も見えてきたのではないでしょうか。ではそろそろ試合を行います」


映像が離れて、音を拾わなくなる。するとレオスはため息をついて、残念そうな目でこちらを見てきた。


「君さなんでその武器のネタばらしなんてしたのさ。俺は知らなかったし、黙っておけばよかったのに」

「黙れよ、レオス。俺は勝つぞ」

「実況の言葉本気にしちゃったのか、あんなの試合を盛り上げるためのでまかせだよ。踊らされるな番犬が」

「番犬とかくだらないこと言うなよ。エマのストーカーが」

「しゃしゃるな。負け犬と同じ目に合わせてやるよ」

「ルーズのこと言ってんのかお前」

「名実ともにだろ、知能の低い犬どもがペアだと、部屋が獣くさそうだ」

「潰してやるよ」

「こっちのセリフだ」


実況のスタートの合図が聞こえた。その瞬間空間が大きく変化する。スタジアムが洞窟のように暗くなり、胸くらいの高さの遮蔽物が出てきた。お互いが微妙に見えるくらいの暗さだ。闇属性有利スタジアム。この有利なステージなら勝てる。

天才と非才ぴりつく二人の間で試合が開始された。

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